1. 終身雇用廃止や45歳以上のリストラは、三菱商事とは無縁か?
平成から令和になって、終身雇用廃止の問題や、NECや富士通等の45歳以上のリストラ問題など、サラリーマンにとって厳しいニュースが取り上げられている。
他方、新卒採用の世界においては相変わらず総合商社が人気で、その中でも三菱商事は別格のようだ。このため、三菱商事に憧れている就活生は、終身雇用廃止とか中高年社員のリストラ問題など、気にもかけていないかも知れない。
しかし、世の中の時代の変化は速く、10年後はどうなっているかはわからない。そこで、三菱商事は10年後も本当に安泰と言えるか考えたい。
2. 気になるのは三菱商事の採用数がじわじわと減っていること
①この5年間で、新卒採用者数は2割も減った?
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | |
新卒採用者数 | 212 | 197 | 193 | 179 | 171 |
(うち一般職) | 43 | 32 | 30 | 20 | 17 |
新卒総合職採用者数 | 169 | 165 | 163 | 159 | 154 |
キャリア採用者数 | 12 | 11 | 13 | 6 | 8 |
(出所:三菱商事HP)
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/resource/data.html
まず、新卒採用者数はこの5年間で212人から171人と、約2割も減っている。
もっとも、この新卒採用者数は一般職社員も含んでいる。新卒採用においては一般職の採用減の方が顕著であるため、総合職に限っては、169人から154人へと約1割程度の減少である。
考えて欲しいのが、採用人数というのは会社のことを一番知っている経営陣と人事部門が中長期的な視点に立って検討した上での数字である。
業績自体は今のところ良好であるにもかかわらず、新卒採用者数を絞るということは、将来に対して慎重な見方をしていると言えるのではないだろうか?
②特に問題なのは、中途採用者数が少ないこと
三菱商事の採用戦略で問題なのは新卒よりも、中途採用である。
ここ2年間は10人未満しか採れていない。これは、現状、各部門が人手は十分間に合っているということを示しているということもあるが、それ以上に問題なのは、中期経営計画と合致しないからである。
というのは、三菱商事の中期経営計画において、「事業構想力とデジタル戦略の強化」ということを前面に押し出し、組織においても「事業構想室」や「デジタル戦略部」、「デジタル戦略委員会」を起ち上げている。
ネット、IT系の人材は基本的に社内に存在しないはずなので、外から人材を採らなければならないはずであるが、この中途採用者数を見るとその手の人材が採れていないことがうかがえる。
リーマンショック以降、三菱商事の業績は基本的に良好であったものの、GAFAのような、ネットIT系の利益は取り込めなかった。今後、AI、IT、デジタルフォーメーションといったジャンルはますます成長拡大が見込めるであろうから、そこを取り込めるようにするという戦略や組織変更は極めて妥当だと考えられるが、それを企画・実現するような新しいタイプの人材を外部から取り込めていないのだ。
<三菱商事の中期経営計画>
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2018/files/0000036011_file1.pdf
3. 三菱商事の事業/業績は10年後も安泰か?
三菱商事のIR系の資料を見ると明らかであるが、2018年度のセグメント別の状況を見ると、税前利益5,907億円のうち、エネルギー事業が1,109億円、金属事業が2,636億円を占めている。この2事業だけで利益の63%も占めている。
他方、新産業金融事業は367億円と利益のシェアの1割にも満たず、しかも前年度よりも減少している。また、三菱商事というとローソンのイメージがあるが、生活産業の利益は377億円と利益におけるシェアは低い。
結局、三菱商事は三井物産程ではないかもしれないが、結局、資源とエネルギーで稼ぐ会社であり、市況によって大きく収益が左右されてしまうのだ。
実際、3年前の2016/3期においては資源関連で巨額の損失を出し、最終赤字に転落してしまった。また、今期の決算でも、千代田化工建設の再生支援についても発表しており、資源・エネルギー事業のリスクや収益変動の大きさをうかがい知ることができる。
これは、経営陣は百も承知であり、資源エネルギーとは別の収益源を開拓したいところだが、そのような人材を取り込むことはできていない。
4. 10年後、三菱商事の年収水準が2割下がればどうするか?
10年後はどうなるかはわからないとは言え、10年後に三菱商事がリストラとかをやっているとまでは考える必要は無いだろう。
しかし、有り得る話としては、年収水準の下落だ。
3年前の資源ビジネスの損失に伴う最終赤字の際は、年収水準に影響はなかったようだが、こういうことが2年以上続くと、年収水準にも影響は出るだろう。
三菱商事の年収は高いが、ボーナスの比率の高さを考えると、業績低迷が2年以上続くと、年収に響いてくるはずだ。
外銀や外コンを蹴ってまで、トップ就活生が三菱商事を選択するというのは、国内系企業の中で頭一つ抜けた年収水準にあると推察される。
入社10年次での年収1600~1800万円、入社20年次での年収2000万円というのは、最大手の金融機関よりも2割は高い。
しかし、10年後三菱商事の年収が2割下がるとすれば、入社10年次で1200~1400万、
入社20年次で1600万円という水準になり、大手金融機関とほとんど変わらなくなってしまう。
(もちろん、10年後は大手金融機関の年収も下がっている可能性はあるが…)
そうだとすると、外銀・外コンを蹴ってまで行く学生はいるだろうか?
5. 安定性重視であれば、住友商事とか伊藤忠という手もあるのでは?
外銀、外コンを蹴ってまで、行くということは安定性を重視したということであろう。
外銀の場合だと、20代で2000万円は余裕だし、30代だと5000万円以上も可能な場合がある。他方、3年後には新卒入社した同期は半分以下になっていたり、本社の業績低迷によりリストラになるリスクもある。
そういう点では、アップサイドは望めないものの、総合商社の場合には安定性は格段に高い。
そうであるならば、資源エネルギーの比率が高い、三井物産や三菱商事よりも、非資源系の商社を狙うという手もある。
もちろん、外銀・外コンから内定を取れるようなトップ層は、プライドが高く、ブランド的な視点から三菱商事に拘りたい気持ちはわかるが、社会人になれば、三菱商事とそれ以外の商社との間に就活生程の特別な違いは感じない。
すると、バランスの良い住友商事や伊藤忠を選ぶというのも十分な合理性もある。
このあたり、いろいろな観点から企業比較をした上で、最終的に決定したいところだ。