銀行の定期異動ルール撤廃と就活・金融機関でのキャリアパスへの影響について

1. 銀行の定期異動ルール撤廃。金融庁は監督指針を今秋にも見直しへ

2019年8月15日のヤフトピ記事からだが、銀行の定期異動ルールが撤廃される見通しだ。
監督当局である金融庁もこれに向けて監督指針を今秋にも見直しをするという。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6333467

2. 何故、このタイミングで銀行の定期異動ルールを撤廃するのか

銀行員は転勤が多いというイメージが定着しているという。
確かに、2~3年位の周期で、銀行員は異動をすることが慣習化している。

この根拠としては、こちらの記事にもあるような、銀行の融資担当者と顧客との不正な癒着くによる不正防止とか、銀行員の気分転換・ガス抜き的な行事として行われてきていた。

それでは、何故、今になって銀行の定期異動ルールを廃止しようというのだろうか?
大義名分としては、中小企業の円滑な事業承継や個人顧客の資産形成サポートのための長期的信頼関係の醸成といった、顧客視点での理由が挙げられている。

しかし、銀行員は本音が別のところにあることは直ぐにわかるだろう。
答えは、リテール部門の合理化・効率化だ。少子高齢化、東京一極集中に伴う地方経済の疲弊化に伴い、銀行の地方のリテール部門の将来的な見通しは厳しい。

そういった環境下、銀行の経費の大きな部分を占める人件費を抑制しようというニーズがあり、地方のリテール業務については転勤がない地域限定社員の割合を増やすことによって経費削減につなげようという狙いがある。

3. エリア総合職というポジションは既にあるが…

銀行は近年、エリア総合職という転勤がない総合職のポジションを用意し、新卒段階から別採用としている。もっとも、エリア総合職は一般職に近く、実際、対象者のほとんどが女性である。

ところが、定期異動ルールが撤廃されると、給与水準の高い総合職社員についても地域限定社員を当てることができるようになる。

4. 銀行の定期異動ルール撤廃に伴う、就活への中長期的な影響

①銀行の新卒採用における多様化の推進

定期異動ルールが撤廃され、地方のリテール部門については総合職も地域限定で採用することが可能となる。

そうなると、従来のように総合職を一括採用して、そこから地方に振り向ける必要性はなくなる。そして、地域限定総合職の割合が増えると人件費にも余裕ができるようになるので、エリートである専門職採用の枠を拡げたり、くら寿司とかNECのように他の新卒よりは高い初任給を設定することが出来る。

同じ銀行においても、エリートである専門職、普通の総合職、そして地域限定総合職という風に新卒採用が多様化していくのである。

専門職については、高めの初任給が用意される可能性が十分にある。
メガバンクとかであれば、外銀の様に1000万円の初任給を用意しなくても、600万円位の初任給を用意すれば相当人気がでるのではないだろうか?

さらに、600万円というような一定価格にしなくても、600~800万円というレンジを設けると更に面白くなる。

メガバンクで初任給800万円、30代だと年収2000万円位も期待できそうだ。そうなると、リスク面やワークライフバランスなどを考慮すると、外銀を蹴ってメガバンクという、従来では考えられなかったケースも出て来るだろう。

店舗・人材の余剰感とかフィンテックにとって代わられるとかで、急激に人気が落ちたと言われるメガバンクであるが、新卒採用を多様化すると、エリートコースには大量のトップ就活生が向かうようになるだろう。

②他の業種に対する影響

銀行、特にメガバンクの就活市場における存在感は非常に高い。
昔からエリート企業の典型とされ、かつ、大量に採用するからである。
バブル期においても、銀行が動くと街から学生が消えるとまで言われた存在だ。
今日でも、東大、早慶、MARCHの就職者数ランキングを見ても、メガバンク3行がトップ10に入っているので、ここの新卒採用が変化すると、就活市場全体に大きな影響を与えるだろう。

例えば、もし一定数の初任給の高い専門職コースを設けると、少ないポジションにトップ就活生が殺到する。そして、専門職コースと地域限定総合職を除いた一般的な総合職は、従来よりも募集人数が大幅に減るであろうから、難易度は今より高まる可能性がある。

また、銀行の行動は他の金融機関への影響度が高いため、生損保や証券会社も似たような対応を取るだろう。
既に、証券会社のIBDとかグローバル・マーケッツ限定の専門職採用については、外銀に準じた狭き門になっている。銀行がこれに割って入って来るとなると、証券会社とか大手生損保も更に新卒採用の多様化を推進する可能性がる。

