1. 2019.8.5号のAERAが「人気企業100社が選んだ大学」を特集
AERAの2019.8.5号は、50大学「採用者数」徹底調査が特集記事である。ここでは、2019年3月の卒業生を対象とした、人気企業100社の大学別採用者数を発表している。
なお、基本的に採用側である企業は大学別の採用者数を公表してくれないので、AERAの集計は大学通信の調査や、大学の公表分、「東京大学新聞」「京都大学新聞」等をソースとして独自に集計している。
従って、ある程度の誤差はあるかも知れないが、大体のトレンドは知るには問題は無さそうである。
また、総合職と一般職については言及が無いので、両方合わせた数字が多いのではないかと思料される。
2. 大学の就職力を知るには、三菱商事の採用者数と順位を見れば十分?
就職の善し悪しというのは、単純には決められないというのがタテマエである。
それは、文系と理系の違いがあるし、業種の違いもあるし、時代による変遷もある。そして、何といっても、選択をする学生の価値観という主観に根差したものであるからだ。
しかし、現実的には、就職偏差値とか就職人気ランキングというのは就活生だけではなく、部外者も気にする非常に関心度の高い情報だ。
くら寿司の年収1000万円のように、新卒でも給与差をつける企業が増えれば変わるかも知れないが、一律同一条件での採用がほとんどの現状においては、厳然として就活における偏差値的なものは無視できないだろう。
<くら寿司の新卒年収1000万円とキャリアについて>
https://career21.jp/2019-06-03-094906/
東大や早慶の学生においては、外銀・外コン・総合商社が三大人気企業であり、総合商社の中では明確に三菱商事がナンバー1の地位にあるようだ。
三菱商事は、外銀や外コンの内定を持って行って別枠で採用されるコースもある程、突出した存在なのである。
<トップ就活生における総合商社の序列について>
https://career21.jp/2019-03-24-074220/
マッキンゼーとかゴールドマン・サックスの採用者数でも大学の就職力を測ることは可能なのだろうが、母集団が小さいのと、採用者のデータが取りにくいので、三菱商事の大学別採用者というのが最もわかりやすい指標となるだろう。
3. 2019/3卒業生対象の三菱商事の大学別採用者数ランキング
前置きが長くなったが、2019/3卒対象の三菱商事への就職者数ランキングは以下の通りである。
順位 | 大学名 | 就職者数 |
1 | 慶應 | 29 |
2 | 東大 | 19 |
3 | 早稲田 | 17 |
4 | 一橋 | 7 |
5 | 京都 | 6 |
6 | 大阪 | 4 |
7 | 九州 | 3 |
神戸 | 3 | |
上智 | 3 | |
立教 | 3 | |
11 | 北海道 | 2 |
筑波 | 2 | |
東京外語 | 2 | |
青山学院 | 2 | |
15 | 東京工業 | 1 |
岡山 | 1 | |
学習院 | 1 | |
明治 | 1 | |
東京理科 | 1 | |
国際教養 | 1 | |
関西学院 | 1 | |
同志社 | 1 | |
立命館 | 1 |
<出所:AERA2019.8.5号。AERA編集部が、大学通信、大学公式HP、東京大学新聞、京都大学新聞等を基に独自に集計>
4. 2019/3卒業生対象の集計の特徴
①全体として、前年度よりも採用者数は減少している
このAERAの集計は50大学を対象に集計しているので、これ以外の大学から採用があれば漏れている可能性もある(可能性は低そうだが…)。
2019/3卒については総合職だけで123人、一般職が7人の合計130人を採用した模様である。前年度(2018/3卒対象)においては、総合職と一般職とを合わせて合計171人採用したので、20%以上の大幅な減少となっている。
上記のリストの合計が111人なので、19名の出身校が不明であるが、海外の大学卒や一般職の出身校がそれに該当する可能性がある。
<三菱商事公式HP 新卒採用者数の推移>
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/resource/data.html
上位校を見ると、トップの慶応は39から29人、早稲田は27人から17人、東大は24人から19人といずれも減っている。
②とにかくコンサバで偏差値順である。
これは従来からの傾向であるが、総合商社の中でも三菱商事が最もコンサバで学歴フィルターが強そうである。実績の無い、MARCH、関関同立未満の私立大学からはほぼ不可能ではないだろうか。
③かなりの国立バイアスがかかっている?
偏差値主義的、コンサバな三菱商事であるが、その傾向としてかなりの国立バイアスがかかっているように見える。
東大、京大、一橋あたりは別として、九州大学、神戸大学、北海道大学、筑波大学、東京外国語大学が複数名採用されている。
東京一極集中の影響下、存在感が薄く、MARCH>地帝と言われるようになった旧地方帝国大学が健闘している。
また、首都圏においても、これまたMARCHに抜かれたという意見もある、筑波大学、東京外国語大学が奮闘している。
更に驚きなのが、岡山大学からも採用されていることである。今年は実績は無いようだが、かつては滋賀大学が時々採用されている。
それに対して、あまり評価されていないのが法政大学と関西大学である。MARCH、関関同立の一角を占めているが、両校においては三菱商事への内定者は昨年もいなかったようだし、総合商社全般に苦戦している。
レベル的には、MARCH、関関同立の方が地方国立よりも上な気もするが、三菱商事は地方国立の方を選好するようである(もっとも、かなりの難関であることには違いが無いが…)
④埋められない早慶とMARCH、関関同立の格差
メガバンク、大手証券、大手生保、大手損保への就職者数においては早慶と比べても、健闘しているMARCHと関関同立であるが、総合商社となると物凄く大きな差がついてしまう。
偏差値以上に早慶と差が付いてしまうのが総合商社への就職者数であり、ここがMARCH、関関同立の課題であろう。
例えば、同志社の場合、関関同立の中では偏差値的に頭一つ出ていて別格だという意見もあるが、総合商社の就職者数を見る限り、早慶には到底及ばず、関関同立の他校と特に変わらないということになってしまう。
最後に:新卒採用の多様化が進むと、こういったランキングは無意味になるか?
くら寿司とかNECの新卒年収1000万円のような採用の多様化が進むと、このような人気企業の採用者数と大学の就職力の関係は希薄化する可能性がある。
総合商社に一律年収400万円で採用されるよりも、年収1000万円で外食とか電機メーカーに採用されたり、ベンチャー企業にストックオプション付きで採用される方が、優位と言えるかも知れないからだ。
採用企業側からするとこれはチャンスである。従来であれば、どんなに頑張っても、新卒採用で総合商社に良い就活生を取られることを阻止できなかったが、条件を変えれば逆転することも可能となるからだ。
日本の産業界の活性化という観点からも、他の業種・企業は新卒採用の多様化を駆使して、優秀な就活生を総合商社から奪えるようになると、面白いと思う。
なお、2020年5月時点において、コロナウイルスによる景気低迷と今後の新卒採用者数へのネガティブな影響が懸念されている。そうなると、優秀な就活生は保守化するので、くら寿司の様な好待遇を用意したり、ストック・オプションを売りにトップクラスの新卒採用を図るベンチャー企業にとっては逆風となるおそれがある。そうなってしまうと、せっかく新卒採用の多様化が見られ始めただけに、非常に残念である。