1. どうしてもM&A関連の仕事をしたいがIBDは就職難易度が高すぎる…
最近の就活生の中でも、特に優秀層は、終身雇用をあてにするよりも転職力を有するスキル取得を重視する。このため、終身雇用というのがほぼ当てはまらない外銀や外コンが最人気・最難関となっている。
そして、外銀とか戦略系の外コンというのは新卒採用人数が極めて少ないので、そのうち特に外銀志向の学生は、国内系証券会社のIBD等の専門職コースを併願する。
しかし、国内系証券会社のIBDやグローバルマーケッツ系の専門職採用も、外銀同様に新卒の枠は少ない。業界全部合わせてせいぜい数百人程度であろう。
このため、トップ学生でどうしてもM&A関連の仕事に就きたいと思った場合には、国内系証券会社のIBDだけでは内定をもらえる保証が無いので、GCAやBig4系のFAS等にも応募せざるを得ないという。
そこで、M&A業務ということであれば、M&Aのアドバイザリーの立場ではなく、当事者の立場で事業会社のM&A部門を狙うという手も考えられる。
業種は金融とは異なるが、「M&A」ということで筋が通っているので、対応はしやすいだろうから事業会社のM&A部門を検討するという選択肢も採り得るだろう。
2. M&Aを積極的に行う事業会社にはどういったところがあるか?
上場企業であれば、Old Economy系の経団連企業からベンチャー企業まで、株主から成長せよとのプレッシャーを受けるので、大なり小なりM&Aというのは戦略上の選択肢の一つとなる。
もっとも、M&Aに専念できるようなポジションを探すとなると、事業会社でも戦略としてかなり積極的にM&Aを手掛けている会社のみがターゲットなる。
具体的にどういった会社があるかというと、東証株価指数33業種分類に従って見ていくと、以下のような企業が挙げられるだろうか?
〇食料品(サントリー、JT)
食料品というと、この2つが双璧であろうか?キリンなどもブラジルのビール会社など大型M&Aを仕掛けたことがあるが、失敗してしまったので今後はあまり見込めないかも知れない。
サントリーの場合は、過去にも外銀IBD出身者を採用した実績があるので、可能性はあるかも知れない。
また、JTについてはM&Aが上手い会社として知られており、M&Aに関心が高い優秀な学生に対する需要はあるのではないだろうか?
〇繊維製品(旭化成)
旭化成というのは、実は繊維業界の中では給与水準が最も高く魅力のある企業なのであるが、実は結構多様なM&Aを展開している。収益の4割位は住宅部門(へーベルハウス)が稼いでいるなど、多様な収益源をもった会社であるので面白いと思う。
〇医薬品(武田薬品、アステラス、第一三共等)
医薬品はグローバルでM&Aが盛んな業種である。もっとも、M&Aは本社で意思決定をするので、外資系製薬会社の場合には、日本はローカルの1拠点に過ぎないのでM&A的なポジションはあまり期待できないのではないか。
そうなると、国内系大手となると、武田、アステラス、第一三共あたりである。
ただし、武田はシャイアーという巨大なお買い物をしたばかりであるし、第一三共はインドのランバクシー買収で痛い目にあったので、このあたりはしばらく大きな買い物は出来ないかもしれない。
〇金属製品(LIXIL)
中国系企業の買収失敗など、ネガティブなニュースが最近は多いかも知れないが、LIXILはM&Aが好きな会社である。LIXIL自体がINAXとトステムという住宅関連の大手2社が合併してできた企業グループなのであるが、旧トーヨーサッシ(トステムの前身)がM&Aで知られた会社であった。大昔の話であるが、某有名国立大学の学生がM&Aをやりたいということで旧トーヨーサッシに就職したという話を聞いたことがある。
〇電気機器(日本電産)
電気関連はソニーとかパナソニックとかも過去に痛い目にあったことはあるが、それなりにM&Aは行っている。しかし、このセクターでM&Aというと日本電産であろう。日本電産というとM&Aというくらい、日本の事業会社の中では数少ないM&Aの上手い会社である。ここは中途採用でも、M&A部門の担当者を探していたりもする。
〇輸送用機器(トヨタ、日産)
自動車セクターでM&Aというとトヨタであろうか?ここでのM&Aは完成車メーカーではなく、自動運転等のニュービジネス関連である。
