序. ビジネス能力が問われるようになった現在の就活
20~30年以上前の、20世紀においては、就活でビジネス能力的なものが問われることは基本無かった。
当時は、外銀とか外コンというのは、1社せいぜい数人の時代であったので、今の様にエリート学生がファイナンスとかケースの勉強をして応募するということはなかった。
また、資源価格が高騰する前の1980~1990年は商社冬の時代と呼ばれ、今のような難関の就職先では無かった。
もちろん当時も、英語が出来れば入社後国際系の部署に配属される可能性が高いというメリットはあったものの、今の様に就活段階で英語力が問われることはなかった。
「学力採用」的なものは、国家上級公務員(今の国家公務員総合職)試験に合格するとか、司法試験の短答式に合格するとか、著名なゼミで成績優秀といったごく限られた学生だけの話である。
反対に、体育会の強さや価値は今よりも当時の方が高かったであろう。
ところが、日本経済の成長性とかグローバル経済におけるプレゼンスが当時と今とでは全く異なるので、ご存じの通り、英語とかファイナンス、経営戦略、マーケティング、企業分析、更にはビジネスファシリテーション(要するにGDとかで仕事を上手く進めるスキル)といったビジネス能力が就活で問われるようになった。
このため、大学の勉強なんて役に立たないし、やる必要が無いという昔とは事情が異なるので、大学のどういった科目に重点を置けば就活でも役立つのかについても関心を持たれるようになった。
1. 商学部/経営学部の場合は、経済学部よりも実務で使えそうな科目が多く見えるが…
昨日は、就活や将来のビジネスで役立ちそうな経済学部の科目について、慶應大学経済学部の科目を例に検討した。
https://career21.jp/2019-07-17-094048
今回は、商学部/経営学部系のお勧め科目について、慶應大学商学部のカリキュラムを例に検討したい。
商学部/経営学部系の科目は、簿記会計、ファイナンス、経営戦略、マーケティング、オペレーション、ベンチャー起業等、どれも就活とか将来のビジネスにおいて何らかの役に立ちそうに見える。
役に立つかどうかというのも、就活時に直ぐに使えるのか、将来のビジネスマンとしての糧になるという意味で長期的に役に立つのか、いろいろな考えがある。
ここでは、長期的な視点に立って、商学部/経営学部系の、どちらかというと「穴場」的な、或いは「意外に」役立ちそうな科目について紹介したい。
簿記会計、戦略、マーケティング等は、現在の就活においては何らかの役に立つのは明確なので、これらについてフォーカスしてもあまり面白くないからである。
3. お勧めの科目その1:管理会計系の科目
商学部/経営学部系の科目は大学によって異なるが、大学院ではなく学部のレベルにおいて共通している科目は多いはずである。
今回は、慶應大学商学部のカリキュラムを参考に検討していく。
<慶應義塾大学商学部 専門分野・専攻科目紹介>
http://www.fbc.keio.ac.jp/study/section03_detail01/index.html
お勧め科目のその1は、管理会計系の科目である。
慶應大学商学部でいうと、B会計の「管理会計各論」である。もっとも、これは三田(3~4年生)の科目なので、その前に日吉(1~2年)で「管理会計論」を履修・学習することが必要である。
「管理会計」て何?、という人もいるかも知れないが、その名の通り、会社が内部的に経営の意思決定や経営管理に使用する会計のことである。「原価計算」というのも管理会計の内の1つの科目である。
<管理会計とは?>
https://keiriplus.jp/tips/kanrikaikei_kiso/
商学部/経営学部系の学生からすると、財務会計とは異なり、管理会計とか原価計算と聞くと、計算が面倒臭そう、退屈そうに思えて敬遠しがちかも知れない。
しかし、この管理会計というのは将来の財務・経理の職に就く人以外にも広く関係のあるもので、経営に与えるインパクトが高く大変有用で面白い科目である。
金融機関なんかの業績至上主義的な業界においては、従業員(特に営業マンとかの歩合的な要素が強いフロント職)は全て管理会計(予算とかノルマとか報酬制度といったものである)に沿って動くので、管理会計は経営そのものという見方もできる。
また、管理会計は経営戦略・経営管理と密接な関係があるので、学生が大好きなコンサル志望者は勉強しておいて損はない。ABC分析とか、バランススコアカードといったものも広義の管理会計である。
<バランススコアカードとは>
https://globis.jp/article/4840
また、管理会計は会社によって自由に決められる仕組みであるので、その導入について差別化し易いスキルである。このため、例えば、ある程度成長を達成したベンチャー企業においても管理会計に詳しい人の需要はある。
