1. GMARCHの就職力を厳密にランキングするのは難しい
有力私立大学の学校群のGMARCHである。
キャンパス立地が基本的に東京であり、マンモス校も多いので、大学受験においても就活においても非常に注目度が高い学校群である。
このため、GMARCHの各校の就職力の強さというのは、大学の評価の象徴でもあるので大変気になるところである。
そこで、GMARCHの就職力について、その中でどこが強いかについてのランキングがあれば興味深いのであるが、厳密に就職力をランキングするのは難しい。
何故なら、そもそも大学によって就職状況の開示度合いが異なり、上位20社とか30社までしか開示していない場合が多い。また、一般職と総合職の区分をしていないところが大半である。
それに、就職力、就職の善し悪しというのは何となくわかるが、それを定量化することは難しい。例えば、GMARCHの就職者のシェアが高い金融業界を見ても、メガバンク、大手証券、大手生損保、政府系金融機関の順位付けをするのは難しい。
もちろん、例えば金融機関の場合、外銀>国内系大手>地銀、といったレベルの序列化は可能かも知れないが、スコアリングするのは難しい。
そして、業種が異なれば、更に序列やスコアリングは難しくなる。
2. 大雑把なランキングは「有名企業への就職率」がわかりやすいか?
以上のような状況から、GMARCHの各校の就職力を序列化するのは難しいが、大雑把なランキングで良ければ、比較的客観的で参考になるものは、東洋経済社が公表している「有名企業への就職率」が高い大学ランキングである。
これは、誰もが知っている「有名企業400社」に対して、卒業生(大学院進学者を除く)のうち、どれだけの割合で就職しているかを算出したものである。
単に「大企業」とか「上場企業」という括りであると、大雑把すぎるし、皆が憧れの人気企業というのはもっと限定される。このため、「有名企業400社」の選定基準というのは多分に主観的ではあるものの、みんなが知りたいランキングに近いものと思われる。
このランキングも、公務員が含まれないので公務員の就職率が高い大学をどう考えるかとか、一般職割合が考慮されていないとか、外資系企業はどうかというツッコミどころは満載であるが、結果だけを見ると、それなりに納得感のあるランキングになっているのではないだろうか?
このランキングからGMARCH関係を抽出すると、以下の様になっている。なお、こちらは最新のデータではないかも知れないが、大きく順位が変動するものでは無いので参考にできるだろう。
〇有名企業400社への実就職率が高い大学(2018年卒)
順位 | 大学名 | 400社実就職率(%) |
18 | 青山学院大学 | 30.9 |
24 | 明治大学 | 28.4 |
26 | 学習院大学 | 27.5 |
32 | 立教大学 | 25.8 |
40 | 中央大学 | 23.2 |
44 | 法政大学 | 21.8 |
<出典:東洋経済「有名企業への就職率」が高い大学ランキングより抽出>
3. 有名企業400社への実就職率ランキングの結果と感想
このランキングは多分に主観的要素が含まれるので、順位とか就職率の数字の細かな点にこだわる必要は無いだろう。
もっとも、GMARCHのランキングを見ると、それなりに納得感というか、イメージに近い結果になっているのではなかろうか?
GMARCHの中で偏差値的な難易度の高い、青学、明治、立教が上位に付けている。
他方、中央と法政は相対的にこの3校よりもランキングは下になっている。
ただ、青学、明治と比べると、法政が少し数字的に離されているのが若干気になるところである。
また、GMARCHという大雑把な括りだと、就職者の2~3割がそれなりの人気企業・大企業に就職できているという事実は、それなりに実態に見合ったものではないだろうか。
それから、GMARCHという学校群の外の学校と比べると、早稲田の順位が6位で実就職率が37.2%となっている。この点も、就職力において、GMARCHは早稲田には敵わないという実感とも合致するように思われるがいかがだろうか?
