1. ビジネスセンスや専門性が就活段階でも求められるようになった?
20世紀の就活においては、英語、資格、専門スキル、企業分析能力等はほとんど求められず、リクルーター制度に基づき、OB訪問で話が合えば決まりというパターンであった。
総合商社やグローバル・メーカーであっても、学生時代の英語力は特に求められず、会社に入ってから鍛えればOKという感覚であった。
また、当時はESとかGDといったものは一切存在しなかったので、志望先企業や業界ですら特に調べる必要は無く、就活対象企業のビジネスモデルだとか収益状況などは学習しなかった。
ところが、21世紀に入ると、事情が全く異なった。
英語が出来ないと、商社は勿論、人気企業では事実上門前払いをされてしまう可能性が高い。
また、志望動機等がESの定番になったので、企業研究も行わない訳には行かない。
少子高齢化に伴い日本の市場規模が縮小し、また、電機業界等、日本企業の世界におけるプレゼンスが低下してきている。そうした中、企業側としては悠長に新入社員をゼロから鍛える余裕がなくなり、専門性・スキルのある学生、よく勉強する学生を求めるようになってきている。
このため、従来は求められなかったビジネスセンスも就活において試されるようになってきているのだ。
2. 将来は、就活時点の専門性・スキルによって、入社時点での待遇が異なる可能性も
入社時点での専門性・スキルを重視することに伴い、専門性やスキルが他の新卒採用者よりも明らかに上の場合には、初任給等の待遇も差別化してもらえる場合も生じてきている。
AI等を中心とする高度なプログラミング能力を有する学生に対する高額初任給の提供は、DeNAやメルカリのようなネット系ベンチャー企業だけではなく、ソニーやNECのような伝統的な日本企業も採用するようになった。
また、英語力を中心としたグローバル・リーダーシップを有する学生に対しては、破格の初任給を提供する、くら寿司とかユニクロ(ファースト・リテイリング)のようなケースも出てきている。
こういった中途採用の様な新卒採用を実施する企業はまだまだ少数であるが、将来一気に浸透する可能性もある。人事部門はある意味官僚的な部署であるので、同業他社、特に業界リーダー的な企業が導入すれば追随せざるを得ないからだ。
従って、高度なプログラミング能力とか、英語力を始めとするグローバル・リーダーシップ経験を有する学生は、企業名だけでなく、新卒としての採用条件までも考慮した上で企業選びができるようになるという優位性を持ち得るだろう。
3. プログラミング、英語以外に重宝される専門スキルとしての会計
プログラミング、英語が得意な学生は新卒採用において有利であることは既に知られている。それでは、これら以外に習得しておけば有利なスキルは何があるだろうか?
それについては、会計スキルの普遍性が高いと考えられる。
財務経理部門が無い会社というのはないので、会計スキルは汎用性が極めて高い。
また、管理会計が強いと、予算管理・経営管理という観点から、人気の経営企画部系でも力を発揮できる可能性がある。
既に、外銀とか国内系金融機関の専門職(IBD、リサーチ、グローバル・マーケッツ)採用においては、簿記2級、証券アナリスト(CMA)、USCPAといった資格の取得や同内容の学習が求められている。
今後は、それ以外での業界においても、会計スキルが問われる、或いは、会計スキルがあれば採用において優遇される機会が拡がる可能性がある。
経済・商学部系の専門スキルだと、マーケティング・スキルというのもある。また、P&G、ネスレ、ユニリーバといったグローバル消費財メーカーではマーケティング専門職についての部門別採用も実施されている。
しかし、マーケティングというのは広範な概念であり、業界を問わず普遍的に通用するスキルを習得することは難しい。また、簿記2級とか証券アナリストの1次試験のように、資格を以てアピールするということが難しい。
単に、「学生時代にマーケティングを一生懸命勉強しました」というだけでは武器になり得ないだろうから、会計の方が手堅く使用できるスキルであろう。
