1. 遂にドイツ銀が、大幅なリストラについて発表
1週間ほど前の2019年7月2日にこの記事を書いたところであるが、ドイツ銀の具体的なリストラ策が発表になったようだ。
週末の、日経や今日のヤフトピを見ると、リストラ策の概要は以下の通りだ。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6329349
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47071250Y9A700C1000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL08HG9_Y9A700C1000000/
(1)今回のリストラで約1万8000人が削減される
先週時点では、最大2万人の削減という話が出ていたが、今回はそれに近く、約1万8000人が2022年までに削減されるという。
(2)投資銀行部門の縮小
株式売買部門から撤退し、投資銀行部門の約740億ユーロ(約9兆円)規模の資産を分離する。今回のリストラ費用計上によって、2019年4~6月期は約28億ユーロ(約3400億円)の最終赤字になる見込みだが、一時的に損失が膨らんでも、リスクの大きい投資銀行部門の依存から脱却し、資金決済や資金運用を軸にした経営体制に移行するという。
当初は分離する資産の規模は約500億ユーロと見られていたが、大幅に膨らみ、リスクに見合った収益を期待できないデリバティブの資産などが対象になると見られる。
2. 投資銀行は終わりか?
リーマンショックの直後には、このような話がよくメディアに登場していた。
結論的には、投資銀行業務というのは今でも将来でも一定のニーズがある業務であるので、無くなるということはないだろう。実際、ゴールドマン・サックスとかJPモルガンといった米国の大手金融機関は投資銀行業務においても多額の収益を計上できている。
しかし、リーマンショック後のいわゆるボルカールールによって、かつての投資銀行の最大の収益源であったトレーディングが大幅に規制されるようになって以降、多くのグローバル金融機関が長きにわたって投資銀行業務で稼げてない。いや、それどころか、投資銀行業によってそれ以外の金融業務の足を引っ張られてしまっている。
トレーディングで稼ぐことが大幅に制限されているといった前提が変わらない以上、投資銀行業務のビジネスモデルが画期的に改善される見込みは無く、今後はある程度限定された投資銀行ビジネスのパイを巡って、少数の大手のグローバル金融機関がそのパイの奪い合いをする構図になろう。
思うに、投資銀行業務というのは米国勢が強い。欧州や日本のトップ金融機関は、いずれも米国の投資銀行の買収でうまく行っていない。
日本では、野村證券はリーマンブラザーズの買収に関して、既に多額の特損を計上済である。
欧州組も、今回のドイツ銀行だけでなく、UBS(米国のペインウェーバーを過去に買収)、クレディスイス(米国のDLJを過去に買収)も投資銀行部門に足を引っ張られているし、英国のバークレイズやフランスのBNPパリバなども投資銀行業務は上手くいっていないようだ。
3. しかし、これは就活で投資銀行を選んではいけないということではない
しかし、投資銀行ビジネス自体の先行きが厳しいからといって、就活の対象外とすべきというわけではない。
投資銀行ビジネスの将来が楽観視できないのは、リーマンショック以降常にそうであったが、それでも結果は思っていた以上に厳しかった。
しかし、終身雇用を企図するのではなく、金融プロフェッショナルとしてのスキルの取得を目指すということであれば、ファーストキャリアとして投資銀行を狙うことは誤りではない。
そのうちの一部の者は投資銀行のMDになった多額の収入を確保できそうだし、うまく行かなさそうであれば、他の業態に転身することは可能であるからだ。
「投資銀行」自体は不安であっても、ファイナンス・スキルというのは今後も常に需要があるからだ。
従って、1週間ほど前の記事の結論は、今回のドイツ銀のリストラ案の発表によって変わるものではない。
<7/2付のドイツ銀行の最大2万人削減の話>
https://career21.jp/2019-07-02-101351
もっとも、欧州系の投資銀行への志望者は流石に減るかも知れないが…。
4. 外銀に関する、目先の転職市場に対する影響
この一連の記事によって、転職エージェントはドイツ銀行グループの社員にアプローチを掛けるのであろうが、こういった事情や雰囲気は内部の人が感じるであろうから、少し前からドイツ銀行グループの社員で将来に不安がある人達は既に動き始めているであろう。
もっとも、今回のドイツ銀行のリストラの話は、ドイツ銀行が何らかの失敗をやらかして特損を出したという話ではない。投資銀行事業自体が恒常的に儲からないため、従来のドイツ銀行の業務に原点回帰するという大きな話である。
それは、他の欧州系金融機関も同じである。
UBSとかクレディスイスは本業といえるプライベート・バンキング業務ではしっかりと稼げているので、投資銀行業務を大幅に縮小して、本業の銀行業務に回帰するというのはあり得るだろう。
また、それは英国のバークレイズ銀行やフランスのBNPパリバといったそれぞれの国のトップバンクでも同様かも知れない。
そうなると、投資銀行から運用業界(バイサイド)へ転身しようという動きも出て来るかも知れない。この転身は、30歳以上/VP以上の場合は結構難しいが、20代であれば可能性はあるだろう。
最後に
この一連のドイツ銀行のリストラの話は、投資銀行業界全体にとってインパクトのある話である。とうとう、投資銀行業務が儲からないと見切りをつけ、大胆に縮小し従来の銀行業務に「原点回帰」を図ろうという構造的な話だからだ。
就活生はこの手の情報には敏感なので、投資銀行からコンサルへのシフトがますます進むかも知れない。また、総合商社の安定性が好感し、数年前のように人気ナンバー1業界に返り咲くかも知れない。
ただ、残念なのは、就活生における本当のトップ層が、外銀・外コン・商社の中でぐるぐる回るだけで、本当に将来有望で成長が見込まれるITネット業界系に振り向いてくれないことだ。
これには学生側ではなく採用側企業の問題もあるのだろうが、この問題については後日考えていきたい。