それから、管理会計の基本中の基本の「損益分岐点分析」というのがある。証券アナリスト試験とかにも頻出なので聞いたことがある人も多いだろうが、ベンチャー起業を目指す人は必須の概念なのだが、実にこれがわかっていない起業家志望者が多い。
昔、「マネーの虎」で、損益分岐点について突っ込まれてボロボロになっていた出演者がいたが、ここを押さえておかないと、何時まで経っても儲からないビジネスのままである。
以上のように、一見地味で退屈そうな管理会計なのだが、その基本概念から応用まで含めて、非常に面白い科目である。
また、大抵の学生は知らないので、差別化し易いところでもある。
4. お勧めの科目その2:リスク・マネジメント系の科目
慶應大学商学部のカリキュラムでいうと、D3金融保険の「リスク・マネジメント各論」である。
リスク・マネジメントというのは、将来リスク・マネジメント関係の職に就く人以外にも、特に経営者を目指す人には知っておいて欲しい概念である。
そして、意外感があるかも知れないが、大企業の経営者を目指す人よりも、将来ベンチャー・起業(フリーランスを含む)を目指す人にとって有用な科目であろう。
何故かというと、ベンチャー起業家というのは、このリスク・マネジメントが弱い人が多いからである。金融関係者は、規制業種・被監督業種であって、日頃からリスク管理についてうるさく言われているのでそれなりに意識しているのだが、検査・監督とは無縁のコンサル出身者の意識が薄いところである。
例えば、仮想通貨について、コインチェック、Zaif、ビットポイントあたりはビジネス的には成功していたが、リスク・マネジメントの1つであるサイバーセキュリティ対策が不十分で大失敗してしまった。
他方、業界最大手のビットフライヤーは創業者がゴールドマン・サックス出身ということもあり、この手のリスク・マネジメントには敏感なのか、ハッキングによる流出問題は生じていない。
また、DeNAのWELQ問題とか、mixiのチケットキャンプ問題とかも、リスク・マネジメントという概念が経営者に希薄だったために生じたスキャンダルである。
ベンチャー起業というと、とにかく営業とか収益で精一杯なので、リスク・マネジメントには無頓着になりがちだ。小さいうちはまだ良くても、IPO直前とかIPO後になると、リスクは格段に高まるので、この分野への配慮が必要だ。
リスク・マネジメントというと、サイバーセキュリティ、オペレーションリスク、法令規制関係リスク、レピュテーションリスクなど対象が幅広い。
学生の間では、リスク・マネジメントの必要性・意識を持っておけば良いだろう。
この分野も真面目に勉強する学生は少ないであろうから、学生時代に真面目に勉強したり、関心を持っておくと、後々も有用なスキル・知識となり得るだろう。
5. お勧めの科目その3:産業史・商業史
学生にとって、「歴史」というと典型的な暗記科目で、とてもビジネスで使えるスキルにはならないように思われるかも知れないが、歴史というのはビジネスにおいても大変使えるスキルである。
最近では、週刊プレジデントとの特集とか、大前研一さんのコメントとかで、歴史がいかにビジネスにおけるスキルやアイデア醸成に役に立つかということが言われているので、ビジネスにおける歴史の効用というのが以前よりも認知されているかも知れない。
慶應大学商学部の科目でいうと、D6「産業史」がこれに該当する。
大学によっては、「商業史」という科目名が多いかも知れないが、どちらでも構わない。
ネット、AI、5Gといったテクノロジーの革新によって、新しいビジネスモデルとか巨大企業が登場するようになった。将来の予測が難しくなっただけに、新しいことを始めるに際しては、歴史的な考察がヒントになるということだ。
テクノロジー、社会環境、グローバル環境が変わっても、そこで生活する人間自体はあまり変わらないので、結局、過去と似たような行動・意思決定パターンを取ることが予想され、それをヒントにいろいろと将来を考察することは有用だということだ。
歴史は難しい計算とかは不要であるが、それを使いこなせる、思考回路に組み入れるには時間がかかる。しかし、歴史的な思考法は将来長きに亘って活用できるスキルなので、学生時代の講義をきっかけに自分の武器の1つとすることができれば良いだろう。
最後に
お勧めの科目、どちらかというと穴場系の科目に焦点を当てて検討したが、今の時代、就活生はやらなければならないことが多い。特に、英語力の習得には時間を要するであろう。
従って、上記のようなお勧め科目を全て真面目に勉強する余裕は無いだろうから、メリハリをつけてやれる科目だけ得意科目にすれば良いだろう。
終身雇用の廃止、新卒採用の多様化、くら寿司、ソニー、NECのような高額の初任給の登場など、今後新卒採用についてはますますスキルが重視されるようになるのではないだろうか?就活生としては、就活が実質的に早期化する中、やることが多くて大変だが、乗り遅れないように独自の武器、スキルを磨いておきたいものだ。