就活生が知っておきたい総合商社のデジタル戦略

1. 今週の週刊エコノミスト「商社の稼ぎ方」は買っておこう

総合商社は就活生の間で、国内系企業の中では人気ナンバー1である。
外銀や外コンに内定をしていても、総合商社を選択する就活生も存在するようであり、就活生の憧れの就職先と言ってよいだろう。

ところが、総合商社のビジネスモデルというのはわかりにくところがあり、会社毎に事業分野が大きく異なるので、企業研究が難しいという側面がある。

この点、週刊エコノミスト2019/8/6号「商社の稼ぎ方」は、商社のビジネスモデル、歴史、中期経営計画とデジタル戦略の概要をわかりやすくまとめてくれているので、大いに参考になるであろう。

総合商社を志望する就活生は当然として、金融やメーカー志望の就活生も参考にする価値はあるだろう。

<週刊エコノミスト2019/8/6号「商社の稼ぎ方>
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190806/se1/00m/020/051000c

2. 今回の各社の中期経営計画は要注目である

①各社の従来路線への決別姿勢が鮮明?要注目の中期経営計画

就活の企業分析においては、中期経営計画を把握しておく必要がある。
この点、大手5社が2017~2019年に発表した中期経営計画は、従来にない方式の組織改編を打ち出したり、利益目標を掲げないなど異色ずくめという(上記エコノミストでの、五十嵐雅之ローランド・ベルガー社のパートナーのコメント)。

中期経営計画といっても、従来路線の継承の場合も少なくないが、今回は改革色がかなり強いという。

三菱商事の場合、営業グループを既存の7グループから10グループに大規模再編を断行し、デジタル戦略部・事業構想室を新設し、相当な変革への意気込みが見られる。

丸紅の場合には、「次世代事業開発本部」を起ち上げ、商社の枠組みを超える価値創造企業グループを図ろうとしているようだ。

伊藤忠商事の場合には、中計期間の数値的目標は敢えて設定せず、新技術の活用や異業種・ベンチャーとの連携等による次世代商社を目指していることがうかがえるという。

②総合商社各社が好業績の中、あえて大改革に踏み切ろうとする理由

この点について、前出のローランド・ベルガー社のパートナーの五十嵐氏のコメントによると、あえて大改革に踏み切った理由は2つ。

第1は、デジタル技術進化に伴う産業構造変化への対応である。
第2は、長すぎた春がもたらした大企業病への対処という。

商社の歴史は古く、過去に何度も危機に陥ったが、外部環境に応じて自らのビジネスモデルを柔軟に変革し、切り抜けてきた過去がある。

各社ともに、業績が好調で経営体力がある間に、次の時代に向けて生き残り策を打っていこうということであろうか。

いずれにせよ、今商社に行くのは変革のタイミングであり、若い人にとっては面白い時期かも知れない。

3. 総合商社のデジタル戦略

①総合商社はいずれもデジタル・トランスフォーメーション戦略に重点を置いているが…

総合商社はいずれも、デジタル・トランスフォーメーション戦略を経営課題の優先事項として取り組むことにしている。

既に、デジタル対応の専門部署の設置や組織変更、デジタル人材の登用を始めており、お金も人もつぎ込もうという姿勢はうかがえる。

②しかし、デジタル戦略の具体的な狙いや方向性は未知数のようにも見える

総合商社各社はデジタル戦略を重視し、外形的な体制は整い始めているが、肝心なデジタル戦略の中味については、まだまだ不明確なところが外部からはあるように見える。

前出の、ローランド・ベルガー社のパートナーの五十嵐氏の記事によると、デジタル技術対応については、新規ビジネスの創出のための切り口としての「目的」と捉えるのか、或いは、既存ビジネスの高度化を図るための「手段」と捉えるのか、その舵取りが重要だという。

新規事業の創出のための目的と捉えてしまうと、巨額の投資や長期的な収益化が課題となるが、それだとVCとやることが同じになってしまう。その場合、グローバルのVCとかソフトバンクのビジョンファンドに勝てるのかということが課題になる。
小さいベンチャーファンドを作って、AI関連のスタートアップに投資をするだけだと大した成果は望めないだろう。

