1. 外資系金融からベンチャー企業CFOというのは格好良く思える?
外資系金融は、リーマンショック以降、なかなか景気のいい話は多くなく、国内におけるポジションも減ってきている。
したがって、外資系金融からベンチャー企業CFOに転身し、IPOが成功裏に終わった場合には、華麗なる転身となり、外銀の若手からすると憧れのポジションに見えるかも知れない。
<外資系金融からベンチャー企業CFOへの転身事例>
https://keyplayers.jp/archives/12467/
2. しかし、魅力的なベンチャー企業CFOのポジションはそれ程多くは無い
上記のリンクで紹介されているような、メルカリ、マネーフォワード、HEROZあたりはIPO前から注目されていた、いわば別格のベンチャー企業である。
当然、このようなベンチャー企業の数はそう多くはない。
そもそも、ベンチャー企業というのは失敗するのが大半であり、ベンチャー投資の専門家であるVCも「1勝9敗でOK」と考えている程である。
メガベンチャー企業のIPOは華々しく報じられるので、ハロー効果が強く、ベンチャーCFOのポジションに就くこと≒成功したも同然と楽観視する若手の外銀バンカーもいるかも知れない。
このため、転職エージェントを使うにしても、自らウォンテッドリーで応募するにしても、それほど魅力的な企業のCFOポジションは見つからないはずだ。
また、仮にそのようなポジションがあったとしても、外資系金融出身者が優先して採用されるとは限らない。ベンチャー企業の創業者はファイナンス周りに詳しいとは限らないので、CFOは単に会計ができればいいと考えて普通の銀行員を採用したり、或いは、IPOというと監査法人出身者の方がいいだろうということで公認会計士を採用するかも知れないからだ。
このため、外資系金融の先輩達の華々しい成功事例を見て、ベンチャーCFOを目指そうとしても、それほど簡単では無いということを認識する必要はあるだろう。
3. 仮にベンチャーCFOに就いても乗り越えなければならない3つの壁
外資系金融の者が、ベンチャー企業のCFOに憧れて、それなりの企業のCFOポジションを見つけたとしよう。
しかし、実はそこからが大変で、少なくとも3つの乗り越えなければならない壁があるのだ。
①先ず、生活できるか?
外資系金融であれば、入社4~5年目の若手(アソシエイト)でも、基本給は1200~1500万円に加えて300~800万円位のボーナスはあるだろう。年収でいうと約2000万円程度だ。
ところが、ベンチャー企業に行くと、例えCFOポジションであったとしても、キャッシュベースでの年収は1000万円に届かないことが多い。1000万円のところで、心理的な壁があるようで、最終的には900万円位に落ち着くことが多い。
もちろん、ボーナスなど無い。あるのは、入社時にもらえたストック・オプションだけである。
そうなると、年収は半分以下になるので、住居費の節約のために引っ越しをしないといけないし、ミシュラン☆付の飲食店にはほとんど行けなくなってしまうし、タクシーとかの無駄遣いもできなくなってしまう。
したがって、贅沢志向の強い外資系金融マンの場合には、倹約生活のストレスが強く耐えられなくなるかも知れない。
質素倹約が苦手な外資系金融マンは、この点、よく考えた方がいい。
②次に、IPOまで待てるか?
いざ、ベンチャー企業に入社すると、楽しみなのはストック・オプションである。
但し、行使ができるのは2年後というのが多いパターンだ。
そうすると、少なくとも2年間は上記①の生活に耐えなければならないわけだが、IPOというのは何時できるのか保証の限りではない。相場環境にも左右されるし、ベンチャー企業の規模が大きければ大きいほど、何らかの事情で予定通りにIPOが進まないケースの方が多い。
そうなると、3年、4年と経過しても、まだIPOに至らずストック・オプションを行使できないままの状態となる。
外資系金融の人間は短気な人が多いので、長い間じっと我慢して待って入られるかどうかはよくわからない。
③そして、同僚や部下は外資系金融のように優秀とは限らない
ベンチャー企業の場合、雇用条件が厳しいので、外資系金融のような優秀な人達を採用することは難しい。CXOポジションの場合には、ストック・オプションが付いてくる場合もあるが、一般社員レベルだとそういうものが無い場合も多い。
そうすると、同僚とか部下は外資益金融の様に優秀な人を採れないので、外資系金融のレベルを期待していると大間違いである。
外資系金融出身者であればハードワークになれているのだが、周りが自分の思ったように動いてくれない場合には、ストレスが貯まりやすくなる。
ベンチャー企業CFOを検討するに当たっては、こういった点にも留意する必要があるだろう。
以上のような壁を乗り越えて、IPOが成功すれば、まとまった金額(5000万円~2億円?)を手にして、成功したベンチャー企業CFOという栄誉を手にすることができるのである。
4. ベンチャー企業での失敗は勲章にはならないと考えた方がいい
上記のような苦労はあるものの、とにかく成功すればハッピーである。
しかし、ベンチャー企業の場合は失敗する方が多いということに留意する必要がある。
失敗した場合にはどうすれば良いだろうか?