これは「率」によるランキングなので、上位3校は東京工業大学、一橋大学、国際教養大学という国公立の小規模単科大学であるので、GMARCHのような大規模総合大学にとって参考にならない。
早稲田の37.2%、東京理科大学の36.8%、上智大学の33.5%あたりが目標値としては参考になるかも知れない。
4. 総合商社の就職力に関するGMARCHの比較
誰もが知っている大企業/人気企業への就職率というのを基準にすると、GMARCHの中では、青学、明治、立教が中央、法政よりも若干有利ということであった。もっとも、その差は特別大きいとまでは言えない。
それでは、最難関企業への就職力ということで、総合商社への就職者数について調べてみると以下の様になる。企業は大学別の内定者を公表しないので、メディアが集計したものを参考にする他無い。こちらのデータは最新の年度のものではないが、2020年の集計分については、三菱商事、伊藤忠、丸紅の学校別データしか無かったのでこちらを参照するものとする。
総合商社への就職状況(出所:AERA2019.8.5号 「主要50大学の人気企業への就職者数」より外資系金融キャリア研究所が抜粋)
三菱 |
三井 | 住友 | 伊藤忠 | 丸紅 | 双日 |
合計 |
|
明治 | 1 | 2 | 3 | 3 | 2 | 5 | 16 |
青学 | 2 | 1 | 7 | 2 | 3 | 5 | 20 |
立教 | 3 | 3 | 7 | 3 | 1 | 8 | 25 |
中央 | 0 | 1 | 3 | 2 | 0 | 1 | 7 |
法政 | 0 | 2 | 1 | 0 | 1 | 1 | 5 |
学習院 | 1 | 2 | 0 | 2 | 1 | 3 | 9 |
早稲田 | 17 | 30 | 31 | 20 | 18 | 7 | 123 |
これを見ると、GMARCHの中での上位校とされる、明治、青学、立教と、中央、法政、学習院との差が開いているように見える。もっとも、年次によって変動のある統計だろうし、中央大学の場合、前年度は12人であったので来年度は改善する可能性もある。いずれにせよ、法政はもう少し頑張りたいところだ。
注目すべきは、早稲田との総合商社への就職力の違いである。GMARCHとは5~10倍位の差がついてしまっている。また、統計は無いが、おそらく外銀・外コンについても同様であろう。
ここでは、大学入試難易度とか知名度を遥かに上回る差が付いているので、超難関企業への就職力というのがGMARCHの課題ということであろう。
なお、MARCHから総合商社に就職するための戦略について興味がある方はこちらの過去記事をご参照下さい。
<MARCHから総合商社の内定を取るための戦略について>
https://career21.jp/2018-11-28-140154
5. メガバンク、その他大手金融機関への就職力に関するGMARCHの比較
総合商社への就職力が、GMARCH共通の課題であると考えられるが、メガバンクや生損保、証券等への大手金融機関への就職状況はどうだろうか?
メガバンク3行と、損保、生保、証券の最大手である東京海上日動、日本生命、野村證券への就職状況について集計すると以下の様になった。(2019/3卒。一般職を含む)
三菱UFJ | 三井住友 | みずほFG | 東京海上 | 日本生命 | 野村證券 | 合計 | |
明治 | 26 | 12 | 35 | 12 | 20 | 26 | 131 |
青学 | 29 | 19 | 23 | 11 | 16 | 22 | 120 |
立教 | 30 | 16 | 15 | 13 | 18 | 8 | 100 |
中央 | 28 | 18 | 23 | 6 | 16 | 18 | 109 |
法政 | 21 | 18 | 19 | 7 | 13 | 22 | 100 |
学習院 | 17 | 9 | 16 | 1 | 11 | 5 | 59 |
早稲田 | 83 | 70 | 62 | 53 | 35 | 28 | 331 |
大手金融機関への就職状況(出所:AERA2019.8.5号 「主要50大学の人気企業への就職者数」より外資系金融キャリア研究所が抜粋)
これを見ると、総合商社とは異なり、GMARCHは全般的に大手金融機関への就職に強いということは言えるだろう。学生総数がMARCHと比べると少なめの学習院の就職者数は落ちるものの、MARCHは全て上記の金融機関の中でもトップクラスの企業に100人以上も送り込んでいる。
特に、商社では苦戦していた中央や法政も、最大手金融機関では十分な結果を出していると言えるだろう。
もっとも、GMARCHの場合は、一般職の割合が高い(逆にMARCH女子は大手金融機関の一般職に強い)分、総合職だけを見ると少なくなるので、この点は課題と思われる。
また、大手金融機関の場合は、国内マーケットがメインであるので少子高齢化による市場の縮小が懸念される。そして、メガバンクの大幅な店舗削減の動きを中心に、今後新卒採用者数が減少傾向になるおそれもある。このため、大手金融機関の枠が減った場合に、どこを狙うかを各学生は十分戦略的に検討する必要があるだろう。
6. GMARCHの各校の看板学部はどうか?
それでは、GMARCHの各校における学部間の就職力の差はどうであろうか?
学生の間は、GMARCHに限らず、早慶、関関同立といった大学においても学部間格差は気になるところである。
しかし、GMARCHの場合、就職力について見ると、学部間格差というのはあまり見られない。
例えば、GMARCHの中で伝統的、偏差値的に看板学部と言われるのが、中央大学の法学部、明治大学の政治経済学部、青山学院大学の国際政治経済学部あたりではないだろうか?
