それでも就活生はIBDを目指すか?国内の投資銀行ビジネスの将来性について

1. 今後日本における投資銀行(IB)ビジネスはどうなるのか?

外銀や国内系証券会社の投資銀行(IB)部門は、収益面で四苦八苦しているのが現状であるが、それでもトップクラスの就活生は外銀や国内系証券会社の投資銀行部門(IBD)を目指して、日々頑張っているようだ。

外銀でも国内系でも、日本で働く以上、仕事のほとんどは国内系企業がクライアントとなる案件であるので、将来の日本におけるIBビジネスの市場や展望が気になるところである。

2. 国内系大手証券会社は、IBDの経営戦略をどのように考えているか?

この点、国内系大手証券会社については、中期経営計画を見ればIBDにおいての重点分野や戦略の概要をおおよそ把握することができるはずだ。

ところが、これらを見ると、将来の日本におけるIBビジネスの収益源とか成長要因といったポジティブなものがなかなか見えてこない。

①野村證券のIBビジネスにおける戦略

まずは、業界トップの野村證券の戦略について見てみよう。

<野村證券の経営戦略より:27頁を参照>
https://www.nomuraholdings.com/jp/investor/presentation/data/2018_1204_prem.pdf

こちらは2018年12月に開催された経営戦略説明会用資料であるが、27頁にIBDの重点戦略が紹介されている。

野村證券のポイントは、「顧客の多様化:顧客ファイナンシング&ソリューション(CFS)」と名付けて、公的/政府系ファンド、ヘッジファンド、事業法人、アセット・マネージャーと顧客セグメントごとにメリハリをつけた施策を考えている。

もっとも、プロダクト別の施策というところを見ると、事業法人とのFX取引拡大とか資産流動化ファイナンスのバランスシートソリューションの提供と書かれており、何ら目新しさとか収益性の高さはうかがえない。

更に、ALF/DCMでは「アジア」における買収ファイファイナンス拡大、ECMでは「中国関連のIB業務における基盤拡大」とか「アジアでのブロックトレード」といった具合に、アジアの施策についてしか言及されていない。

これを裏から見ると、国内の投資銀行業務において新たに収益源は見当たらないと言っているようなものである。

②大和証券のIBDビジネスにおける戦略

それでは、長年、国内証券でナンバー2の位置にある大和証券のIBD戦略を見てみよう。

<大和証券の経営戦略:20-21頁>
http://www.daiwa-grp.jp/data/attach/2814_2019-J-Management_Strategy_Meeting.pdf

IBD戦略においては、野村證券よりも、まだ大和証券の方が方向性が明確だ。
まず、20pを見ると、「IPOマンデート獲得件数の増加を狙う」と見出しに書いてある。
要するに、大和証券はIBビジネスにおいて、IPOに注力するということだ。

具体的には、大和企業投資、大和PIパートナーズという傘下のVCを使う他、DG、WiLといった外部のVCとも広く連携強化して、ソーシング(案件獲得能力)を増強しようということだ。また、大和は2018年にメルカリのIPOで主幹事を取ったという実績があるので、ユニコーンIPO企業へのカバレッジ強化を行う方針だ。

これは、大和証券は国内IBビジネスにおいては、まだIPO、特にユニコーン案件を取りに行こうということなので、新規企業・ベンチャー企業を対象としたビジネスが期待できると考えているのである。

21pにおいてはM&Aビジネスについてである。ここでは、グローバルM&A案件についてグループ一丸となって頑張りますということで、ロゴの統一のようなことは書かれているが、これといった戦略や重点分野には言及されていない。
あえていうと、ミッドキャップマーケット(中規模案件)を強化する(2018年度は8位)ということ位である。

③SMBC日興証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券、みずほ証券のIBビジネスにおける戦略

残念ながら、野村と大和以外の国内大手証券会社は全て銀行の傘下に入っていて、非上場なので、経営戦略に関する資料は銀行の中でまとめて取り扱われているので、IBD単独の詳細な戦略はIR資料からはあまり読み取れない。

掛かれているのは、親銀行或いはグループ会社と一丸となって証券ビジネスを頑張りますという程度である。

④GCAの戦略について

他に、国内系企業でIBビジネスを展開しているところと言えば、GCAである。
GCAは基本的にM&A専業会社であるので、どのような成長戦略を考えているのか興味深いところである。

2018年度の決算説明資料によると、17pに「GCAの成長戦略」というのが半頁程ある。
これを見ると、グローバル統合の推進とクロスボーダー案件の増加、パリと英リーズオフィスの体制整備、福岡オフィス開設、トップ人材の戦略的採用と維持ということが言及されているが、国内市場の成長性を感じさせるような目新しい項目は並んでいない。

強いて言えば、「福岡オフィス開設」位で、これは中小型M&A案件の強化ということであろうか。

<GCA:2018年12月期決算説明会資料 17頁>
https://ssl4.eir-parts.net/doc/2174/tdnet/1676528/00.pdf

3. 国内のIBビジネスにおける魅力的な収益源は無いのか?

上記の国内系大手企業のIR資料から、IBビジネスの戦略を見てもあまり国内市場の期待感や成長性は湧いてこない。

野村、大和、GCAともに海外案件、クロスボーダー案件の強化ということをうたっているが、これは大昔から言われてきたことであるし、そもそも海外は外資系が強いので優良な案件を取り込むことは難しい。

国内市場においては、大和証券がIPOビジネスを強化し、特にユニコーン案件を取りこめたいというのが最もわかりやすく、期待がもてる位である。

特に、全体を通じて、IT/AI系のスケールの大きな話が全く出てこないのが寂しい限りである。ソフトバンクのアリババのように、将来GAFA、BATになり得るような銘柄を見つけて数兆円単位の儲けが期待できるような話がでてこない。
相変わらず、IBDのバンカー達は、ネット系のテクノロジーへの関心が薄いということがうかがえる。

また、国内では中小企業の後継者難ということが言われ、日本M&Aセンターとかストライクのような仲介会社は大儲けをしているのであるが、そういった企業を買収して、リテール店と組んでそちらを掘り起こそうという方向性も見えない。(もっとも、これはIBDではなくリテール部門の管轄かも知れないが)

このままだと、少子高齢化によって、国内系企業或いは国内市場が収縮すれば、それに比例して証券会社のIBビジネスも縮小するということになってしまう。これは寂しい限りである。

最後に

IBDを目指す就活生は、ファイナンス、直近のディールの調査、ジョブ対策等、大学3年次に行われる外銀IBDの選考対策で精一杯かも知れない。

しかし、今後の日本におけるIBビジネスの市場や展望を考えてみると、結構厳しいことに気が付くはずだ。それは、現に国内系大手企業でIB業務に従事している人達の経営計画を見ると明らかである。

外銀というとIBDでなければならないということは全くない。トレーディングとかセールスの方が拘束時間は短くて、稼げる可能性はあるし(もちろんクビになるリスクも高いが)、バイサイドでPMを目指したり、セールスを目指した方が長期的に稼げるかも知れない。

或いは、GAFAとか、ネット系ベンチャーを目指した方が、最初の給料は安くても将来的には遥かに稼げるかも知れない。

なかなか、就活中は考える精神的ゆとりは少ないかも知れないが、学生の間に幅広い視野で多様な可能性を検討しておきたい。