高校生からの質問。年収重視の場合、東大経由で外銀に行くのと医学部とではどちらがお勧めか?

1. 「年収重視」という判断軸が無いと一概に決められない問題であるが…

外資系金融の場合、子供が有名進学校に通っているケースも少なくなく、進路に関する家族の話題で当然このような話になることもある。

外銀と医師(医学部)の比較と言っても、その子供の価値観、適性といった主観的なファクター無しには判断できない個別的な問題である。

とは言え、「年収」というのは比較的客観的かつ重要なファクターであるので、この点に重点を置くという前提を置けば、一定の方向性を示して上げることは可能であろう。

2. 結論的には、医学部に進学し医師を狙う方が良い

いきなり結論であるが、子供が高校生である場合、東大経由で外銀を狙うよりも、どこか医学部に進学して医師になる方がお勧めである。

なお、何故「東大」かということであるが、それは単に外銀に入れる可能性が最も高いというだけなので、慶應とか京大に置き換えてもいいが、その分確率は下がることになる。

ステータスとかを加味せず、「年収重視」という判断軸なので、これは意外感がある結論かも知れない。しかし、それには、以下の様な理由がある。

(1)外銀の年収水準はリーマンショック後に大幅に下がった
(2)生涯賃金という時間軸で考える必要がある
(3)リスクを加味する必要がある

以下、これらについて、もう少し具体的に検討する。

2. 外銀の年収水準はリーマンショック後に大幅に下がっている

外銀が高収入だとイメージは、リーマンショック前に拡がったと思われる。
確かに、リーマンショック前の好況においては、高収益部門のフロント職であれば、VPクラスで年収1億円はごろごろいたし、MDの中には、年収7億円というケースもあった。

年収のイメージは、極端な成功者のハロー効果が大きいし、また、何といってもリーマンショック後にはボルカールールによって外銀のビジネスモデル自体が以前のように稼げるものでなくなったので、年収水準は大幅に下がっているのだ。

現状では、年収1億円というのが非常に難しくなってきている。

3. 生涯賃金という時間軸を考慮する必要がある

これは、子供がまだ高校生と若く、長期的な視点で判断する必要があるからである。
外銀VS医者、という場合以外も、「年収」だけが過度にクローズアップされてしまうことが多い。

例えば、最近だとユーチューバーで年収1億円とか、フリーランスのブロガーが年収1億円という話があるが、それは、外銀の年収1億円とか医師の年収1億円とは同列に比べられないことは明らかであろう。

それは、その高年収の持続可能期間が短いと考えられるからだ。従って、推定的な要素が加わるが、生涯賃金という観点で判断する必要があるだろう。

それでは、外銀と医者の生涯賃金についてシミュレーションをしてみよう。

①外銀(MDまで昇格)の生涯賃金のシミュレーション

外銀の場合は、成功ケースでフロント部門のMDまで昇格し、無事45歳まで勤め終えることができたケースを想定する。

この場合、
22歳から28歳のアナリスト・アソシエイトの6年間の平均年収を2000万円、
29歳から35歳の(S)VPの6年間の平均年収を5000万円、
36歳から45歳のMDの10年間の平均年収(退職金も込とする)を1億円とすると、
外銀の生涯賃金は、6×2000+6×5000+10×1=14億2000万円となる。

②医者(開業医)の生涯賃金のシミュレーション

それでは、医者については、途中で開業(美容外科ではなく保険診療)することを前提にシミュレーションしてみよう。

26歳から35歳までの10年間、勤務医としての平均年収を1500万円、
36歳から70歳までの35年間、開業医としての平均年収を3000万円とすると、
医師の生涯賃金は、10×1500+35×3000=12億円となる。

③外銀と医者の生涯賃金のシミュレーションの評価

シミュレーションの数字だけを見ると、若干、外銀が医師を上回った。
もっとも、外銀MDも医者(開業医)の場合も、シミュレーションの数字の置き方はいくらでもやりようがあるし、ツッコミどころはいくらでもあるだろう。

ただ、ポイントとしては、開業医の場合は生涯賃金10億円に到達するということはある程度認知されているだろうし、外銀の場合もMDまで昇格できれば10億円は突破できることについても異論はないだろう。

実は、ここで聞いてきているのが上記のリーマンショックの前後の違いである。
リーマンショック前であれば、MDまで到達すると、生涯賃金面においても外銀が医師(開業医)を圧倒できた可能性もあったが、今ではそこまで圧倒するほども稼げなくなったということは言えるだろう。

純粋に、生涯賃金という金額だけをシミュレーションしてみると、若干外銀の方が優位かも知れないが、重要なのは、後述するリスク面である。

4. リスクを加味するとどうなるか?

重要なのはこの点である。既に社会人で金融機関に勤務している場合には、今更、医学部に入り直すのと外銀に転職することの比較という選択肢が無いので、リスク云々と言っても、外銀に突っ走るしか方法が無い。

しかし、まだ高校生で外銀か医学部かを選択できる段階であれば、当然年収実現に関する確率、リスクを考慮すべきであろう。

結論的にはお分かりだろうが、リスクを加味すると、外銀コースは医学部コースよりも断然不利である。

そもそも、医学部に進学すればほぼ全員医師になることができる。
しかし、外銀の場合は、そういうわけには行かない。外銀に入れる可能性が最も高い東大に進学できたとしても、外銀から内定をもらえる可能性は高くはない。東大生でも外銀から内定をもらえる人よりも落ちる人の方が遥かに多いのだ。

更に、運よく外銀に就職できたとしても、そこからの生存競争がとにかく厳しい。
激務に耐えて、3年後のアソシエイト昇格時には同期の半分も残っていないのではないだろうか?
そこから3年後に、VPまで昇格できる人は更に絞られる。
そして、最高位のMDまで昇格できる人は、同期の1割もいるだろうか?せいぜい多くて2割位ではないだろうか?

もちろん、このキャリアパス以外にも、国内系金融機関経由でVP以上で外銀に中途採用で入社したり、事業会社からMBA経由で未経験アソシエイトとして外銀に入社するケースもある。しかし、いずれにせよ、そこからMDまで昇格して生き残るのは大変であることには違いない。

このように、リスク面を考慮すると、明らかに外銀より医師が堅いということは納得していただけるのではないだろうか?

最後に:ポイントは外銀マン2世がいないこと

年収の多さを判断軸とした、外銀と医師との比較は、前提条件の置き方によって結論が異なるだろう。ただ、リーマンショック以降については、期待値的な視点で比較すると、医師に軍配という考えの人が多いのではないだろうか。

外銀で働く人が出始めたのは、1990年代であり、子供が社会人になった外銀マン或いは元外銀マンはいくらでもいるだろう。

一般的に外銀マンは教育熱心であるが、子供も外銀という外銀マン2世というのは聞いたことが無い。反対に、子供が医学部にいったという話はよく聞く話である。

そう考えると、やはり、リスク面や生涯賃金という観点を加味すると、外銀を狙うよりも医学部を狙うキャリアが魅力ということだろうか?

外銀コースでも医師に勝てないとなると、考えようによっては、今の難易度でも医学部はお買い得という考え方もできる。

しかし、日本の産業界の将来の発展を考えると、優秀層がみんな医学部に吸い取られてしまうのは残念な話ではあるが…。