1. 40代の大手生保の管理職の不安
大手生保出身の、ある外資系アセマネの運用部門で働く40代男性が、生保の同僚と会ったが以前と比べ元気が無かったという。
その理由は、自分自身の明るい未来が思い浮かべないことだという。
現在大手生保の40代の管理職を務める彼は、年収は1400万円位で安定しているが、長期的に減少トレンドにあるという。彼よりも一回り上の世代はもう少しもらっていたという。
もちろん、40代の彼は残り十数年なので、雇用、高給、退職金、企業年金等、逃げ切りは十分可能なのだが、10年後のボーナス水準とか、役職定年の早期化・条件悪化、最悪の場合は絶対リストラが無いとも言い切れない。こういう風に将来を考える、明るい材料が出てこないのだという。
2. 20年後も大手生保は安泰か?
①確かに生保を取り巻く環境は楽観視出来ないが…
何が起こるか、先のことは誰もわからないが、あと10年位は大手生保であれば、大きく待遇は変わらないと思われる。しかし、20年後はどうだろうか?日本の少子高齢化は不可避であるし、既に飽和状態にあるとも言われる生保の国内市場の縮小は、想定しておいた方がいいだろう。
国内市場が縮小すると、海外で稼ぐか、或いは、新規事業で新たな市場を開拓する他無いのであるが、生保の場合、海外で稼ぐのは余り期待でき無そうである。現時点での顧客網やグローバル人材数を考えると、アクサ、プルデンシャル、メットライフ等の海外勢に勝てるかどうかは疑問である。
そうなると、新規事業ということであるが、既に大手生保は損保事業に進出しているが、今後新たなる保険市場や周辺ビジネスを開拓することができるのだろうか?こちらも、新規事業創造能力は、経営資源的に見て、大手銀行や大手証券以上に難しそうに見える。
また、DX、IT化というのは、コスト削減という点においてはポジティブな材料であるが、一般的にオンラインでの金融ビジネスは収益性が低い。ネット証券のシェア拡大によって、従来の株式ブローカレッジ業務の収益性が著しく低下した証券会社を見ると、ITの進化に伴うオンライン化は不安材料である。
②特に日本生命以外の大手の20年後が気になる…
金融関係者の間で生保の将来性の話が話題になることがあるが、「日本生命はあんだけ資産があるから大丈夫だよ」ということで感覚的に納得してしまうところがある。
確かに、日本生命は国内で圧倒的な存在で、給与水準等の待遇においても、2位グループより明らかに優位にある。
日本生命は別格で何とかなるということにすると、第一生命、明治安田生命、住友生命が気になるところである。
20年後を想定した超長期戦略は開示されていないので(そもそもあるかどうかもわからないが)、将来を見据えてどのような打ち手を考えているのか、住友生命の中期経営計画を見てみたい。
<住友生命の中期経営計画:住友生命のHPより>
https://www.sumitomolife.co.jp/common/pdf/about/company/ir/disclosure/2019/p024-030.pdf
これは、2020-2022年度の中期経営計画であり、近々、新しいものが出ると思われるが、基本的な経営戦略を知るための参考にはなろう。
これを見ると気になるのが、「社会に『なくてはならない』保険会社へ」というスローガンが気になるところである。このスローガンの下には3つの基本方針がある。
基本方針① 社会に貢献する~SDGs達成への貢献~
基本方針② 社会に信頼される~すべての主語は「お客さま」~
基本方針③ 社会の変化に適応する~進化し続ける企業へ変革~
社会貢献云々は、流行りのSDGsも取り込まないと行けないから、ある程度は仕方が無いのであるが、これでは具体的な事業プランや数値が全く見えない。
海外戦略については、海外の生命保険会社に対するM&Aに言及しているが、海外でどれくらいの割合、どれくらいの金額を稼ぐつもりなのかへの言及がない。この点、海外事業に注力し、かなりの成果を上げている東京海上日動火災とは対照的である。
また、2位グループ3社の中で、第一生命は上場しているというのが大きな特徴で、株価という明確な経営指標があり、株主から経営について厳しいチェックを受ける。このため、中期経営計画1つを取っても、第一生命の方が住友生命よりも踏み込んだ内容に見えるが、どうだろうか。
<第一生命の中期経営計画:第一生命のHPより>
https://kabuyoho.jp/discloseDetail?rid=20210331487771&pid=140120210331487771
3. 就活生に大手生保を勧めるか?
①20年後を見据えると不安になるが…
文系の学生の間では、今でも大手生保は人気である。
転勤、スキル、仕事の面白さという点は別にして、とにかく給与水準が良いし、知名度も高いし、証券リテール程のハード差はない。また、最近人気が高まっているカード、リース、アセマネと比べると、それなりの人数を採ってくれるので大手金融の中では比較的内定を取り易い。このため、損保と同様に、「コスパの高い就職先」(難易度の割にはステータスも年収も高い)と言われることがあるようだ。
しかし、20年先となると、現在の高年収を維持できるかどうかはわからない。
むしろ、20年後には年収は1~2割位減を見込んでおいた方がいいかも知れない。最大の魅力である高年収が維持されないと仮定したら、それでも生保に行きたいか?こういうことも考えておいた方がいいだろう。
②代替案は高給メーカー、専門商社、通信キャリア?
大手生保が不安と思っても、簡単には代替案は見つからない。
何故なら、大手生保は他の事業会社と比べるとかなり年収水準が高いので、将来的に多少は年収が減ったとしても、それでも一般的な事業会社よりは厚遇だからである。
また、一般的な事業会社も、大手生保同様、将来どうなるかについての保証は無いからである。
そうなると、それなりに安定が見込め、大手生保には勝てないが一般的な事業会社よりも給与水準が高い業界・企業を選択することになる。
例えば、味の素、サントリー、キリンビール、AGC、富士フィルム、旭化成、日本製鉄、JFE、三菱ケミカル、三菱ガス化学、東京エレクトロン、出光興産等の、給与水準の高いメーカーや、一部の好待遇の専門商社、あるいは、安定性が見込める通信キャリアで副業も頑張るといった選択肢が考えられる。
ただ、こういった企業、特に高給メーカーの文系枠は少ないため、難易度においては大手生保以上に難しい場合がある。従って、早い段階での対策やスペック上げが求められるだろう。