1. 外銀でも国内系でもIBD職に就くのは難しい
高年収と金融プロフェッショナルとしてのスキルが付くことが魅力なので、グローバル金融機関の投資銀行業務の経営難にも関わらず、外銀IBDの人気は高い。
また、IBDは中小の外銀にはポジションが無かったり、欧州系もIBDのポジションを増やそうという方向性に無いため、外銀IBDの新卒採用の枠は足りない。
従って、外銀IBDを本命としている就活生は、国内系証券会社のIBDも併願するので、こちらも外銀に負けず劣らず非常に狭き門である。
2019/3期の野村、大和といった大手証券会社の決算を見ても明らかであるが、国内系証券会社も収益的には楽では無いので、IBDの新卒のポジションは拡げてくれないのだ。
2. IBDが無理なら、事業会社のM&Aはどうか?
外銀にせよ、国内系証券会社にせよ、IBDのポジションに就くのは難しいとなると、M&A業務をやりたい学生はどうすればいいのだろうか?
アカウンティング・ファーム系のFASと呼ばれる部門を狙うとか、GCAとかフロンティア・マネジメントのようなM&Aブティックを狙うという手もある。
しかし、それらにも問題点があったり、内定を取るのもそれほど簡単では無い。
そこで、思い切って、非金融の事業会社の企画/財務部門に新卒で入ってM&A業務に従事させてもらい、経験を積んでから、外銀IBDに中途採用で転職する手は可能か気になるところである。
3. 結論的には、事業会社のM&A職から外銀IBDへの転職はほぼ不可能
残念ながら、事業会社のM&A部門でM&Aに関するスキルや経験(企業財務、M&Aストラクチャー、DD等)を一通り身に着けても、外銀IBDが求めるスキルは身に付いていないからだ。
どういうことかというと、外銀IBDのビジネスモデルは外銀自らがM&Aの当事者になるのではなく、M&Aアドバイザリーに事業会社から任命されてフィーをもらうというものだ。このため、望まれるのは如何に事業会社を説得して、M&Aのディールの案件を創出できるかだ。
求められるのは、企画とか分析力ではなく、営業力、案件創出能力なのである(ソーシング能力という言い方をしたりもする)。
財務モデリングだとかM&Aストラクチャーというのは、外銀に限らず国内系でもIBDにいると当然身に付くものであるので、それは前提条件に過ぎない。
特に外銀の場合、M&Aでも求められる案件の基準(最低でもフィー1億円以上等)が高いので、事業会社から途中で入っていって着いていくことはかなり厳しい。
従って、中途採用で外銀IBDに採用される可能性があるのは、国内系IBDでトップクラスの実績を持つハイスペック人材に限定されてしまうのだ。
4. それでも外銀IBDで働きたい場合にはどうすればいいか?
国内或いは外資系事業会社で現在M&A関連の職に従事しているものの、それでも、どうしても外銀IBDで働いて見たいという場合にはどうすれば良いか?
1つの可能性としては、米国トップMBAを取得し、卒業後にアソシエイトとして転職することだ。ハーバード、ウォートン、シカゴ、MIT、スタンフォードあたりのMBAで、卒業時の年齢が32歳位までであればチャンスは十分あるだろう。
但し、日本の事業会社から米国のトップスクールに入学するのはそれなりに難しいし、費用もかかるので相応の覚悟が必要である。
また別の可能性としては、国内系証券会社のIBDへの中途採用を狙うことである。
この場合は、米国トップスクールのMBAは不要である。
しかし、その代わりに、年齢が若いこと(20代)と、高学歴であることが望ましい。
国内系証券会社のIBDも入社10年後位には課長(VP)昇格者が出始めるので、30歳を過ぎての他業界からの転職は厳しくなるからだ。
或いは、これはピンポイントになるが、その事業会社の業種がその証券会社が戦略的に攻めたい業種であれば、可能性が高まる場合があるかも知れない。例えば、ITインターネット系の事業会社でM&Aをやっていてその分野に詳しいような場合だ。国内系証券会社のバンカーもネットビジネスにはそれ程詳しくはない。
最後に
以上のように、一旦事業会社に行ってしまうと、途中で金融機関に転職するのは大変難しくなってしまう。
この点、重要なのは何故外銀IBDに行きたいのかよく考えてみることだ。
マイペースでM&Aに関するビジネスを続けたいのであれば、その事業会社で働き続ければいいし、転職するにしても事業会社で同種のポジションに就けばいいわけだ。
外銀IBDにこだわる理由があるとすれば、年収水準の圧倒的な高さではないだろうか?
しかし、外銀IBDの高年収が維持できるかは相場環境や本社の収益性に左右されるし、今後も厳しい競争が予想され、どれだけ続けられるか不確定である。
年収に拘りたいのであれば、別途ベンチャー企業でのCFOのポジションを狙うとか、自ら起業をするという選択肢もある。このあたり、自らの適性を十分踏まえた上で、キャリアプランを構築していくのが良いだろう。