1. アサヒが1兆2千億円で豪ビール最大手買収を発表
2019年7月19日、アサヒビールホールディングスは、豪州ビール最大手の、カールトン&ユナイテッドブルワリーズを、113憶ドル(約1兆2千億円)で買収することで合意したことを発表した。
https://www.asahi.com/articles/ASM7M566RM7MULFA012.html
これは、日本企業による巨額の外国企業の買収案件であるし、国内市場が縮小する中、海外市場に活路を見出さざるを得ない日本企業の経営戦略ということで、非常に注目度が高い案件である。
2. 投資銀行部門(IBD)志望の就活生がやらなければならないこと
これだけ、話題性の高いニュースが出たので、外銀及び国内系証券会社の投資銀行部門(IBD)志望者、或いは、株式リサーチや株式セールス志望の学生も、押さえておかなければならない必須項目である。
採用側からすると、アサヒの案件について、就活生に質問をすれば簡単にレベルがわかってしまうので、大変利用しやすいアイテムである。
3. アサヒの案件について、何をどの程度把握しておくべきなのか?
①先ずは、情報を広く正確に把握しておく必要がある
難関のIBD志望の就活生ともなれば、このニュースを新聞やテレビを通じて概要を把握しておくだけでは当然足りない。
「アサヒ、買収」というキーワードでGoogle検索を掛けると、簡単に各種メディアのコメントが見られる。最低でも、このあたりは一通り目を通して、本件の概要と一般的な見方を把握する必要がある。
特に、見落としがちなのは「株価」に関する情報である。
この案件の公表日の翌営業日、アサヒの株価は約1割程下落したのだが、これを見落としては行けない。株価は本案件に対する市場の評価なので、ここにいろいろとヒントが詰まっている。投信銀行業界を目指す者としてはマーケット情報に敏感でなければならないので、株価についてもフォローする習慣を身に着けたいところだ。
②次にファイナンスの教科書的な知識の確認と自分の考えの整理
IBD志望の場合には、当然突っ込まれそうなのがファイナンス関連の基本知識で、買収金額の1兆2千億円をどのように調達するかが問われるところである。
従って、1兆2千億円のデットとエクイティの内訳を把握しておかないと、この時点でボロが出てしまう。本案件では新株発行と自社株売り出しで最大2000億円を調達するので、この割合が妥当かどうか、自分自身の考えを問われることになる。
特に、増資による希薄化(最大で9%程度)をどう考えるか、予め整理しておかないと、その場で考えても、「・・・」となってしまう。
③そして、ビジネス的な分析力が問われる
M&Aの場合は、「シナジー」が買収プレミアムを上回らないといけない。
そこで、本案件のシナジーについてどう考えるかについて、ここでも自分なりの考えを整理しておく必要がある。
アサヒの場合は、2016~2017年に欧州のビール事業を買収して成功したという実績があるので、この過去の事例と比較してどうかということがヒントとなる。
今回の豪州事業の買収では、ローカルブランドに過ぎないので前回の欧州事業のようなシナジーは期待できないのではないかという声もあるようだが、そこは自分なりの考え方で良い。
また、ビール会社は、同業他社も海外M&Aに熱心で、キリンが過去にブラジルのビール会社買収で大コケしたこともあったので、他社比較の上で、今回のアサヒの評価をできれば尚良しだ。
④更に、この案件を参考にして他のM&Aビジネスのアイデアを思いつけば良い
以上のアサヒの本案件に対する分析と自分の考え方の整理だけでなく、少子高齢化により国内市場が縮小していくのが不可避な環境下、海外に活路を見出すしかないというのが既存の大企業の生き残る途である。
従って、アサヒの案件をヒントに、他にどのようなビジネスチャンスがあるか、もし自分がバンカーであれば、どういった業界・企業にどういったM&A案件を提言したいかということにまで広げて前向きに考えることができると、合格点と言えるだろう。
4. こういった情報収集、分析、思考を面倒と思うか、楽しいと思うか?
投資銀行業界、特に外銀は厳しい業界である。
その中で生き残っていくためには、マーケットが好きでないと持たないところがある。
こういった企業の動きや市場の評価について、情報収集し自分なりの分析・評価をするというのは面倒かも知れないが、むしろ、楽しいと思える人がこの業界に向いている人だと言える。
もちろん、学生の間は実践は出来ないので、マーケットに携わる仕事の面白さを感じることはできないかも知れないが、どうせやるなら楽しんでやった方がいいので、日常生活において企業金融とかマーケット情報に接して考えていく習慣を身に着けたいところだ。
もっとも、投資銀行業界が全てというわけではないので、そういう作業が詰まらないと感じるようであれば、ベンチャーIT系、マーケティング系、HR系と、他にもいくらでも選択肢があるので、他の業界・業種に切り替えるのも一つのやり方である。