1. 三井住友銀行の新人事制度とは
週刊東洋経済の2019年6月22日号の特集は、「銀行員の岐路」である。
その中のPart2「銀行員の未来」の章で、各メガバンクの人事制度について解説がなされている。
メガバンクのうち、三井住友銀行は2019年4月に大幅な人事制度の変更を行うと発表した。(その概要は、こちらのダイヤモンドの記事が詳しい。)
https://diamond.jp/articles/-/200936?page=2
そのポイントは以下の3点である。
(1)階層を6つから3つに半減し、ポストへの早期登用を可能に
これが新人事制度(2020年1月導入予定)の目玉ということであるが、現在、アソシエイト層からEII層(法人営業部長等)まで6階層になっているのを、「A,Ar層」、「V、Vr層」、「Mg(マネジメント)、Mgr層」の3階層に半減する。
(※rというのはリテールで個人向け業務のこと。)
それによって、これまで課長やグループ長になるのには最速で10年以上かかっていたところ、新人事制度では最短で8年目に到達可能となる。要するに、2年早く昇格可能となるわけである。
同様に、入社から20年以上かかった本社部長職にも、最短で入社15年で就任することが可能となった。
(2)定年を65歳まで延長する
これまでは55歳で、いわゆる役職定年となり、それ以降は取引先への出向、関連会社への転籍、そのまま銀行に残るという3つのパターンがあったが、銀行に残る場合には年収が4割減となった。しかし、新人事制度では、銀行に残る場合には年収の下げ幅は2割程度に見直されるという。要するに、55歳以上の高齢な行員でも優秀と認められる場合には、年俸の下げ幅を押さえて、65歳まで残ってもらおうという考えである。
(3)一般職の廃止
既に三井住友銀行は、かつては1年間に1000人も新卒採用していた一般職を2020年卒で募集ゼロとしている。これは、まさにAI時代を読んでということになるが、単純な事務作業は機会とか派遣社員に任せて、一般職でも総合職に近いコンサルティングセールス能力があるものは総合職として処遇しようということであろう。
3. それでは、三井住友銀行の新人事制度は東大・京大の就活生に魅力か?
新人事制度には、優秀な新卒採用ができるようにしたいという意図もあるはずだが、東大・京大の就活生にとってはアピールできる内容だろうか?東大・京大の中でも優秀層は、外銀・外コン・総合商社或いは国内系証券会社の専門職コースを志望するので、メガバンクが真に欲するような最優秀層を採ることは難しい。
結論的には、三井住友銀行の新人事制度は、東大・京大の就活生、中でも優秀層を外銀から振り向かせるような魅力は無いと思われる。
まず、階層を半減することによる早期登用の可能性であるが、最短で課長になれる年齢は2つ下がったかも知れないが、反対に、平社員(アソシエイト:A、Ar)でいる期間が6年から8年と伸びてしまった。
今の若い人たちは若いうちからの高給と活躍を希望しているので、平社員の期間が延びるというのは耐えられないのではないだろうか?
また、直接関係は無いかも知れないが、定年を60歳から65歳に引き上げるのも微妙である。誰でも、年を取っているよりも若い人を好むのが通常である。同じ能力であれば、若い方を採用したいものである。そうであるにも関わらず、55歳以上の超高齢行員の比率が高まれば、雰囲気自体も高齢化し、若くて優秀な就活生を遠ざけることにはならないだろうか?
4. 必要なのは出世の早さよりも、お金とスキル
むしろ、優秀な就活生或いは若手社員を魅了するには、お金とスキルが必要であろう。
くら寿司の1000万円とかソニーの730万円ではないが、新卒社員の初任給が注目されている。
メガバンクも、600万円位でいいので、一部高めの初任給のポジションを用意すれば一気にトップ就活生を取り込めるのではないだろうか?
また、就活生や若手社員がこだわるのはスキルである。従って、社内公募制度の柔軟化によって、希望の職種(市場関係、大手法人営業関係、海外関係)に就ける途を拡げてあげれば、人気は出るように思われる。
まとめ
三井住友銀行の新人事制度は、銀行業界の中では思い切った変革と評されているところもあるようだが、それは金融業界の中での話である。
課長になれるのが10年から8年に縮まっても、大した変化ではない。ベンチャー企業などでは3年目で管理職になれるし、ユニクロなんかも入社3年で管理職への昇格も可能である。
また、15年目で本社の部長になれるといっても、そんな先、どうなっているのかわからない。
このあたり、銀行は監督官庁である金融庁のOKもいるので、なかなか思い切った変革はしにくいが、金融以外の業界のスタンダードも取り入れる必要があろう。
それから、終身雇用が廃止され、新卒一括採用も変容していく中、初任給の額の多様化とか、コース別採用の拡大といった思い切った新卒対応が期待されるところである。