序. 勉強するようになった大学生?
知人の息子さんがこの春から慶應大学経済学部に進学し、将来、外資系金融を目指しているという。そこで、大学の講義のうち、就活やビジネスに役立ちそうな科目・講義について聞かれた。
20~30年前なら、「大学の勉強は適当でいいよ。外資狙いなら英語だけやっておけば?」というところなのだが、最近の大学生は昔と違って真面目に勉強をするようになったという。
そうであれば、せっかく慶應の看板学部に入学できたのだから、役に立ちそうな科目は勉強して武器にできた方がいいだろう。
そこで、慶應大学経済学部のカリキュラムを参考に、一般的に経済学部生はどのような科目・講義を勉強すれば就活や将来ビジネスで役立ちそうか考えてみた。
1. 実は、意外に経済学部の科目はあまり実務で役に立たない?
最初にこれを書くと身も蓋も無いのだが、実は、経済学部のカリキュラムは就活とかビジネスで使えるものは余り無い。それは20~30年前、いや、もっと昔からそうであろう。
理論経済とか計量経済とかは、エコノミストを目指す場合や、公認会計士試験、国家公務員総合職を受験する場合などを除いて、民間企業で使う機会はない。
もっとも、「役に立つ」という定義次第で、ファイナンスや財務会計の様に就活段階で直ぐに使えるような場合もあれば、長期的に教養・アイデア・思考法の基礎となるという点で役に立つという場合もある。
そこで、経済学部については、長期的な視点も含めて役立ちそう・面白そうと思われる科目について検討したい。
2. 慶應義塾大学経済学部のカリキュラム:基本科目の十分野
他の大学の経済学部もカテゴライズの方法は別として、似たような科目については受講可能であろう。慶應経済の場合には、HPで基本科目の十分野としてカリキュラムの概要が紹介されている。
<慶應義塾大学経済学部:学部カリキュラム 基本科目の十分野>
https://www.econ.keio.ac.jp/undergraduate/curriculum/curriculumup/mita_class
①経済理論
ここは経済学の根っこのところなので、この分野をサボると厳しいのでそれなりに真面目に勉強するしかない。
金融の専門職志望であれば、証券外務員試験、証券アナリスト試験(CMA)とか勉強することになるだろうから、ここで真面目に勉強しておけば後々便利であろう。
他学部の人は苦手な人が多いので、差別化しやすい分野とも言える。
②計量・統計
エコノミストを目指す学生は必須であるが、正直それ以外だと余り使う場面はない。
例えば、慶應の場合だと法学部から外資系金融に就職する者は多いが、こちら系はサッパリであろう。
IBD志望の場合、ファイナンス・企業財務の学習は必要であるが、別に計量経済的なスキルまでは要求されない。
そういうわけで、統計学あたりだと知っておいて損は無いかも知れないが、就活で下手に知ったかぶりをしても印象が悪いだけだろう。
③学史・思想史
法学部でいうと、法学史とか法哲学あたりに該当か?
大学によるが、この手の科目は計算が無いのでレポートだけで単位OKな科目が多いかも知れない。いずれにせよ、役に立つ分野ではない。
④経済史
一見、これは上記③と同じように、文学・歴史系のように見えてビジネスでは使え無さそうに思われるかも知れないが、実はこれはおススメである。
直接役に立たないかも知れないが、経済の発展の歴史に詳しいと、ビジネスアイデアとかビジネスセンスを磨く点で有用だろう。面倒な計算が求められないので、実は真面目に勉強しがいのある科目である。
⑤産業・労働
産業組織論あたりは教養として悪くないかも知れないが、必ずしもコスパが良い分野とは言えないだろう。この分野が好きだという学生がどれだけいるかは不明であるが、就活・実務という観点からは、優先順位は高そうな分野ではないだろう。
⑥制度・政策
「金融論」とかいうと、金融専門職志望には有望の様に見えるかも知れないが、別に知らなくても構わない。法学部とか商学部からでも外資系金融や国内系金融専門職に就職している者はいるが、そういった者は「金融論」を勉強したわけではない。
日銀、DBJとか、エコノミスト等を目指すような場合は別として、科目名のイメージ程はあまり役に立たない。
とは言え、金融専門職志望であれば「金融論」の単位を取って一通り学習するのは悪くないかもしれないが、ここで勝負をかける科目ではない。
⑦現代経済
この科目・講義の内容は、大学によっても異なるし、慶應経済の場合も先生によって異なるところである。ぱっと見、就活とかその後のビジネスの観点からはあまり面白そうには見えないが、先輩に評判を聞くのが良いだろう。
⑧国際経済
これも大昔からあるカテゴリーで、「国際経済」というといかにも恰好が良いが、「国際関係法」と同じで、実務的に役立つといった魅力があるわけではない。
「国際貿易論」とかは、総合商社志望の経済学生は受講してもいいかも知れないが、だからといって、その知識をお披露目してポイントを稼げるものではないだろう。
⑨環境関連
SFCぽい。外資系金融とかで「環境、環境」と連呼をすると、「稼げない奴」と思われるかも知れないので、要注意。見た目やイメージ通り、特に役立つ科目ではない。
⑩社会関連
これも、経済史と同様、ぱっと見は文学・歴史系のように見えるかも知れないが、こちらもおススメである。人口論なんて、何十年も前に証券会社の研修で説明を受けたが、結局経済・産業はこれによって大きな影響を受けている。
直ぐに役立つ科目では無いが、ここをしっかり勉強しておくと、長期に亘って、思考・分析力の強化につながるので良いだろう。難しい数学・計算も無いだろうからコスパの良い科目であろう。
3. 目先の就活とかビジネスでの使用頻度だと商学部科目に軍配が…
上記の通り、経済学部の科目というのは就活とかビジネスにおいて即効性があるものではない。ただ、勉強しておくと長期的に武器となるものもあって面白い。
金融専門職志望の場合だと、何といっても、ファイナンスや財務会計の知識が必須なので、結局商学部系の科目を勉強せざるを得ない。
ただ、慶應の場合、伝統的に経済学部が看板学部であり、経済学部と商学部をダブル合格した場合には95%以上の者が経済学部を選択している。(出所:東進ハイスクールの調査データを基にした週刊東洋経済2019.5.11号)。
従って、科目や講義の有用性ではなく、ステイタス性を重視して経済学部を選択したのであるから、その辺の手間は受け入れるしかない。
最後に
今の学生は、昔の学生よりも真面目に大学の勉強をするようになったと言われている。
実際、人気の業種・企業から内定を取ろうとすると、そもそも英語力があることが前提となるし、それに加えて、ファイナンスとかケーススタディ対策なども学習しなければならない。
従って、大学の勉強にそこまで時間を割けないし、全優(全A)を取ることが目的ではない。
慶應経済に限らず、他の大学の経済学部生も含めて、英語や他学部(特に経営・商学系)の勉強をしないといけないので、経済学の勉強については、メリハリをつけた対応が必要となるだろう。