1. リーマンショック以降、この手の話は良くある話だが…
WSJ紙は、2019年6月28日に、経営再建中のドイツ銀行が最大2万人規模の人員削減を検討している旨報道した。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46756410Z20C19A6000000/
リーマンショック以降、グローバル金融機関の特損とか、リストラの話はしょっちゅう報道されているので、金融関係者はこの手の話に驚かなくなっているかも知れない。
しかし、これはそれなりにインパクトのある話だ。ドイツ銀行の従業員は約9万人で、そのうちの2万人となるとかなりの割合だ。米国の投資銀行部門が中心になる可能性が高いということであるが、それは、当然日本の投資銀行部門も無関係な話ではない。
リストラというのは、本社サイドで目標人数を定めて、それが海外のグループ会社に降りて来るので、エンティティの収益力や政治力によって異なるが、無傷では済まないと考えた方が良い。
2. トップ就活生は、それでも外銀を目指すか?
戦略系の外コンに押され気味かも知れないが、依然として、外銀は就活生にとっての憧れで、最難関の地位に君臨している。そのような就活生はドイツ銀行のリストラのニュースを聞いても志望を変更しようとは思わないのであろうか?
この点については、何人かの外銀志望の学生とOB訪問で話してみたことがあるが、トップ就活生は情報収集能力にも優れているようで、この手の欧州系投資銀行の経営不安については十分に意識しているようだ。
このため、米国系大手に絞るとか、国内系のIBDを狙うとか、欧州系の不安に対する対応は意識しているようだ。
3. ドイツ銀行の大幅人員削減のニュースを聞いて、どのように行動すれば良いか?
①収益性の不安の少ない外銀に絞り込む
ドイツ銀行に限らず、クレディスイス、バークレイズ、BNPパリバ等の欧州系は全般的に投資銀行部門が足を引っ張っている。従って、外銀志望という方針は変えずに、収益性、体力の面からある程度安心できる米国系大手に絞るというのは最も単純で合理的な対応だ。
外銀といっても、今ではゴールドマン・サックスの1強のような感もあるが、JPモルガンは金融機関で時価総額トップ企業であり、こちらも健在である。
外銀は数を打っても当たるわけでもないので、この2社に絞っても良いと思うが、何が何でも新卒で外銀に行きたい場合には、モルガンスタンレー、メリルリンチ、欧州系ではUBSあたりを含めればいいだろう。
②国内系IBDにもフォーカスする
欧州勢の不振によってトータルの新卒採用枠が少なく、内定超困難業界と既になっているので、目端の利くトップ就活生は既に国内系IBDにもフォーカスしている。
少し前までは、外銀と国内系との間にはかなりの難易度の差があったかも知れないが、既に外銀組が併願しているし、国内系と言ってもリテールと違って、各社せいぜい20人位しか枠が無いので、こちらも激戦の模様である。
国内系のIBDで頑張ってその企業のトップバンカーになれば、VP以上で将来外銀に転職することは可能である。外銀で生存率の低い、厳しいアナリスト・アソシエイト時代をスキップすることができるので、国内系IBDで頑張ってみるというのは非常に賢い選択しである。
外銀から内定をもらえる能力があれば、国内系IBDに入社後社内でトップクラスの人材になれる可能性はあるので、合理的なファーストキャリアとなるだろう。
③国内系運用会社(バイサイド)でファンドマネージャーを目指す
トップ就活生がまだ気が付いていないのは、こちら、バイサイドの世界である。
外資系運用会社がほとんど新卒採用を実施しないのが、穴場であり続けている理由の1つであろう。
ファンドマネージャー(PM)で外資系運用会社に将来転職すると、3000~5000万円は十分可能であるし、外銀IBDのように長時間拘束されることはなく、ワークライフバラナスの面で優れている。
さらに、ヘッジファンドに転身して成功すると年収数億も可能であり、今では外銀よりもアップサイドは高いのではないだろうか。
但し、課題は国内系の運用会社は給与水準が高くない。ほとんどの場合、銀行、証券会社、保険会社の子会社なので、給与水準は親会社の8掛け位となってしまう。
従って、外資系に転職するまでの間は我慢しなければならない。バイサイドの場合、外銀よりも平均年齢が高いので、転職のタイミングが30歳以降となるので、ますます我慢する期間が長くなる。これも、バイサイドにトップ就活生が押し寄せない理由であろう。
4. それでも、外銀はファーストキャリアとしては悪い選択ではない
外銀については、リストラの不安はあるし、生存競争が厳しいし、将来のポジションの縮小リスクもある。しかし、以下のような理由から、ファーストキャリアとして外銀を目指すのは悪い選択肢では無いだろう。
①IBDの場合だとファイナンス・スキルが習得できるので潰しが利く
外銀IBDに入ると、アナリストの段階でドロップアウトしたとしても、ファイナンス・スキルは確実に身に付くし、また、外部からもそのように見てもらえる。
従って、ベンチャーCFO候補、外資系IT企業の財務部門、国内系事業会社の財務部門等、選択肢は沢山ある。
また、金融が続けたければ、国内系の金融機関に転職をするという手もある。
このあたりはコンサルティング・ファームと類似しているかも知れないが、ファイナンスという汎用的なスキルを習得できるので、キャリアの幅は広い。
②留学することによるキャリアアップの途がある
米国のトップMBAに日本人が入学するのは厳しいが、外銀であれば実務経験や英語力等において十分トップ校に入学できる可能性がある。また、外銀は当初より高給なので、留学費用も捻出することが可能である。
今更感のあるMBA留学だが、ハーバード、スタンフォード、コロンビア、シカゴ、ウォートン、ケロッグ、MITあたりに入学できれば、今でもキャリアの幅を拡げることができる。
この意味で、グローバルにステータスが確立している外銀はファーストキャリアとして悪くないのである。
最後に:とにかく外銀或いは国内系専門職コースの内定を取ること
以上のように、いろいろと暗い話も尽きない外銀業界である。数十年先はどうなっているのかは全くわからない。
しかし、外銀を目指して就活している学生は、別に終身雇用を想定している訳ではない。そうであれば、外銀はファーストキャリアとしては悪くない選択肢であって、仮に、アナリスト段階(入社3年以内)、或いは、アソシエイト段階(入社6年位まで)でドロップアウトしても、受け皿はいくらでもある。
30歳を過ぎれば別だが、金融スキルを備えたグローバル経験のある20代の外銀社員であれば引く手数多であろう。
また、見栄えがいいので、有力校に留学するという選択肢もある。
そうなると、入社してしまえば後は何とかなるので、とにかく競争は厳しいが頑張って内定を勝ち取ることに注力したい。