この場合には、外資系金融或いは国内系金融での好ポジションへの復帰は難しいと考えた方が良い。
ベンチャー企業にいた間のキャリアは、金融プロフェッショナルとしてのキャリアが途絶えるだけである。
「金融機関の人間が持ちえない、大変な経験ができて凄いですね」という評価などしてもらえるはずがない。ベンチャー企業での失敗経験は勲章になるはずもなく、単なるレジュメ上の汚点となるだけである。
実際、2000年前後の第1次インターネットバブルの頃や、リーマンショック前の第2次インターネットバブルの時には、外資や国内系金融機関のエリートがベンチャー企業に行って、失敗したケースが数多くあったが、その大半は単なるキャリアダウンの結果となっている。
条件が転職前よりも下がったとしても、金融機関に復帰できればまだいい方である。今だと、年齢にもよるが、金融機関に復帰できるかは保証の限りではない。
従って、ベンチャー企業CFOを目指すのはいいが、失敗した場合のリカバリープランを考えておく必要がある。
外資系金融からベンチャー企業に行くといってもCFOであれば、プログラミング能力、Webマーケティング能力、新規事業開発能力を習得できるわけではない。
従って、ベンチャー企業に行っても、意外と新たに習得できる専門スキルは無く、キャリアの幅が拡がるわけでは無いことに留意すべきである。
5. 隣の花は赤い…、しかし、金融キャリアを捨てない方が無難だ
せっかく苦労して外資系金融から内定をもらい、激務を耐えて、年収2000万円に到達し、VPになれば更に年収はアップする。
ところが、外資系金融機関も上のポストは詰まり気味であるし、これからは頑張っても、SVP(Director)で年収5000万円になったとしても、何歳まで働けるかわからないという不安はあるだろう。
そうした状況下、全く別のベンチャー業界に転出して、ストック・オプションによって多額のキャッシュを手にすることが出来た人の事例を見ると、自分もそちらの途を目指してみたくなる気持ちはわかる。
しかし。それは上記の通り長い道のりだし、リスクも高い。
せっかく頑張って、外資系金融でのキャリアも成功できそうなところまで来たのであれば、そのまま金融キャリアを継続した方が無難であろう。
仮に、VPに昇格できる自信がないというのであれば、まず検討すべきは国内系金融機関であろう。そうすると年収は外資系金融よりは大幅に下がるが、30代で1500~1600万円位の年俸水準は可能であるし、ワークライフバランスも良い。
また、どうしてもベンチャーに行きたくなれば、国内系金融を挟んでからでも可能性はある。そのあたりを十分検討してからベンチャーCFOの途を選択した方がいいだろう。
最後に:ベンチャーに興味があれば外コンを選択した方がいいのでは?
これは、就活段階での話であるが、将来ベンチャー企業に行きたいという気持ちが強いのであれば、外銀よりも外コンに就職すべきであろう。
CFOというのはあくまでも管理的なポジションであるし、ポジション数も限られている。それに対して、コンサルであれば、経営戦略とかマーケティング戦略に直接食い込むことができるので、可能性のあるポジションも多いからだ。
外銀と外コンというのは全く異なる業種・職種であるが、超ハイスペック就活生は両方とも内定を得ることができるようなので、ベンチャーが好きなら、外コンを選択したいところだ。