1. かつては文系の最難関学部であったこともある法学部だが…
2019年度の東大入試では、文科Ⅱ類の合格最低点が文科Ⅰ類のそれを上回り、文Ⅱ文Ⅰ逆転ということが受験界においては注目された。
21世紀の初頭、法科大学院制度が導入された当初は、法曹への近道ということと、定員が削減されたこともあって、法学部が難化したことがあった。
しかし、弁護士数の急増等に伴う弁護士収入の顕著な減少が知られると、法曹人気の低下に伴い、法学部の人気も低下していった。東大の場合には、官僚の不人気ということもあるだろう。
他方、国際系の学部の人気は高く、有名私立大学においては、国際系学部の偏差値が法学部の偏差値を抜いた事例はいくつもある。
今でも法学部が看板学部というのは中央大学位ではないだろうか?
(慶應大学法学部の場合は、法科大学院と関連性の薄い政治学科が人気であり、また、経済学部とは受験方式が異なるので単純には比較できない面があるだろう。)
2. 法学部生の進路は?
法曹の人気が落ちたからと言っても、やはり、難関校の法学部生の上位層は法曹、要するに法科大学院への進学や予備試験を目指すことが多い。
また、公務員を志望する法学部生も伝統的に多いので、法学部の一定数は公務員を目指す。
難関校の法学部生の場合においても、法曹を目指して法科大学院に進学したり、留年覚悟?で予備試験を目指す者の割合はせいぜい2~3割である。
また、公務員を目指す法学部生の割合もせいぜい2割位ではないだろうか。
そうなると、経済/商学部系の学部と比べると低いが、トップ校の法学部の場合でも、半分以上は民間企業へ就職をすることとなる。
3. 法曹を目指さない場合の法学部生の問題点
経済・商学部系の就活生とは違って、法曹や公務員を目指さない法学部生の場合はいくつかの課題がある。
第1は、途中まで法曹を目指していた場合において、途中で民間企業への就職に切り替えると、就活対策が間に合わなくなる場合があるからだ。
伝統的に、法学部というと法曹が憧れの面があり、とりあえず、法科大学院とか予備試験の途を目指す法学部生も少なからず存在し、3年生になった段階でもどちらにするのか悩んでいる状態の学生はいる。
しかし、就活ルールが廃止され、実質的な就活が前倒しになればなるほど、迷っている時間は無いのである。
第2は、今、企業が学生に求めるスキルと法学部のカリキュラムとがあまり一致していないことである。
例えば、英語力については、法学部の場合、典型的な日本語の世界なので英語に接する機会が少ない。(もっとも、経済・商学部系の場合も、英語は自力で勉強しないと求められるレベルの英語力には達しないが)
また、ビジネス的な分析力やビジネスセンスが求められるようになっているが、法学部の場合だと簿記・会計が必修じゃないので、企業分析とか業界分析能力が経済・商学部系の学生と比べると劣る可能性がある。
第3は、難関企業に対する情報収集能力や同期生からの刺激である。
法学部の場合には、上位層が法曹とか国家公務員総合職を目指す場合が多いので、経済・商学部系と比べると、周りに、外銀・外コン・総合商社といった難関企業を目指して早い段階から対策を立てている同期生が周りに少ない可能性がある。
そうなると、同じ大学であっても、難関企業については取り残されるリスクがある。
4. お手軽に取得することが難しい法律系の資格
今の企業は、学生にビジネスセンスを求めたり、よく勉強するタイプの学生を評価しがちである。このため、金融機関系の専門職を志望する学生の場合には、簿記2級とか証券アナリスト(CMA)とかUSCPAを取得して、アピール材料の1つとする方策がある。
しかし、法学部系の資格は難しく、司法試験の予備試験を諦めたところで、弁理士資格とか司法書士資格はそう簡単に取れるものではない。
行政書士位なら合格できるかも知れないが、資格としてのインパクトには欠けるし、結局法律力で勝負をしようとすると、弁護士資格者に負けてしまうので、そこが辛いところである。
5. 理数系重視やグローバル人材への需要の流れを踏まえると法学部はお勧めではない?
現在、或いは将来、どういった人材に対する需要が強いかについて考えてみると、圧倒的なプログラマー不足が報道されている通り、IT系のニーズは高いと考えられる。
また、少子高齢化による国内市場の縮小化は不可避なので、グローバルに稼げる必要があるため、英語力やグローバルリーダーシップ経験を有する人材に対する需要も強い。
更に、既存のビジネスは頭打ちだし、AI/ITの進展によってビジネス環境が急変する可能性があるので、新規事業創造能力がある人材に対するニーズも極めて高い。就活生でいうと、起業体験・実績があるようなタイプの学生である。
以上を踏まえると、法学部の場合には、いずれのスキルとも縁が無さそうである。
自分の適性や将来のキャリアプランを高校生の間に決めるのは難しいのであるが、法曹(或いは公務員)にどうしてもなりたいという場合以外は、法学部を選択しない方が賢明なのかも知れない。