金融機関の店舗は、フィンテックやAIによって不要になるのか?

1. 金融機関は店舗の削減を進めているが…

メガバンクや大手証券会社は店舗数の削減を進めている。
例えば、三菱UFJ銀行は2023年までに180店舗を削減する予定で、何とこれは全店舗数の35%にも該当する数字だ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45023210Q9A520C1EE9000/

また、証券会社トップの野村證券は店舗数を約2割削減するという。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43341360U9A400C1EE9000/

長期的にはフィンテックとかAIの流れによって実店舗の必要性が薄まるということなのだろうが、目先は収益状況が良くないので、目先の経費削減という事情から店舗削減に注力しているようだ。

それでは、将来的には金融機関の店舗というのは不要になってしまうのだろうか?

2. 金融機関の対面ビジネスにおいても十分に成長の機会はある

しかし、フィンテックやAIによって、金融ビジネスは全てネットで完結し、リアルな店舗は必要が無くなるというのは行き過ぎた考え方だ。

というのは、金融ビジネスというのは対人的な信頼性というのも無視できない重要な要素であるので、対面型のビジネスにも十分な需要は今でもある。

それらの事例を以下、紹介する。

①グローバルで成長しているPB(プライベート・バンキング)ビジネス

ある意味ネット金融と対極にある、もっとも濃い対面型の金融ビジネスとしてプライベート・バンキング業務がある。このビジネスについては、米国、欧州、途上国でも成長している(但し、日本は除く)。

欧米のような先進国でも、貧富の差は拡大しており、富裕層の市場規模とか運用に対する需要はリーマンショック以降も縮小していない。また、途上国においては、経済成長に伴い富裕層が増加し、プライベート・バンキング業務に対するニーズは強まっている。

こういったプライベート・バンキング業務はプライベート・バンカーとの信頼関係が重要な要素になっているので、簡単にネットだとかフィンテックで代替できるものではない。

また、金融機関サイドからしても、投資銀行業務と比較して安定的に高収益を稼げる分野なので、経営戦略上の重点項目となっている。

なお、日本の場合には富裕層の規模感も人数も他国と比べて不十分なので、目立った成長は見込めないかもしれないが、保有資産5000万円~数億円クラスのセグメントは分厚いので、この層に対するコンサルティング的な金融サービスは今後も求められるはずだ。

したがって、この金融ビジネスは今後も継続的な成長が見込まれ、店舗も当然必要となってくる。

②米国での独立系ファイナンシャル・プランナーの存在

これは欧州や途上国というよりも、米国で見られる形態であるが、米国では独立系のファイナンシャル・プランナーの存在感が非常に高い。
http://www.jsri.or.jp/publish/topics/pdf/1509_01.pdf

これは、金融商品の取り扱いが認められたファイナンシャル・プランナー或いはファイナンシャル・アドバイザーという職業で、個人投資家の資産運用の相談を行うコンサルタントだ。

日本だと、証券会社の営業マンが個人で独立してビジネスを行うようなイメージであるが、アメリカでは伝統的に重宝され、信用性の高いビジネスなのである。

金融機関の営業マンは、顧客にとって望ましい運用よりも、自分の属する金融機関にとって望ましい金融商品を顧客に勧めるおそれがあるのだが、米国のファイナンシャル・プランナーは金融機関から独立しているので、中立的な立場で、最も優れている、或いは最も適していると考えられる金融商品を顧客に勧めることができるので、信頼性は高い。

いずれにせよ、金融商品は複雑で相場環境によって影響も受けるので、資産運用というのは個人がネットだけで情報抽出をして対応しきれないところがある。

このため、ネットだけで完結仕切れるビジネスではなく、将来も店舗での対面的なサービスというのは必要性があるのである。

③何故かネットでは売れない投資信託

株式については、圧倒的な手数料の安さと、ネット証券の利便性の高まりによって、個人投資家向けの株式売買ビジネスは対面からネットビジネスに移ってしまった。

しかし、不思議なことに投資信託についてはネットでは売れない。ネット証券が普及してから20年近くが経過するが、これは金融先進国とも言える米国でも同様だ。(前述の独立系ファイナンシャル・プランナーが投信選定のアドバイスをすることは多いが)。

したがって、投資信託については今後も引き続き、ネット取引のみでのサービスで終了するとは思われず、やはり店舗でのサービスが求められるであろう。

以上のように、フィンテックとかAIが進展したからといって、ほとんどの金融サービスがネットで完結することは無く、リアル店舗の重要性は依然として残ると考えられる。

3. むしろ、課題は金融機関がネットからリアル店舗に誘導すること

ビジネス分野は異なるが、アマゾンですらリアル店舗を持っている。
ビジネスはネットかリアルの2択ではなく、それらの双方を上手く活用して最大の収益を目指せば良い。

リアル店舗があるというのは、ネット証券やネット保険会社には無い強みである。
既存の大手金融機関はフィンテック対応とかで、リアル店舗の削減に追われているかも知れないが、考えるべきはネットからリアル店舗への誘導だ。

野村證券とか三菱UFJ銀行のWebサイトへの訪問者数はかなりのものだが、そのWebサイトからリアル店舗への誘導の仕組みは不十分と思われる。

これは、Webを開発するスタッフはリテール金融ビジネスに強くなく、他方、営業企画系のスタッフはWebについては素人である。だからと言って、中途採用でWebマーケティングに詳しい人材を事業会社から引っ張って来ても、コンサバで声の大きい営業マンの巣窟である営業企画部門の中では発言権が無い。

日本の大手金融機関がこのあたりの問題意識を持って、トップダウンで本気で取り組めば、まだまだリアル店舗の収益性は高めることが可能では無いだろうか。