また、法律については、法科大学院制度が出来てしまい、また、弁護士数が急増してしまった。今では、法務部長は非弁護士の人達が大半だが、弁護士は有資格者を好むので、将来社内弁護士が法務部長のポジションを占めるようになると、弁護士資格が無い者は冷や飯を食わされるリスクが高い。従って、法律を武器としたいのであれば、法科大学院に行くなり、予備試験を突破するなりして、弁護士資格を取ることが望ましい。
4. 会計を専門スキルとするための留意点
学生時代に会計周りを十分に勉強することは就活のためにプラスであることは間違いないであろうが、それだけで人気企業から内定をもらえるとは限らないことに留意しなければならない。
英語に抵抗感がなく、経済的に短期でも留学できる機会があれば、英語力を併せて磨いておくべきである。
また、英語は好きでは無いし、グローバル系のポジションにも全く興味が無いというのであれば、例え文系であったとしても、プログラミング・スクールに通うというのは有用である。プログラマーを目指さないにしても、世の中の大企業の管理職のオジサン達は、とにかくITとかネットとか、SNSによる情報発信が苦手であるので、十分に評価してもらえる可能性はある。
さらに、大学の起業サークルに入って遊びのようなレベルでも起業をしてみると、いろいろと学べることは多い。或いは、ベンチャー系企業で長期のアルバイトをしてベンチャー企業や起業家を知ってみることも重要である。
会計分野だけを勉強していても実践的では無いので、実際のビジネスの現場に入ってみればモチベーションアップにもつながるし、より深い理解が可能となる。
従って、会計以外の専門スキルも並行して学習すべきである。
5. 公認会計士試験、税理士試験との関係
会計学科で就活のために会計分野を勉強していると、将来は会計プロフェッショナルとして公認会計士や税理士資格を取得したいと考えるようになっても不思議ではない。
しかし、ここで注意すべきは、会計系の資格取得を目指すのか、就活をメインとするのかはっきりさせておくことだ。
一旦会計系の資格取得の途に走ると、英語、企業研究、就活対策といった他のことをやる余裕がなくなってしまう。そうなると、人気企業への就職というのが難しくなってしまう。
他方、公認会計士や税理士といった資格は難易度が高いので、就活に力を入れると、当然在学中の合格は不可能に近く、留年或いは既卒での会計資格浪人になってしまう。
このあたり、どっちつかずにならないように、どちらかの途にフォーカスすることが重要だ。
迷った場合には、就活にフォーカスする方が手堅いやり方であろう。
特に公認会計士の場合は、今でも合格率が10%程度の超難関なので、合格できない可能性が高い。結局、資格試験は学力のみの勝負であるので、自分の大学入試の状況を鑑みて、冷静に判断すべきだろう。
他方、税理士の場合は社会人になってから資格取得に挑戦する人も多いので、一旦就職をしてからでも、どうしても税理士になりたければそちらに転向することは可能である。
いずれにせよ、公認会計士や税理士は難関だし、合格という結果が出ないと悲惨な結果になってしまうので、挑戦するのならばかなりの覚悟が必要だ。
6. 会計学科がある大学について
経営学部や商学部系であれば、何かしら会計系の科目を学習することは可能だ。
しかし、「会計学科」という名前が付いた学科に入った方が、会計分野を勉強するモチベーションにはなるはずだ。
また、会計学科という独立した学科が設置されるということは、それなりの充実したカリキュラムが用意されているはずだ。
会計学科という独立した学科まで用意されている大学は、思った程は多くない。
首都圏でメジャーなところでは、明治大学商学部、中央大学商学部、日本大学商学部、専修大学商学部あたりである。なお、明治の場合は、厳密には会計学科とは呼ばずに「アカウンティングコース」という呼び名である。
https://www.meiji.ac.jp/shogaku/course/accounting.html
関西だと、近畿大学経営学部に会計学科がある模様である。
もっとも、公認会計士試験において一定数の合格者を輩出している大学であれば、会計学科という独立した学科が無くても気にする必要は無いだろう。