他方、既存事業の改善・効率化のための手段と考えると、そのインパクトは大きい。
例えば、最大の収益源であるエネルギー金属資源関連は市況産業であるので、AIを用いて予測の精度を上げることができればその成果は大きい。

また、機械・輸送機・プラントのトレーディング・インフラ投資も重要な収益源であるので、テクノロジーの活用によって、効率化とか投資効率を上げることができれば、大きな利益改善につながることも期待できる。

もちろん、小売り・不動産・金融等において、B to Cビジネスを展開する場合には、AIを用いたビッグデータの活用とかフィンテックというのも収益向上策の一環として対応が可能だろう。

ところが、現段階では、各社ともその点の詳細な戦略や可能性がまだまだ明瞭になっていないと思われる。

③デジタル戦略は各社間で大いに差が付く可能性がある

デジタル戦略は、抽象的で対応可能範囲が広い。そして、既存のノウハウとか決まった勝ち方が存在していないために、デジタル戦略の巧拙によって、大きな結果の差に繋がる可能性がある。

総合商社の場合、従来は若干のIT部門はあっただろうが傍流であり、AIとかデジタル・トランスフォーメーションを担う中核的な組織とか人材はいなかったはずだ。

組織改革をし、外部から専門人材を採用したとしても、総合商社は基本縦割りで超コンサバな世界なので、そこにデジタル人材が入って行ってリーダーシップを発揮できるかはかなり難しいと思われる。

このため、デジタル戦略を成功に導くためには、トップ経営者の本気度とリーダーシップが試されるところであろう。

4. どこのデジタル戦略が成功しそうか?

現時点では当然未知数であるが、志望先に応じて、商社志望の就活生は各社のデジタル戦略のポジティブな勝ちパターンを考えておきたい。

これは1つの考えに過ぎないが、伊藤忠など面白いのではないだろうか?
何故なら、経営状況が厳しい2000年前後の第1次インターネットバブルの際に、伊藤忠は伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、エキサイト等のITベンチャー系投資で大儲けをすることが出来た実績があるからである。

コンサバな財閥系と違って、この点既成の枠にとらわれずに活動できる野武士集団のようなカルチャーがある伊藤忠は、デジタル戦略に向いているかも知れない。

それから、デジタル、デジタルと派手なアピールをしていないが、住友商事も面白いと思う。
何故なら、ジュピターテレコム、SCSKというネット系ど真ん中のビジネスではないが、新しい広義のIT領域で成功を収めているし、もともと、資源、機械、インフラ、消費、ITと最もバランスの良い事業構成となっているからである。

反対に、金属・エネルギー一辺倒で、ネットIT関係でこれといった実績の無い三井物産は厳しいように思われる。外部からITの専門家を取ったところで、コンサバでプライドの高い金属・エネルギー関連の部門に乗り込んで説得していくのは、骨が折れる作業だと思う。

なお、丸紅は本気でデジタル関係の採用にも力を入れているようだ。大手の転職エージェントのメルマガを登録していると、しつこいくらいに丸紅のデジタル戦略関係の求人情報が来る。もっとも、丸紅もネットIT周りの実績が無く、デジタル戦略を推進するのは大変だと思う。

最後に

総合商社はどこも、お付き合いではなく、本気でデジタル戦略に取り組もうとしているようである。

そうであるならば、敢えて新卒で総合商社を狙わなくても、より入社のしやすいIT系企業で専門性を積んでから、様子を見て総合商社に中途採用で入るという選択もある。

しかし、IT系企業で専門性を積むことができる若手社員は、他の業界・企業からも引く手数多であり、あえて総合商社に行くメリットは感じないかも知れない。

そう考えると、一般的には国内系企業で最高の給与水準のように見えても、外資系のIT企業やコンサル企業と比較すると、若くて優秀なITのスペシャリストを採用できるような条件は出せないだろう。GAFAとかマイクロソフトの方が給与は出る人には出せるし、ITを極めるならそちらでさらに経験やスキルを深めた方がますます価値は高まるからだ。

商社⇒デジタル⇒面白うそう、という単純な思考ではなく、もう少し先を見据えたキャリアを考えるのも手である。