ヘッジファンド(運用会社)とAI運用

1. 人よりもAIの方が運用が上手い?

先日、ヘッジファンドにいる元同僚と会った。
そこは複数のタイプの運用を手掛けているタイプのヘッジファンドなのだが、最近はなかなか運用で儲けられていないと嘆いていた。

<ヘッジファンドも運用で儲けるのは簡単ではないという話>
https://career21.jp/2019-08-07-100718

ヘッジファンドの場合は、運用成果に連動する成功報酬がメイン収益であるので、運用成果が出ないと全社員のボーナス原資が減ってしまうのだ。

ただ、その中で、AIによる運用は好調で、人(ポートフォリオ・マネージャー)よりも今のところ運用成績がいいのだという。

最近では、個人投資家対象の公募の投資信託でも「AI」を組み込んだ運用プロセスを謳ったものが散見されるが、ヘッジファンドでも本当にAIを運用に取り入れているのだなあと思った。

2. しかし、そもそも「AI」を使った運用とは何か?

①クオンツ運用と何が違うのか?

しかし、運用業界にいる人間も、AIによる運用とは何かについて正確に理解できる人はほとんどいないのではないか?株のポートフォリオ・マネージャーなどは、AI以前にITを駆使した運用に詳しいわけでもない。

運用業界で、AIとかITというと、クオンツ運用を思い浮かべる人が多いだろう。
クオンツ運用とは、高度な数学・統計学を駆使して、市場データや企業財務データをコンピューターが分析して用いる運用手法をいう。

クオンツ運用という言葉が浸透してきたのは、1980年代のいわゆるバブル期位からで、1990年代のデリバティブの発展と相俟って、拡がっていった。
金融工学という言葉が使われるようになったのもその頃であろう。

クオンツ運用の可能性は、コンピューターの性能やソフトウエアの性能向上に伴い、拡がってきたのではあるが、AIを加えると質的に異なる進化が可能なのかよくわからないところである。

②AIによって新たにできるようになったこと

AIというとディープラーニング(深層学習)であり、今世間で言われているAIはほとんどディープラーニングのことを意味しているという専門家もいる。

そして、ディープラーニングで大きく変わったことというと、画像認識と自然言語処理だ。
これによって、運用の世界でも分析の対象がマクロ経済統計、証券価格データ、企業財務データという数値的なものだけでなく、画像や文字情報にまで拡げることができたという。

運用の世界で使う画像データは何かというと、天気図とか衛星社員とか位置情報などがあるそうだ。例えば、気候に関する画像データを分析対象とすると、農作物の収穫状況に関する情報が把握でき、商品価格の予想に活用できるというものだ。

文字情報の例だと、アナリストレポートの文章部分を把握できるようになるので、従来行われていた定量的な分析ではなく、定性的な分析も可能となる。

また、これはディープラーニングと直接関係あるかどうかは良くわからないが、ビッグデータの分析能力の向上というのも、運用における分析手法の高度化に寄与すると考えられている。これはプログラミング手法だけでなく、PCの物的な処理能力の向上とも関連するところであるが、従来は分析対象とならなかった情報でも、片っ端から分析対象とすることによって新たな投資上のヒントを見つけてくれる可能性があるという。

ある運用会社の場合には、運用成績の良いポートフォリオ・マネージャーと運用成績の悪かったポートフォリオ・マネージャーに関する数値情報、文字情報等を片っ端からデータ分析に掛けて、成功パターンを投資成果を向上させていたりするという。

③しかし、結局はAIの使い方次第であって、AIを使えば全てうまく行くとは限らない

以上のように、既にAIとかビッグデータ的なスキルは、運用会社で既に実用化されているようだ。

もっとも、決まった使い方とかベストプラクティスといったものが存在するわけではない。そういったものがあれば、ファイナンスの教科書にあるように、いずれ皆に知れ渡って超過リターンというのを上げることができなくなってしまう。

結局、独自にAI、ビッグデータを駆使して、どういったデータの活用が有効かということを人間が試した上で、成功したりしなかったりするわけである。

従って、「AI」というのが運用プロセスに加わっているかどうかだけで判断するのは賢明ではなく、その内容と運用成果(パフォーマンス)を検証しなければいけないのは従来通りだ。

もっとも、AIという新たなツールが加わることによって、一気に成功を収めて表舞台に登場してくるヘッジファンドが出て来るかも知れない。

3. 将来、運用業界でも1番稼げるのはAIエンジニア?

現在も将来も、AIに全てを任せて優れた運用成果を実現するという訳には行かないだろう。結局、人間がアイデアを思いつき、試行錯誤する必要がある。

もっとも、AIを始めとするテクノロジーが進展すればするほど、運用の世界におけるテクノロジーの比率が高まっていくだろう。そうなると、運用に関する知識や経験ではなく、AIプログラミングとか、ビッグデータ分析能力に掛かる専門性の方がコアスキルになっていくかも知れない。

そうなると、AIプログラミング能力に長けた20代くらいの若者の方が、40代の熟練のポートフォリオ・マネージャーよりも重宝され、高額の報酬をもらえる可能性があるのだ。

その場合、ますます優れたAIエンジニアが運用業界に参入してきて、従来型の運用の専門家は業界から凌駕されてしまうかも知れない。

さらに、そうなってくると、個人の問題だけでなく、運用会社レベルで見ても、IT業界から運用業に参入してくることも考えられる。

将来はGAFAがヘッジファンドを始めたりすると、既存の運用業界は勝てないかも知れない。運用をするには、IT以外の専門家も必要となるのだが、そういった人材は高額な報酬で引き抜けばいいだけなのだ。

以上のように考えると、有能なAIエンジニアの将来は明るく、ただでさえ人手不足なのに、運用業界までもが参入するとなるとますます年収レベルは高騰していくだろう。

最後に

金融業界においては、既に高度なIT/AI周りのテクノロジーが導入されているのだが、直接の関係者以外の大部分の役職員は、そちら関係に極めて疎い。

今までのところ、金融業界におけるIT部門のステータスは低く、契約社員とかのステータスでしか採用されないスタッフも多かった。外銀でも一般のIT社員の年収は1000万円程度であり、VP位でようやく2000~3000万円で、IBDやグローバル・マーケッツのトップのような年収1億なんて夢のまた夢であった。

しかし、金融機関のスキルというのは似たり寄ったりで、規模とかブランド名を除くとやっていることは大して違わない。しかし、IT周りについては企業間の能力差が開く可能性があり、そうなると、IT系のプロフェッショナルが勝ち組になるかも知れない。

財務モデリングというと、大層難しいことをやっているようには見えるが、中学生の数学レベルもあれば誰でもできてしまうコモディティスキルである。

高学歴英語堪能なIBDのバンカー達も、これからは、AI、プログラミングといった分野に強くならないと取り残されてしまうかも知れない。