とはいえ、トヨタのような巨大企業で新卒の段階で「M&Aがやりたいからその部署に配属して欲しい。」といったところで、あまり聞き入れてもらえるような気がしないので、新卒で狙うのは難しいかも知れない。
〇情報・通信業(ソフトバンク、KDDI、ドコモ)
通信3社は儲かっていて資金力はあるし、ネット系のニュービジネスについてはファンドを通じての投資も行っている。
ソフトバンクのビジョンファンド関連の業務などは、スケール感も大きいし、ネット系の最新のビジネスに関与することができるので、大変面白いポジションだと思う。
但し、通信3社は日本企業の中ではそれなりに中途採用で専門家を取ったりしているので、新卒段階で配属先まで約束してもらえるかどうかは難しいところである。
〇サービス業(ファーストリテイリング)
業種的にはアパレルなのだが、何故か銘柄コード的にはサービス業扱いのファーストリテイリングである。2,019年6月には「入社3年で年収3000万円」のニュースが流れたりもしたが、オーナー系企業であるのでフレキシビリティは十分にあるだろう。
3. 事業会社のM&A部門から先のキャリアプランについて
①外銀のIBDは難しい
事業会社のM&A部門で十分な経験を積んで、スキルを身に着けた後、どうするかということであるが、残念ながら、外銀IBDでM&Aというのは難しい。
何故なら、外銀(国内系も)IBDのM&Aはアドバイザー(要するにM&Aの当事者ではない)としていかに多額のフィーを稼ぐかというのがミッションである。当事者の立場でM&Aを遂行するのとは、異なるスキルが求められるのである。
従って、例えば、PMIというのはM&Aの当事者からすると極めて重要なスキルであるが、IBDからするとフィーをもらった後の世界であるし、労働集約的で時間がかかる話なので、あまり関心は無い(もちろん、ピッチ時にはそんなことは絶対に言わないが)。
反対に、いかに営業をかけてM&Aアドバイザリー案件を獲得するかという営業力、スキルは事業会社のM&A専任者では習得できないスキルである。
このように、一旦事業会社のM&A専任者になると、外銀又は国内系IBDで大きく稼ごうというキャリアは考えない方が良い。
②他の事業会社への転身の機会はある
事業会社内でM&Aのスペシャリストというのは、数少なく、また、今後需要は拡大していくと考えられるので、他の事業会社に転身していくことは十分可能であろう。
その際には、CFO的な立場での需要もあるだろうから、M&Aだけではなく事業会社の財務担当としてのスキルも併せて磨いておくことが望ましい。
また、CFOというとベンチャー企業でも需要があるポジションなので、ネット系ベンチャー企業という可能性もあるだろう。
③コンサルへの方向性もある
事業会社のM&Aと財務の経験とスキルを持っていると、コンサルに行くというプランもある。もちろん、マッキンゼー、BCGといった戦略系ファームにいきなりいくのは厳しいが、アクセンチュア、デロイト等の総合系ファームへの可能性はあるだろう。
また、もう少し企業財務よりのコンサル業務がいいのであれば、Big4系のFASという選択肢もあるだろう。
事業会社から一旦コンサルに行くと、大幅な年収アップは期待できないかも知れないが、コンサルは転職力が高いので、長い目で見るとかなりの高収入を実現できる可能性はある。
4. 事業会社のM&A担当者を就活で狙う場合の問題点
就活で事業会社のM&A職を狙う場合の最大の問題点、課題は、配属における確約をしてもらえるかどうかはわからないということである。
事業会社の場合、ほとんどの場合、職種別採用というのをやってくれない。
従って、入社後そのような部署に本当に配属してもらえるかどうかは交渉次第であるが、それはどうなるかわからない。
特に、上記の企業は、超大手企業なので、ベンチャーならまだしも、いくらハイスペック学生とは言え、そういう個別的な希望を聞いてくれるのかはわからない。
もっとも、文系の超ハイスペックな学生は、事業会社は本命としないであろうから、場合によっては特別な対応をしてもらえる可能性は無くもない。従って、とりあえず人事と交渉して感触を探ることになるだろう。
初任給について、くら寿司の1000万円とか、ソニーの730万円が注目されている。
終身雇用の廃止と新卒一括採用が多様化していくことは確実なので、今後は、配属についての要望も従来よりは聞いてもらえる可能性は高まるのではないだろうか。