序. 外資系金融の給与水準は高くても、国内系よりはリスクが高い
外資系金融は就活生の間では最難関の業種の1つであるし、既卒の金融マンの間でも外資系金融機関で働くことは一つのステイタスであり、憧れであったりするだろう。
確かに、外資系金融機関の給与水準は圧倒的に国内系よりも高いし、また、グローバルな金融プロフェッショナルという面において、カッコ良く見えるかも知れない。
しかし、リターンが高いということは、その分リスクも高いというのが世の常であり、華やかに見える外資系金融機関も、リストラとかクビになる場合も珍しくなく、就職や転職に当たってはその負の側面についても目を向けておいた方がいい。
そして、中には、明らかに向いていないにも関わらず、深く考えずに外資系金融の世界に入ってきて、失敗するパターンがあるので、今回は、外資系金融からリストラされ易かったり、或いは外資系金融に向いていない人の特徴について考えてみたい。
1. 相場観が無い人
外資系金融と言うのは、相場、グローバル経済に大きく影響を受ける。
その人の能力やパフォーマンスに関わらず、市況が良く、大儲けできる環境にあれば、多額の給料/ボーナスを享受できることは珍しくない。
もちろん、逆も然りで、いくら頑張っても、グローバルマクロ環境が悪く本社の収益が低調だったり、或いは、親会社がコンプライアンス違反で多額の罰金を食らうと、ボーナス原資が飛んでしまうこともある。
もちろん、これは「運」の要素で個人の力ではどうすることもできないかも知れないが、ある程度の相場観を持っておく必要がある。ある程度の相場観を持つことによって、外資系金融の世界に入るタイミング、或いは、外資系金融間で転職するタイミング、更には、外資系金融から国内系金融機関や事業会社に転職するタイミングを適切化できる場合はある。
相場環境を当てるということは不可能なのだが、それでも、相場観のいい人と悪い人はいる。
相場というのは常に上がりっぱなしということは無いし、反対に、下がりっぱなしということもない。
従って、相場観が悪い人というのは、自分の頭で考えることなく、他人の成功事例を追いかけて後追いで最後に入って来るタイプである。同様に、他人の失敗事例を見ると自信を失い、リスクを避けようとするタイプである。
この手のタイプの人は、景況感が天井の時に外資系金融に入ってきて、真っ先にリストラされがちである。反対に、景況感が悪い時に魅力のあるオファーがあっても、怖くて断るタイプである。
実際、リーマンショック(2008年9月)のあった年の前半に、国内系企業から外資系金融に参入してくる人達が結構いたが、リーマンショックによって、多くの人達が1年も持たずにリストラされてしまった。
当時は少なくとも、各社4割位はリストラされたのであるが、後から入ってきた人達程、実績も作れないし、上層部とのコネクションも作れる時間は無い。従って、後から入ってきた人達程リストラ耐性は弱いのである。
反対に、1997~1998年の金融危機、不良債権問題の時期というのは大変金融業界の先行きは暗かったのであるが、そのタイミングで外資系金融とかハゲタカファンドに思い切って転職した国内系金融マンは、不良債権とか不動産とかで一儲けできたし、また、2000年前後の第1次インターネットバブルの恩恵を被ることができた。
他方、景況感の不安から、外資系に行くのが怖く銀行に残った人達は、儲けるタイミングを失った。
常に順バリより逆バリの方がいいとは言えないところが市況ビジネスの難しいところであるが、順バリ的な発想しかできない人は、外資系金融には向いていないのではないだろうか。
2. 上から可愛がられないタイプの人
これは勘違いしている人が多いのだが、外資系金融の方が国内系金融よりも遥かにトップダウン型で、上司の力が強い。外資系というと、上下隔てなく、フラットな組織を想像する人もいるかも知れないが、それは、ネットベンチャー等の一部である。
コンサバな外資系金融業界においては、直属の上司(国内)とレポーティングラインである海外の上司の評価が全てで、国内系金融機関のように人事部とか、横の部署の人達が助けてはくれない。
また、国内系金融機関であれば、直属の上司から嫌われても(上司或いは自分が)人事異動で別の部署に行ける可能性があるが、外資系金融機関の場合には転勤という制度は基本的には無い。
従って、直属の上司から嫌われても逃げ場が無いのが外資系企業の特徴なのだ。
このため、優秀だったとしても、直属の上司に反抗的だったり、非協力的だったりして、直属の上司から嫌われてしまうと、昇格とかボーナスの査定は回ってこない。
下手をすると、直属の上司と海外のレポーティングラインである上司とが結託すれば、簡単にクビになってしまうのだ。
優秀だからといって、KYなタイプとか上に気遣いができないタイプは外資系で生き残ることは難しい。横の部署の人とか、同僚・部下たちが助けてくれるとは考えない方がいい。
反対に、国内系企業と比べると、小さくてシンプルな組織だし、人事部が評価に関与しないので、直属の上司から気に入られると簡単に出世できるケースも少なくない。