それぞれの学部の就職と課題の分析については以下の通りである。
<中央大学法学部の就職と課題>
https://career21.jp/2019-03-25-183044
<明治大学政治経済学部の就職と課題>
https://career21.jp/2019-06-28-151714
<青山学院大学国際政治経済学部の就職と課題>
https://career21.jp/2019-03-05-064643
GMARCHの中でも、中央大学法学部は別格であるということには余り異論はないかと思われるが、中央大学法学部の場合には司法試験或いは公務員試験で勝とうという戦略であるので、民間企業の就職力においては他学部とそれ程大きく変わるわけではない。
もっとも、NHK、アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティング、博報堂、住友商事、野村総合研究所、伊藤忠、三井物産、アマゾンジャパンといったところに複数名就職者がいるなど、光るところはある。
青山学院国際政治経済学部も、日本航空、サイバーエージェント、テレビ朝日に複数就職者がいるなど、光るところはあるものの、全体で見ると他学部と比べて明らかに言いというわけでは無さそうだ。
明治大学政治経済学部については、上記2学部以上に他学部との差異は見られない。歴史的には法学部が最難関学部であった時代もあったからだ。
これらは、伝統的な看板学部であるが、最近では歴史はあまりないにも関わらず、国際系の学部がどこも人気であり入試難易度も高い。
従って、就職力という点においては、あまり学部差に拘り過ぎない方がいいのではないだろうか。
7. 令和の時代においてGMARCHの注目学部はどこか?
まず、全体的にGMARCHの国際系の学部はどこもおススメである。
何故なら、少子高齢化による国内市場の縮小は避けられず、企業が生存しようとするとグローバルで稼ぐか、新規事業を産み出す他方法が無い。
ところが、学生に限らず社会人においてもグローバル・リーダーシップを有する人材は大幅に不足している。だからこそ、くら寿司がグローバル人材を前提として新卒に年収1000万円をオファーするのである。
したがって、英語力に加えてグローバル経験に重点を置いて教育する国際系の学部は今後ますます注目されるのである。
その中では、特に、以下の3学部に注目をしたい。
また、国際系の学部ではないが、中央大学法学部に大いに期待したい。何故なら、キャンパス立地が遂に多摩キャンパスから都心(茗荷谷)に移転することが決定したからである。
①立教大学経営学部
今、GMARCHの中で最も注目されているのはここの学部ではないだろうか?
立教大学経営学部の魅力は、グローバルという国際系的な魅力に加えて、ビジネス・リーダーシップというファクターが加えられていることだ。
就職という観点からすると、国際系の学部は英語力という点では望ましいのであるが、外国語学部・文学部・社会学部的なイメージがあり、決定打に欠ける印象も無くはなかった。
しかし、立教大学経営学部の場合は、ビジネスに関する洞察力・思考力にも重点を置いた教育を目指している。
新卒採用において、企業も従来ではあまり重視してこなかったビジネスセンス・企業分析力についても最近では重点を置くようになっており、英語力に加えてビジネスセンスを持った学生は大変魅力があるだろう。
IT/AI、ベンチャー起業という切り口が加わると更に良い。立教大学自体も経営学部においては立教全体を引っ張る存在として戦略的にも重点を置いているので、今後の飛躍が楽しみである。
<立教大学経営学部の狙うべき就職先について>
https://career21.jp/2018-11-19-160902
②中央大学国際情報学部
GMARCHの中で、立教大学経営学部の次に面白いのはここでは無いだろうか?
これは新設の学部であるが、何といってもキャンパスが市ヶ谷にある。中央大学の弱みである多摩キャンパスの立地の不便さと無関係である。
これは、国際系の学部に加えて、ITという点にも重点が置かれている点が特色である。
立教大学経営学部は、国際+ビジネスという切り口に対し、中央大学国際情報学部は、国際+ITという切り口で、多数ある国際系学部の中で差別化を図っている。
日本の市場は少子高齢化によってほとんどのセクターで市場の縮小が予想される。しかし、IT関連だけは例外的に国内でも今後成長が見込まれる数少ない分野では無いだろうか。
ここの留意点は、他の大学の国際系学部と比べると英語の習得がどの程度できるかという点が若干気になるが、それでも立地やカリキュラムの点において今後の飛躍が大いに期待されるところである。
<中央大学国際情報学部の就職と課題>
https://career21.jp/2019-05-30-110651
③学習院大学国際社会科学部
こちらも新しい学部で、2016年4月に新設され、2019年7月時点でまだ卒業生はいない。
この学部の魅力は、何といっても偏差値がまだ高騰していないという点である。
国際系の学部はどこも人気が高く、1~2ランクは難易度が高くなっている。
ところが、ここはパスナビ調べだと、偏差値57.5~60.0で非常に魅力的である。