そうなってくると、総合商社とか大手マスコミでさえも、うかうかできなくなる可能性がある。初任給800万円のメガバンクの方が、配属先がわからない初任給450万円の三菱商事や三井物産よりいいという学生も出て来るだろう。

とにかく、銀行は採用数が多く、影響力が高いので、ここが新卒採用制度をいじると、他業界への影響は大きいと考えられる。

③銀行内の行員のヒエラルキーが進みそうだが、米国ではとっくにそうなっている

銀行が同じ行員でありながら、職種によって待遇を大きく変えると、行員のヒエラルキー化が進んでしまう。

しかし、必ずしもそれが問題だというわけではない。既に金融先進国のアメリカにおいては、金融機関内部のヒエラルキーは顕著である。Tellerと言われる一般的な銀行の店舗の事務員は、日本でいうと派遣社員のような待遇である。日本の銀行の一般職の方が給与水準は遥かに高い。

また、反対に、ハーバードとかコロンビアMBAを取得して中途採用される銀行員は、リテール業務に配属されることはあり得ず、マーケット系とか財務・企画系のポジションに就いて、年俸も管理職(VP)クラスだと数千万円レベルである。

日本の銀行のトータルの人件費は将来減っていくのだろうが、給与格差は拡大していくのではないだろうか?

4. 就職人気ランキング・就職偏差値の形骸化

銀行の新卒採用が多様化し、他業界が追随すると、日本全体の就活市場は様変わりするかも知れない。

企業の名前よりも、それ以上に職種とか初任給の金額が重要なファクターになってくると、どこの会社から内定をもらったからだけでは優劣は付けられない。

そうなると、就職人気ランキングとか就職偏差値といった、企業名だけで優劣或いは就活の成否を判断するようなことはあまり意味がなくなり、形骸化していくのではないだろうか。

就職人気ランキングというのは新卒一括採用、そして、新卒の採用条件は基本的に皆同じという日本固有の事情があるから存在しているだけで、もともと外国にはそういったランキングは見られない。

終身雇用の廃止とも相俟って、日本の人材マーケットは、欧米化していくのだろうか。

5. 就活生への影響

①入学するとすぐに自分の進路を考えないといけなくなる?

経団連の就活ルールは2020/3卒で終了となるので、これからはますます就活の早期化が進むと言われている。

さらに、新卒採用の多様化というと聞こえがいいかも知れないが、新卒採用条件の差別化が進捗すると、ますます就活で頑張らないと逆転が難しくなる。
今でも事実上はそうかも知れないが、職種別採用のようなものが浸透すると、入社してからの逆転は相当厳しくなってしまう。

就活の段階でよいポジションを得ないと、転職でもしない限り、その企業で浮上するのが難しくなる。また、最初からいいポジションで入れないと、転職する場合においても条件的に厳しくなってしまう。

そういうことを考えると、大学入学してから将来のことをゆっくりと悠長に考えている余裕はなく、早めに意思決定をして就活対策を採らなければならなくなってしまう。

②大学の就職予備校化?

就職は学生にとって非常に重要な問題であるので、少子化の流れの中で優秀な学生を確保するために、大学は生き残りをかけて就活対策に熱心に取り組んでいる。

例えば、MARCHの場合も、明治大学の施策が有名だが、どこも大変手厚い就活のサポートを実行している。

しかし、就活時期が前倒しされ、職種別・コース別採用が進んでいくと、それをサポートしていく大学側の負担も大きくなる。

職種別・コース別対策に備えて、英語、プログラミング、会計、マーケティングといったサポートまで提供するようになると、大学の就職予備校化という非難を受けるかも知れない。

最後に

経団連の就活ルールの廃止、新卒採用の多様化、終身雇用の廃止、金融庁の貯金2000万円問題、副業の緩和、フリーランスへの注目といった日本の雇用の変化に関する話題が、元号の変わり目に一気に登場してきた。

日本は横並び意識の強い同質的な社会であるので、長年変わらなかったことも、動き出すと一気に変わってしまうことも考えられる。

それが望ましいかどうかは別にして、就職というのは各人にとって重要な問題であるから、乗り遅れないように上手く対応していきたいところである。

これからは、下手をすると、高校生くらいの段階で就活を意識するようになるかも知れない。