1. 何故あえて信託銀行の不動産部門を狙うのか?
終身雇用の廃止の流れの中、就活生とか第二新卒においては、目先の年収や企業名に加えて、どういったスキルを身に着けることが出来るのかという点が重要になっている。
今回は、三菱UFJ信託銀行、住友信託銀行、みずほ信託銀行という大手信託銀行の不動産部門でのキャリアについて考察したいのだが、そもそも何故あえて「信託銀行」の不動産部門を狙うのだろうか?
不動産に関するスキルをつけるというのであれば、大手不動産会社、ゼネコン、大手仲介業者を狙うという手もあるはずだ。
その理由はシンプルで、業務の幅ということだ。
不動産業界で不動産スキルを磨いても、専門性は不動産分野に限られてしまう。
ところが、信託銀行で不動産業務に従事すれば、銀行業務の基本的な素養に加えて不動産の専門スキルも習得できるので、専門性の領域が拡がるからだ。
特に、上記の3つの信託銀行は大手の金融機関でもあるので、グローバルという点で専門領域を拡げることが可能である。海外勤務の可能性はあるし、国内勤務であっても海外の投資家とのビジネスを通じて、グローバルな視点での不動産投資スキルを磨くことも可能となる。
時代の変化が激しい現代や将来において、どういった専門スキルが求められるかの予想を正確に行うことは難しい。そうであれば、専門スキルを複数持つこととか、守備範囲の広い専門スキルを持つことが手堅い方策とも言える。
2. 今さら、不動産領域は有用な専門スキルとなり得るのか?
不動産会社で不動産をやるよりも、信託銀行で不動産をやった方が、「金融」という経験とスキルが上乗せされるという点は理解してもらえるかも知れない。
しかし、少子高齢化の日本において不動産スキルを磨く意味は果たしてあるのかという疑問もあるかも知れない。それには、以下の様な考え方がある。
①日本全体では厳しくても東京(首都圏)の不動産市場はまだまだ粘る
少子高齢化の動きは不可避であり、長期的に見て日本全体の不動産市況は強気になれないのは理解できる。しかし、東京(首都圏)に限ると、地方が衰退する分を東京が吸収するような形でまだまだ人口流入は継続している。
望ましい形では無いが、地方が過疎化すればするほど、ジョブオポチュニティの観点から地方の人々(特に若手)は東京に慌てて押し寄せて来る。
さらに、日本への海外からの観光客数は年間3000万人を突破したが、今後まだまだ増加することが予想され、年間4000万とか5000万人というのは十分ありうる話であろう。
また、相続等に伴う個人金融資産の移動の点からも、東京(首都圏)へのお金の流入もまだまだ継続しそうである。
人とお金が集まれば、ビジネスは活況となり、そうなると不動産価格に反映される。既に十分に高騰化している東京都心部のマンション価格は、まだまだ値下がりする気配はない。
以上のような状況から、東京に限ってみると、まだまだ不動産市場は強いと見ることができる。
②海外不動産ビジネスはこれから面白い
各国の不動産市況は、GDPに連動し、GDPに影響を与える重要なファクターが人口の成長率である。
この観点からすると、アジア、例えば、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、そして中国の不動産市況はまだまだこれから活況となる可能性がある。
まだまだ、日本の機関投資家や個人投資家でこういった地域への不動産投資をしている人々は少数であるが、その理由として情報が不十分な点や不動産市況のインフラが不足していることが考えられる。
しかし、長期的に見てそう言った点は改善されていくであろうから、海外不動産に詳しいと将来一稼ぎできる余地は十分にある。
国内系の不動産会社とかゼネコンの人達は、典型的な内需型産業であるために、英語が得意な人は決して多くない。従って、そういった業界寄りはグローバルな要素のある大手信託銀行だと、数少ないスペシャリストになれるチャンスがある。
③不動産絡みの投資銀行ビジネスも生まれる?
長期的に見て、地方の経済が衰退し、東京の経済規模が更に拡大していく可能性は高い。そうなると、不動産だけではなく、不動産保有企業とか不動産関連企業の組織再編とかリストラの動きが生じる可能性がある。
そうなると、M&Aとか不動産ファンド、再生ファンド的な動きが活発化することも予想され、2000年前後に不動産ファンド或いは不動産投資銀行ビジネスが活況だったのと類似した状況が到来するかも知れない。
そうなると、不動産投資に加えて、金融的な素養がある人材が投資銀行ビジネスに参入できる機会があるかも知れない。
3. 副業、兼業、独立においても不動産投資は有用なスキル
最近、働き方改革とか終身雇用廃止の流れの中、副業とかフリーラスといった「個」の力によって稼ぐ方法があちこちのメディアで取り上げられている。
そうした中、不動産投資というのは大きな副業の手段の一つである。
金融周りの独立系ファイナンシャル・プランナー(FP)については、稀少性はさほど高いとは思われないが、金融に加えて不動産投資のプロフェッショナルというのはまだまだ多くない。
特に、不動産投資が海外不動産投資ということになると、まともなアドバイスができる独立系のFPはほとんどいないだろう。
このため、どのような稼ぎ方ができるかについては、副業規制とかメディアの環境等によるのだろうが、グローバル経験があり、金融と不動産の両方に詳しい人材というのは個人メディアの運営という点においても稼げるチャンスは十分あるのではないだろうか?
4. 信託銀行の不動産部門でスキルを磨くことの課題
金融+不動産というスキルの組み合わせは、JREITが誕生した2000年前後に注目されたものであって、新しいものではない。そして、REIT運営会社とか外資系不動産会社の場合は、外銀とか外資系運用会社(バイサイド)と比べてそれほど高給ではない。
外資系の不動産ファンドとか不動産投資企業の場合、いわゆる課長(VP)クラスで1200~1500万円位のイメージである。部長(SVP/Director)クラスでようやく年収2000万円位である。大手信託銀行の場合だと40代で年収1200~1500万円位なので、わざわざリスクを取ってまで、このあたりの年収で外資系不動産会社に行く妙味はない。
このため、今のところ、年収のアップサイドに関しては、不動産部門のスキルを磨いたところで、IBDとか機関投資家セールスとか、ポートフォリオ・マネージャーのように5000万円~1億円という期待はしない方がいいだろう。
将来稼げる可能性はあるかも知れないが、目先、大きく稼ぎたいというのであれば、外銀IBDとかトレーディング、セールス、或いはバイサイドでのフロント部門を狙った方が手堅い。
最後に
就活生とか第二新卒の場合、まだまだ将来は長い。
年収については目先の年収だけではなく、将来の年収、ようするに生涯賃金ベースで考える必要がある。
従って、今稼げる職種・ポジションばかりを追いかけても、将来稼ぎ続けることは難しいかも知れないし、そもそもそのポジションに就くことは大変難しくなっている。
将来どういったスキルが稼げるかについて予測することは難しいが、若い段階でやるべきこととしては、なるべくフレキシブルに対応できるようにすることであろう。
その意味では、英語(グローバル)、金融、不動産投資と幅広く専門スキルを磨いておくのは悪くないキャリアプランではないだろうか。