https://passnavi.evidus.com/search_univ/2310/difficulty.html
おそらく、学習院はMARCHの括りから漏れているので、若干マイナーな感じがするのかも知れない。
しかし、学習院も学校自体が熱心に就職をサポートしているし、知名度やイメージは悪くない。そして、当然今後もグローバル人材に対する需要は強いので、徐々に人気が出てくる可能性はある。
狙うなら難化する前のタイミングであり、こちらも今後の飛躍が期待されるところである。
<学習院大学国際社会科学部の就職と課題>
https://career21.jp/2019-06-28-112430
④中央大学法学部
中央大学法学部のキャンパスの移転というのは、単に学生の生活が便利になるだけではとどまらない。人気という点で、偏差値が上昇することに繋がる。そうすると、得意の司法試験(法科大学院進学や予備試験)での実績も長期的に向上するだろう。さらに、都心のキャンパスに通うようになると、東大や早慶の友人とのコミュニケーションが取りやすくなったり、就活イベントやインターン等に参加し易くなる。そうなると、就職力の向上にも繋がり易い。従って、キャンパスの都心移転以降の中央大学法学部の復活が期待される。
8. GMARCHから内定を取りまくる、就活無双の学生の特徴
①体育会と帰国子女/留学経験者が強いのは言うまでもないが…
GMARCHの場合、有力企業から内定を取りまくる就活無双の学生が存在する一方、大手企業から全く取れない学生も存在する。学部の差による就職力の違いはあるが、結局、就活力は個々の学生の能力や資質、就活対策によって決定される。
GMARCHの場合、総合商社から内定を取れる学生も人数は多くないが毎年存在する。そういった学生は、大手金融やマスコミ、コンサル、人気メーカーからも次々と内定を取っている場合が多い。やはり、業種を問わず、企業から見て優秀と思われる学生は共通しているのだろう。
GMARCHの就活無双の学生の特徴としては、体育会や帰国子女/留学経験者があげられる。しかし、体育会と言ってもメジャー体育会からマイナー体育会まで様々であり、当然就職力も異なって来る。そして、最近は全般的に体育会の就職力が落ちてきていると言われる。確かに、体育会で培われた協調性や忍耐力を有する人材は、どんな企業でも欲しいだろう。しかし、日本企業の共通の課題としては少子高齢化に伴う国内市場の縮小がある。それを解決するためには、海外で稼ぐか、新規事業で稼ぐ他なく、グローバル人材や事業創造能力を有する人材が求められる。しかし、体育会では英語力やビジネスセンスが培われる訳ではない。
また、就活においては、ESでも面接でも、webテスト、ESや面接で問われる志望動機、自己PR、ガクチカ、企業研究、GDスキルなど、多くのことが求められ、体育会では対策に時間が取れないと言った問題点が生じる。
他方、帰国子女や留学経験者等の、グローバル対応能力の高い学生に対する企業からのニーズは高い。また、この種の学生は行動力や情報収集能力に長けている場合も少なくなく、就活センスが高かったりもする。
このため、GMARCHの中でも帰国子女/留学経験者は人気企業の就活において有利であると言えるだろう。
②体育会や留学経験者ではない就活強者も存在する
就職に有利だという理由だけで、体育会に入る訳にはいかない。また、グローバル経験が望ましいということはわかっていても、コロナの状況下、海外留学することは難しい。
しかし、非体育会、非帰国/留学経験者であって、他に特段のガクチカを有しないGMARCHの学生の中にも就活強者は存在する。それは、一言でいうと、「就活のプロ」だ。
この「就活のプロ」学生の特徴としては、①就活開始が早い、②幅広い業種に挑戦、③OB訪問数/面接数が非常に多い、④マスメディアやSNSからの積極的な情報収集、⑤徹底的な企業研究。⑥文章力やプレゼン力が優れている、といったことが指摘できる。
要するに、情報収集、企業研究、OB/会社訪問に精力的に取り組み、ESと面接の質をPDCAを回しながら磨いて行くのが、就活強者の1つのバターンだ。
他にも、少数であるが、1点突破型の就活強者も存在する。例えば、企業のIR情報の分析力が非常に高い、ブログ・SNS運営に長け収益化出来ている、歩合営業系のバイトで大きく稼いだ等である。
GMARCHの場合、体育会や帰国子女でも難関企業に内定できる可能性はある。こういった就活スキルに優れて難関企業から就活無双した先輩を見つけて、参考にしたいところだ。
最後に
GMARCHの就職力について厳密にランク付けをすることは難しいが、大雑把なイメージとしては、東洋経済社が公表している有力企業への就職率ランキングが参考になるだろう。
これによると、GMARCHの就職力は、ある程度、偏差値とかイメージ通りに並んでいるように思われる。もっとも、その差異はそれほど大きなものではない。
また、看板学部とそれ以外の学部との就職力の格差についても、学生が気にする程のものではないだろう。
重要なことは、GMARCH間の就職格差を気にするよりも、自分が希望する業種・企業への就職の可能性を高めることである。
そういう観点では、個性的な国際系の学部も登場してきており、今後の飛躍が期待される。