NECの新卒に1000万円の話と影響。初任給の多様化は拡がるか?

1. 何とNECも新卒に年収1000万円?

一定の場合、新卒でも高額の年収が可能となる話が最近急速に注目され始めた。
くら寿司の年収1000万、ユニクロの入社3年目で年収3000万、ソニーの新卒730万円に続いて、今週、NECが特定の条件を満たした場合には新卒でも年収1000万円が可能となる新人事制度を発表した。

2. 意外感のあるNECの新卒高額年収

経団連の終身雇用廃止宣言が出て以降、新卒の多様化の動きが見られるようになってきた。日本企業は横並び意識が強いし、多くの場合官僚的で社内的に強い権力を持っている人事部門としては、他社に後れを取りたくないために、可能であれば自社も追随したいところだろう。

もっとも、日本社会は妬みの強いカルチャーなので、既存社員の納得感とかが気になるところだし、予算を伴う制度なのである程度儲かっている会社じゃないと厳しいといった問題がある。

破格の初任給の新卒採用をやる意味があるとすれば、少なくとも以下の3つの条件を満たすことが必要と考えられる。

(1)収益性や企業財務が良好で、大盤振る舞いできる経済的余裕があること
(2)優秀な若手社員が採用できれば、それによる収益向上の見込みがあること
(3)既存社員の不満や反対を撥ねつけることが可能であること

結局、くら寿司とかユニクロは、オーナー企業で経営の自由度が高く、それなりに儲かっている会社である。また、ソニーは(3)の既存社員の目は気になるところだが、現在業績は好調だし、業種的にもお金を出しても良い人材を採るべき会社だ。

ところが、NECについては状況が異なる。IT系の企業であるので、(2)の優秀な人材を採用する必要性は高いものの、大量の既存の従業員を抱える保守的な大企業であるので、既存社員の対応が気になるところである。また、業績的に決して順調と言えないので、経済的に大盤振る舞いをしにくい状況になる。

従って、今回のNECの新卒年収1000万円の話は、結構サプライズであり、他業界に与える影響も大きいのではないだろうか?

3. 今後、高額の初任給の導入が期待される業界・企業について

NECでも、社内的に困難な状況があるにも関わらず、思い切って新卒での年収1000万円が可能となる新人事制を導入するのだ。同業他社や他業界の人事部門も、NECがやったのだから出来ない言い訳を考える訳には行かない。早めに導入を検討しないと、他社に後れを取るかも知れないというプレッシャーが出てくることになるだろう。

遅かれ早かれ、従業員の給与格差を容認する人事制度は拡がっていくだろう。その中でも、特に、高額の初任給の導入が期待される業界・企業について、以下考えてみた。

①電機業界

ソニーがやれば、次はパナソニック、NECがやれば、次は日立、富士通、三菱電機あたりの動きが気になるところである。

こういったIT関係の業界は、優秀なIT/AIに関する技術者が欲しいところだが、残念ながら給与水準は高くない。

しかし、特定の条件を満たす場合には例外的な高給がもらえるとなると、就活生の見方も変わる可能性がある。東大・京大の就職人気ランキングを見ても外資系が上位を占めているように、就活生は社会人が思っている以上に、若い時の給与水準を気にするからだ。
https://www.onecareer.jp/articles/1907

また、NECの場合は、高額の初任給がもらえるのは技術者(理系)を想定しているようだが、文系社員への拡がりが気になるところだ。日本の電機メーカーが競争力を失ったのは技術力が落ちたということよりも、ビジネスモデル、戦略的な要素が多分にある。
従って、文系社員にも高額初任給が適用されるとなると、外銀、外コン、商社あたりからも人材が流れて来るかもしれない。

②通信業界

具体的には、ドコモとKDDIである。両社は業績絶好調であるし、日本企業にしてはそこそこ中途採用もやっている方である。しかし、ソフトバンクと比べると、優秀な人材に対する執着心は強くないように見える。
両社は、ソフトバンクのアリババの投資のようなことが出来ていたら、数兆円規模の含み益が出来ていたかも知れない。良い人材を採れば、とてつもないリターンが返ってくるかも知れないのがこの業界の特徴であるので、思い切った人事制度の改革が期待される。

大胆な給与制度の導入ということであれば、親会社以外の別会社を作って導入する方法もある。KDDIはCVC事業を手掛けているが、そこで数千万円の年収が可能となると、ゴールドマン・サックスとかマッキンゼーあたりからも人を呼べるかも知れない。
そうなると、今までは取り込めていないトップレベルの就活生も採用できるようになるのではないだろうか。

