1. 一律初任給は廃止の方向?くら寿司の1000万円に続き、ソニーも
先日、くら寿司が将来のグローバルスタッフ要員には初任給を1000万円支払うというニュースが注目された。
そして、今回はソニーが初年度の年俸として一定の条件を満たしている場合には、730万円を用意する旨公表した。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1906/20/news054.html
もっとも、注意しなければならないのは、ソニーの場合はAIの技術があるなど所定の条件を満たした場合に限定されるので、「該当者無し」ということもあり得る訳である。
この点は、5年ほど前のスマホゲーム全盛期に、DeNAとかグリーとかが公表した制度と同様である。
2. 終身雇用廃止と新卒一括採用の多様化によって、この動きは広まるか?
もともと、初任給が一律じゃないケースは、一部の外資系企業とかベンチャー企業では見受けられたのであるが、ソニーのような日本を代表する企業が特定の学生にのみ初任給730万円というのは、影響力がある話であり、今後このような制度は拡がっていくものと思われる。
これは、令和になってよく取り上げられている「終身雇用廃止」や「新卒一括採用の多様化」の動きとも無関係では無いかも知れない。
終身雇用とそれを支える年功序列が揺らぐと、最初は低い給料で我慢しているのに、将来の高い給料が約束されなくなると、最初から高額(相応?)な給料を支払ってくれる企業を選びたいという気持ちにはなる。
メルカリ、サイバーエージェント、DMMなどのベンチャー系企業は既に一律初任給制度を廃止しているようだが、典型的な経団連企業がこの制度を採りいれはじめると、日本の雇用情勢も大きく変容する可能性がある。
3. 最近の若い人は初任給(若い時)の給料に思っている以上に拘るようだ
昔は、初任給を含め、若い時の100万、200万程度の年収の差は気にするなと言われたものだ。しかし、最近の若い人は少し違うようだ。典型的なのが、外銀、外コンだ。人気の理由はスキルが付くということもあるのだが、国内系企業と比べると初任給が高いというのも背景にあるようだ。
外コンでも総合系ファームの場合だと、初任給が高いと言ってもせいぜい530万円~程度なのだが、就活生はそこが気になるようだ。
また、外銀の場合は、昔からフロント職と言われるIBD、グローバル・マーケッツとバックオフィス(人事、経理、コンプライアンス、オペレーション、IT等)との間には初任給に差があった。バックオフィスの場合でも初年度の基本給が600万円台でボーナスを合わせると700-800万円にはなる。
本来、外銀のフロント職を落ちた場合には国内系証券会社のフロント職を目指すべきなのだが、初任給600万円以上(基本給)という点に惹かれて、外銀のバックオフィスも併願するトップレベルの就活生も少なくないという。
このように、最近の若者は思っている以上に初任給へのこだわりが強いので、くら寿司の1000万円とか、ソニーの730万円というのはハイスペックな就活生にも十分訴求できそうである。
4. 一律初任給廃止と高額初任給の提示による就活市場への影響
①高収益の小規模企業(ベンチャー、老舗の中堅企業)
多くの場合、ベンチャーや中堅企業はお金が無いので、なかなか新卒に大盤振る舞いはできないのだが、PKSHAテクノロジーとかbitFlyerのようなIPO前の段階からCFが十分回っているベンチャー企業もある。そういうところが、700万円以上を提示出来たら、従来では採用できないような学生を採れるのではないだろうか?
②楽天、ヤフー、LINE等の大手ベンチャー系企業
このあたりは、面白そうなのであるが、それほど就職難易度が高いわけではない。トップ学生からすると、外銀、外コン、総合商社の滑り止め的な位置づけとなっている。
その最大の理由は給与水準の低さでは無いだろうか?このあたりは、年収1000万円も用意する必要はないだろうが、600万円くらいを用意できれば採れる学生の質も変わるだろう。
もちろん、一律にする必要は無いので、楽天などであればフィンテックを含む金融部門については、一部の学生にはより高額の初任給を用意すべきでは無いだろうか?
③現在そこそこ収益はあるのに不人気な業界
典型的なのは外食である。薄給激務のイメージが強く、就職偏差値では万年下位に甘んじている。その点、くら寿司の1000万円は大変インパクトが大きい。おそらく、従来は集められなかったようなハイスペック学生がかなり集まっているのではないだろうか?
また、塾業界もそうである。薄給激務、主として子供を相手にするので成長が見込めないといったところが理由であろう。しかし、大手塾の中にはそれなりの利益を出している会社もある。そういうところは、くら寿司のように多めの初任給を用意して一部の幹部候補或いは特別なスキルを持っているような学生を狙ってみてはどうだろうか?
5. 高額初任給の就活生への影響
現在のところは、とにかく就職偏差値・就職難易度の高い企業に学生の人気が集中しがちだ。就活生が気にするのは企業名とその就職偏差値だ。
ところが、一律初任給制度が崩れていくと、就活生の企業評価の軸に変化が生じる。
就職偏差値という軸に加えて、初任給額という軸が加わるのだ。
そうなってくると、キャリアに対する価値観が多様化し、面白いのではないだろうか?
従来であれば、メガバンク>外食であったが、初任給が800万円だとするとメガバンクの倍の初任給である。また、そういったポジションは競争率が高いであろうから、結果としてハイスペックの学生が多くなる。そうなると、ステータス的なものも付いてくるので、ますます人気が出て安心して応募できるようになるという、正のスパイラルが生まれる。
ただ、注意しなければならいのは文系のトップ学生である。
ソニーの730万円とか、従来から非一律初任給を導入しているサイバーエージェントとかメルカリとかでも、高い初任給をもらえるのはAI等のITエンジニア職に限られるケースが多い。
単に学歴が高いとか、英語ができるというのは直接業務スキルとつながるわけではない。そうなると、業務に直結したスキル・経験を獲得しようとして、自らベンチャー起業をしたり、ベンチャー企業で長期アルバイトにどっぷりと浸かるという学生が増えてもおかしくない。
いずれにせよ、高額初任給の登場は、硬直的閉鎖的な日本の雇用マーケットを揺さぶるものであるので、日本経済の活性化という観点から歓迎すべきものなのではないだろうか?
今後、くら寿司の初任給1000万円のポジションの集まり具合や内定者の情報が気になるところである。