1. 外銀は規模が強さに直結しがちのようだが…
現在25歳で、国内系証券会社のIBDのアソシエイトからの質問。
彼は将来、外銀IBDへの転職を目論んでいるのだが、小規模な投資銀行は避けた方が良いのかという質問だ。
一般的には、投資銀行(日本では証券会社)は大きいところほど強いという傾向にある。
例えば、日本では規模が最大の野村證券が最強であり、大和証券、SMBC日興証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券、みずほ証券と続く。
米国では時価総額ではJPモルガンが最大であるが、やはり、JPモルガンとGSは強い。
スイスでもUBSの方がクレディスイスよりも競争力はあると考えられるし、フランスでも最大手のBNPパリバの方がソシエテジェネラルよりは優位にあると言えるのではないだろうか?もっとも、ドイツでは最大のドイツ銀行は不調のようであるが…。
投資銀行というのは、ビジネスモデル的に自己のバランスシートを使ったビジネス(トレーディング、引受)を行い、販売力・営業力は規模に比例する傾向にあるし、信頼性が重視されるのでネームヴァリューもある方が良い。
他方、提供するサービス内容は規制業種であるので、どこも基本的に同様だ。小規模だが独自のビジネスモデルで競争力のある投資銀行が大手を逆転することは考えにくい。
従って、一般的には外銀の場合も規模の大きいところが良いだろう。
2. 昔は相対的に小規模な投資銀行で働くメリットもあった?
現在では、外銀でも国内系でも、投資銀行の場合は大手が優位だということは明らかな気もするのだが、上記の25歳の国内系IBDの彼が、質問するには理由があった。
昔は、小規模な投資銀行で働くことによって美味しい思いをできた人達もいたので、そういう人の話を聞いたのだろう。
1990年代とか、2000年に入ってからリーマンショック前までは、外銀の景気が良く、小規模な外銀の場合にはネームヴァリューが無い分、大手の外銀出身者を集めるために割高な給料(高額なボーナスのギャランティー等)を支払うケースもあったのだ。
したがって、大した実績や実力も無い大手の外銀勤務の者が、一時的に弱小外銀で稼げるケースもあったのだ(もちろん、中小外銀の平均的な給与水準が高いというわけではないが)。
何と言っても、リーマンショック前には数多くの外銀が東京に存在していた。
カナダ系の証券会社、オーストラリアのマッコーリー、オランダ系のINGベアリングにABNアムロ、ドイツ系のドレスナー証券、米国系ではリーマンブラザーズにベアスターンズなどがあった。1990年代に遡ると、バンカーズトラスト、DLJ、シュローダー、コメルツとかさらに多くの外銀が東京に拠点を設けていたのだ。
しかし、大手による中小の吸収合併・買収とか、リーマンショックによる淘汰によって、今では東京に拠点のある外銀の数はめっきりと減ってしまった。
今では、そもそも本当に小規模な外銀は姿を消してしまったと思うが、大手であっても、母国での順位が2番手、3番手の場合は特に経営状況が左うちわということはないので、大手の人材を引き抜くために割高な給与を支払うということはまず期待しない方が良いだろう。
3. それでは、結局、外銀に転職するならば大手に限るのか?
①極論だと、GSとそれ以外という考え方もある
時価総額的にはJPモルガンがトップなのだが、ゴールドマン・サックス(GS)のネームヴァリューは日本以外でも別格に高い。例えば、短期間でもゴールドマン・サックスに在籍した過去があり、レジュメにその旨掛けると、本社の人が安心したり、ほめてくれたりすることもある。
更に、日本ではゴールドマン・サックスが圧倒的に外銀の中でもネームヴァリューが高いので、国内系金融機関とか事業会社、あるいはベンチャー企業に転身する際にはかなりのプラスになることが考えられる。
従って、ゴールドマン・サックスに転職できるタイミングをじっくり待ってから動くという戦略もあり得るだろう。
②一般的に、米系大手とUBSが軸か?
もちろん、上記①のゴールドマン・サックス至上主義というのは極論であり、一般的には、競争力のある米系大手と欧州最強のUBSを軸に考えるというのが無難であろうか。
こういったところでは、十分な給与水準は期待できるし、その業界内におけるステータスも十分にあるからである。
具体的には、ゴールドマン・サックスに加え、JPモルガン、モルガンスタンレー、メリルリンチ、UBSというあたりである。
UBSも決して投資銀行部門は楽ではないが、何といっても収益の半分近くを稼いでくれる世界最強のPB(プライベート・バンキング)部門を持っている。
じっくりと外銀への転職を考えるのであれば、このあたりの良いポジションを軸に探すというのが一般的に堅いやり方であろう。
③しかし、大きいだけでは安泰とは言えないし、小さいところが全てダメという訳では無いのが難しいところ…
とは言え、上記の大手であれば安泰と行かないのが、外銀選びの難しいところ。
景気への変動の影響は必ず受け、特に株式部門はリストラのリスクを避けられない。
他方、外銀の場合は部門別の収益性が重視されるので、隣の部門でリストラをされていても収益の高い部門では高額のボーナスを享受できるというケースもある。特に、債券・デリバティブ系の部門であれば、収益性の高いチームが存在する場合もあり、そういったところに転職するのは悪くない。
共通して言えることは、親会社である本体がコケれば、必ずそのツケはローカルな拠点にも回ってくることである。景気だけではなく、巨額の罰金で利益が吹っ飛ぶこともあるので(過去にはマネロン関係の違反でBNPパリバが1兆円に近い罰金を支払ったこともある)、なかなか安心できない。
4. 紛らわしいが、外資系金融と言っても外資系運用会社(バイサイド)はまた別である
紛らわしいのは、外資系金融といっても、外資系運用会社(バイサイド)の場合には、規模が小さくても競争力のある会社は沢山ある。
それは、ビジネスモデルが異なる(バイサイドはトレーディングや引受といったバランスシートを使うビジネスをやらないし、営業・販売も証券会社や銀行を介して行う場合も多いので、店舗網が小さくてもOK等)からである。
例えば、規模だけだとブラックロックとかフィデリティが最大であるが、東京の拠点を見ても、WellingtonとかCapital、Invesco、Prudential AM他、相対的には小規模だが競争力が高く給与水準も悪くない会社はいくらでもある。
また、ヘッジファンドなどを含めると規模の大小は関係なく、優良な転職先はいくつも存在する。
このあたりについては、別途紹介したいが、規模感と転職対象という切り口からは、外銀とバイサイドは分けて考えなければならない。
5. 外銀で成功するには「運」と「相場観」が大事
以上のように、外銀で働く場合には相対的に大手の方が望ましいが、必ずしもそうとも言い切れない場合がある。
大手で本人が優秀で実績を上げても、親会社がコケてボーナスがもらえないリスクもあるし、相対的に小規模なファームで稼げるチームに所属して多額のボーナスを稼げる場合もある。
このあたり、外銀で成功するには「相場観」も「運」も必要だ。
外銀で成功する確率は、リーマンショック前後で全く変わっているので、この点が気になる人は国内系で細く(といっても結構高額)長く稼ぐというのも悪くないのである。