③ベンチャー業界

本来無理をしてでもいい人材を採るべきなのはこの業界である。
母集団の人数が少ないので、少数の優秀な人材採用による影響・効果が大きいし、既存の大企業のような導入における問題点も少ない。

DeNAとかグリーはかつてこのような新卒年収1000万円の話があったが、実際に適用者が出たのかはよくわからないままである。

しかし、実際に該当者がそれなりに出れば就活生とか他社の社員の目も変わってくるのではないだろうか?ゲーム業界は収益的に厳しいものの、それでも1つあたると莫大なリターンが生じる。従って、コロプラ、アカツキ、ネクソン、Cygames、gumiあたりもこのタイミングで導入してみることが期待される。

また、既上場の大手ベンチャーだけではなく、IPOをしていない段階の期待のベンチャー企業も、もう少し新卒や若手社員の報酬について思い切った措置を講ずるべきではなかろうか。

「報酬・待遇ばかりを気にする人は採らない」といったことを言っているようなケチなベンチャー企業にトップクラスの人材が集まるわけがない。UberとかAirbnbなんかも早い段階から高額の年収を提示して優秀なエンジニアを集めていたし、日本のベンチャーでもメルカリとかビットフライヤーなんかは、これという人材には年収1000万円以上を提示している。

現金給与が難しい場合には、ストック・オプションを使えばいいのだ。
夢や野望は語るが、株も給料も無い従業員に夢も希望もあるわけがない。
理念や共感だけで動くのは創業メンバーだけであり、外から良い人材を採ろうと思えば、それなりの報酬を用意しなければいけないというのは当然である。
ここが変わらないと、トップクラスの就活生とか若手社員は(IPO前の小規模な)ベンチャー企業には興味を示さないままだろう。

④外食・塾業界

これらの業界は、就職偏差値・就職難易度において最も低評価の業界の1つだ。
ところが、くら寿司の年収1000万円コースには、東大や早慶の学生が定員10人のポジションに対して既に170人以上が応募しているという。

初任給をいじるだけで、一気に新卒採用において逆転が可能となるのだ。
また、早めに導入すると、マスコミに取り上げてもらえ、採用に熱心な会社ということでPR的な副次的な効果もあるだろう。

外食とか塾の中には、収益的に好調な企業もあり、いい人材が採れれば十分回収が可能なケースもあるだろう。

従って、くら寿司に続く企業がこれらの業界から現れることを期待している。

⑤金融業界

金融業界といっても、メガバンクとか、証券とか保険業界ではない。
こういったところは規制業種であり、少数の優秀な新人を取ったところで大きく変わることは期待できないし、それに多少は柔軟な報酬を支払える中途採用はある程度やっているからだ。

ここで面白いのは、いわば端っこの金融業界で、少人数でいい人材が獲得できれば収益も大幅に増える見込みがあるようなところだ。

例えば、仮想通貨交換業者とかFX業者だ。マネーパートナーズ、GMOコイン、フィスコ、DMM Bitcoin、ヒロセ通商といったところだ。

或いは、独立系の資産運用会社で、ひふみ投信とかだ。

また、免許とか登録といった金融免許が必要ない場合もあるが、M&Aのブティック企業なんかも面白いと思う。M&Aセンターとかストライクは積極的に中途採用に取り組んでいるが、新卒に高給を出して良い人材を囲い込んでも面白いし、小規模なM&Aに特化したWebサイト中心のベンチャーなんかも面白い。

非常にヒエラルキーが強い金融業界であるが、フレキシブルな給与体系が導入されると、基本カネで動く人達が多い業界なので、効果はそれなりにあるのではないだろうか。

最後に:多様な初任給の導入は就職地図を変える可能性がある

就活においては、とにかく特定の人気業種に集中する。
これは、そういった業種は将来性、ステータス、スキル獲得に加えて、何といっても給与水準が高い。

ところが、くら寿司とかNECのようなケースが拡がると、企業名だけで就職先の善し悪しを判断できなくなってしまう。

実際、金融業界においては、IBD、グローバル・マーケッツ部門におけるコース別採用が行われているが、そういった専門職採用のポジションと普通の総合職とでは、トップクラスの就活生の評価・見る目が全く異なっている。

初任給という新たな評価軸が加わることによって、就活における対象先の企業が拡がると、就活生も嬉しいし、日本の産業全体の活性化にもプラスだと考えられるので、これは期待ができるのではないだろうか。