「自分は腕一本で生きていける。上司に媚びる必要などない!」というタイプの人は気を付けた方がいい。
3. 英語が弱い人
外資系金融で英語が全くできない人というのは基本的に存在しない。
少し前までは、IBDの目論見書・有価証券届出書等のドキュメンテーション専任者や、IPO専任者で英語が全くできない人もちらほらいたが、今ではほとんどいないだろう。
いたとしても、余程のジュニアポジションを除けば、海外の上司が英語が出来ない人は嫌うので、そもそも転職しにくくなっている。
他方、英語は話せるが、英語が「弱い」人達は当然いる。
ここで英語が「弱い」とは2つの意味がある。
1つ目は、単純に英語力が不十分であるということ。
2つ目は、英語力はあっても、プレゼンテーション能力が低く、何を言っているかが伝わりにくい人である。
実際、外資系金融において、問題となるのは2つ目のケースである。
外資系金融の場合は、上になればなるほど、親会社のレポーティングライン上の外国人の上司から評価される必要がある。
そのためには、本社の外国人と直接コミュニケーションを取って、評価してもらう必要がある。その際に、本社の上司が希望することを察知して、適切に対応する必要があるわけで、そのためには、外国人の上司の気持ちを適切に察知し、適切に回答できる能力が必要なのである。
プレゼンテーション能力というよりも、もう少し広く、英語でのコミュニケーション能力という言い方の方が適切かも知れない。
本来、コミュニケーション能力が低いと、外資系金融にはなかなか入社することは出来ないのであるが、中途採用となると、この能力がイマイチでも転職できるケースはある。
しかし、上になればなるほど、英語でのコミュニケーション能力が求められるようになる。
ここで求められるのはコミュニケーション能力であるので、英語力はそれ程高くは無いが、コミュニケーション能力が高いと十分通用する。
就活段階から、英語日本語を問わず、コミュニケーション能力というのは高めておきたいところだ。
4. 情報収集能力に欠ける人
外資系金融機関において、生き残るためには上手く転職をしていくことが必要となる。
ずっと1社でMDまでなれれば良いが、上司が変わったり、会社や当該部門が傾いたりすると、転職を余儀なくされることがあるので、転職の失敗によってキャリアを潰さないようにする必要がある。
外資系金融機関の転職の場合には、転職エージェントの情報だけではなく、実際の転職対象企業そのもの、及び当該部署の上司、同僚について実態を把握しておく必要がある。
外資系金融は狭い世界なので、同じ職種においては同業他社の状況についてお互いに知っていることが多い。どこの部署の誰々さんはいい人だとか、どこそこの誰々さんはパワハラで部下を片っ端から追い出すので止めた方がいいという情報は共有されている。
しかし、中には情報に疎い人がいて、ブラック企業、ブラック部署、ブラック上司として業界内では知られているにも関わらず、転職エージェントの言うことのみをうのみにして転職して失敗するというケースが散見される。
金融機関は情報産業であるので、情報に疎い人は失敗しやすいものである。業界の噂とかには全然興味が無いというのは、自慢できることでは無いのだ。
5. お金に興味が無い、欲があまりない
最後は精神論的であるが、お金に興味が無い人、欲が無い人は外資系金融には向かない。
外資系金融は厳しい競争の世界であり、ある程度能力の高い人達が必死の想いで成功のために凌ぎを削る世界である。
能力差があまりない人達の間での競争であるので、最後に勝つのは精神力である。
そうなると、お金に執着が無い人達はそこまで頑張らないので、最後には競争に負けてしまうということである。
お金以外の、安全性、安定性、雰囲気においては国内系金融機関の方が優れている。
国内系企業であるので、めったなことではクビやリストラは出来ないし、仮にクビやリストラの場合には、基本給の数年分にも及ぶ手厚い割増退職金が支払われる。
また、上司との人間関係が悪かったとしても、転勤という秘密兵器があるため、逃れることができる。
何が何でも収益を上げなければクビだという厳しいプレッシャーがあるわけではない無いので、雰囲気的にも国内系金融機関の方がまったりしている。
従って、お金に興味が余りない人は、元上司とか同僚から誘われたとしても国内系金融機関に残る方が賢明ではないだろうか?
最後に
終身雇用の廃止というのは、長期的に見ると、国内系金融機関も無縁とは言えないだろう。
そうなると、就活の段階では外資系金融機関には興味が無くても、国内系金融機関で一定の職務経験とスキルを習得すると、途中で外資系金融機関への転職にも興味を持つようになるかも知れない。
それ自体は結構なことではあるが、リスクという点においては外資系の方が国内系よりも遥かに高いと思われるので、能力だけでなく、上記のような特性、向き不向きについても慎重に考慮した方がいいだろう。