1. 最近注目され始めた「役職定年」制度
何十年も昔、20世紀の時代から役職定年制度というのは存在していた。
ところが、その実態についてはそれほど注目されていなかったかも知れない。
役職定年というのは、60歳定年までの終身雇用を前提とした制度であり、定年後の準備を始めるという観点から導入された制度である。
20世紀においては、60歳の定年までの終身雇用というのは当然の前提であり、役職定年というのも必ずしもネガティブな意味合いのあるものではなかった。
しかし、21世紀に入り、経営体力的に終身雇用の維持が厳しくなってきた大企業は、役職定年を57歳から55歳に前倒しにしたり、役職定年による年俸ダウン率を2割から3割に引き上げる等、ネガティブな運用も見られるようになってきた。
そこへ、経団連の終身雇用廃止宣言が出たので、最近では年金2000万円足りない問題とも相俟って、役職定年の注目度が上がってきた。
2. 役職定年を過ぎても活躍できる人材はいる
日経新聞も、最近の特集「さらばモノクロ職場」という連載記事において、2019年7月19日の記事でこのテーマを取り扱っていた。
役職定年というと、55歳或いは57歳という決まった年齢になると、一律的に役職が剥奪され、年俸も2~3割カットされるという制度であるのだが、例外的に部長とか課長というラインの管理職を続けることができている社員を、日経新聞は紹介していた。
3. 役職定年を過ぎても求められる社員はやはりスペシャリストか?
上記の日経新聞の2019年7月19日の「さらばモノクロ職場(3)シニアも前線、実力本位」で、役職定年を過ぎても管理職に帰り咲けた社員が2人紹介されていた。
1人は、大手生命保険会社勤務の人で、彼は情報システム担当の課長である。金融機関のITシステムにおいて高度な専門性を有するため、役職定年を過ぎても重宝されているという。
もう1人は、大手金融機関勤務の部長職の人で、国際税務の専門家だ。金融機関で役職定年を過ぎても周りから必要とされる社員はごくごく一部であり、この人が会社から重宝されるのは、国際税務という確固たる専門領域を持っているからだろう。
サンプルは2人だけであるが、予想通り、役職定年を過ぎても部長や課長という管理職に留まることが出来るサラリーマンになるには、スペシャリストとして何らかの有用な専門領域を持つことだろう。
反対に、抽象的一般的な「マネジメント力」しか強みがないサラリーマンは部長クラスにまではなることができても、役員にまでなれないと、役職定年で終わってしまうことが多い。
また、有用な分野で専門スキルがあるサラリーマンは、たとえ役職定年で役職を剥奪されてしまったとしても、転職可能性という選択肢も残っている場合がある。
外資系企業は日本企業程は年齢にこだわらない場合があるので、英語ができれば外資系企業に転職するという選択肢もあり得る。
4. 役職定年を過ぎても重宝されるサラリーマンのスキルは営業力
IT、経理、税務、法務コンプライアンス、オペレーションといった部門においては、高度な専門スキルを持つサラリーマンは役職定年を過ぎても何らかの形で生き残れる可能性はある。
それ以外に生き残れるスキルとしては、営業力があげられる。
もちろん、営業と言ってもそれは会社あっての話なのだが、それでも有力な法人顧客から強い信頼性があったり、リテール営業で強力な開拓力を有するサラリーマンは年をとっても生き残れる可能性は高い。
外資系金融の場合も、バイサイドの場合は50歳を過ぎても働ける場合が少なくないが、その中でも法人顧客と強いコネクション・信頼性を有する営業マンは50代後半になっても生き残るケースがある。
5. 就活段階で、スキル習得についてどこまで考えることができるか?
何十年も前から、「ゼネラリストでは将来危うい」「管理職とか部長職にあるだけではそれをスキルと言わない」といったことは指摘されていた。
しかし、終身雇用と新卒一括採用という枠組みはその間変わらなかったので、スキルの習得という側面は、就活段階ではそれ程意識されてこなかった。
最近になってようやく、金融機関の一部でコース別採用というのが導入されたが、ほとんどの学生は入り口での部署を確約されない総合職採用である。このため、就活生側がスキルを意識したところで、採用側が一括平等採用だったので、対応しようがなかった。
ところが、くら寿司の初任給1000万円採用の話が注目されるので、今後は新卒採用の多様化が進んでいくだろう。
そうなると、会社名や給与水準だけではなく、自分が就くことができる「スキル」「職種」というのが新たに考慮すべきファクターになってくる。
その場合、就活準備を前倒しにして考えて行かないと、自分が習得すべきスキルというのがなかなか見つからないし、見つかったところで相応の準備をしないと内定をもらえるに足りる準備ができなくなってしまう。
経団連の就活ルールは今年度で終了となり、実質的な就活時期は早期化するというのが定説であるが、職種別・コース別採用が拡がると、その準備に向けてますます就活は早期化するのであろう。