サラリーマンとフリーランスの年収を比較する際の留意点。退職金、年金以外にも考えたいこと。

1. フリーランスの方がサラリーマンより年収のアップサイドがあることは確かだが…

最近、Webメディア、YouTube等で、「サラリーマンの年収は大手でも知れている。大きく稼ぎたいなら、経営者とかフリーランスになった方が良い!」といったトーンのものが散見される。

例えば、ビジネス系のYouTubeで人気の「Utsuさんチャンネル」とか「年収チャンネル」とかでこういったネタが取り上げられた。

<最近の人気ビジネス系YouTube番組についての過去記事>
https://career21.jp/2019-06-10-092322

https://career21.jp/2019-06-10-120344

これは、企業経営者やフリーランスになれば大きく稼げるというわけではなく、大手サラリーマンの場合には年収の上限があるので、大きく稼ぎたいなら企業経営者やフリーランスになる他ないというのは確かであろう。

2. しかし、単純にフリーランスとサラリーマンの年収を比較すべきではない理由

大きく稼ぎたいなら、サラリーマンよりもフリーランスの方がいいかも知れないが、以下の理由から、両者の年収だけに着眼して比較をするべきではないだろう。

①まず前提として、「年商」と「年収」は異なる

これは当然と言えば当然なのだが、テレビ番組等では「年商」と「年収」が同じように扱われている場合があるので、留意する必要がある。

例えば、わかりやすい例としてはコンビニの「年商」と「年収」。
セブンイレブンの場合、日販が60万円以上なので、「年商」でいうと2億円以上である。しかし、オーナーの実質的な「年収」はせいぜい1000~1200万円程度と言われている。

また、身近な例では「士業」である。例えば、税理士事務所の場合、労働集約的なビジネスであるので「年商」は3000万円の場合、「年収」(厳密には「所得」であるが)はせいぜい1200万円位になってしまう。開業医や弁護士も同様である。売上的な意味の「年商」はサラリーマンが考える「年収」とは全く異なり、そこから経費を引いた後の「年収」(所得)が比較の基準となるべきなのである。

サラリーマンをやっていると、自腹で「経費」を支払うという概念が無いので、売上(年商)を作るためには経費がかかるということがピンと来ないかも知れない。

もちろん、Web系のビジネスの場合には、自宅で一人でやれば固定費はかからないし、変動費も少ない場合が多いので、「年商」と「年収」が近い場合もあるかも知れない。
但し、ビジネスを拡大しようとすると、人を雇わなくても外注委託費とかが掛かるので、売上に当たる「年商」≒「年収」と思わないよう留意すべき必要がある。

②退職金と年金の存在

金融庁の老後の貯金「2000万円」問題が騒がれ、Webメディア等においても「年金は破綻」「年金は自分たちをもらえない」という論調が見られるが、これは乱暴な話である。

年金の支給額が十分かどうかの議論はあるが、年金は破綻しないし、支給はされる。
また、サラリーマンが定年の前に退職する場合でも、何らかの支給やポータビリティ(確定拠出型の場合)がある。この点、国民年金しかないフリーランスよりも、厚生年金に加え企業年金がある大手のサラリーマンの方が恵まれているので、この点は考慮が必要である。

また、退職金も税制が優遇されているので、退職金が無いフリーランスよりも大手のサラリーマンが恵まれている点である。

さらに、社会保険についてはサラリーマンの場合は会社が半分負担してくれる。

このように、退職金と年金の存在は無視できないので、「年収」レベルが同程度であれば、大手のサラリーマンの方がフリーランスよりも実質「年収」は高いということになる。

③そもそも「月収」というのが問題。年収の継続性が重要

実は、サラリーマンとフリーランスの年収を比較する上で、一番重要なのがこの継続性の視点である。現時点だけ見て、フリーランスの方がサラリーマンよりも「年収」が高かったとしても、それをどれ位の期間、継続的に維持できるかが問題なのである。

時々、Web系のフリーランスで成功していると言われている人達が、ツイッター等で「月商〇〇百万!」と誇示しているケースがあるが、フリーランスの「月商」とサラリーマンの「年収」とは比較できない。

「月商」が1000万円だけでは、「年収」で1000万円か1億円なのかよくわからない。
「年収」ベースで議論しないと、本当の稼ぐ力が良くわからない。

また、仮に、フリーランスで「年収」ベースで1億円を達成したとしよう。
しかし、その「年収」1億円をどの程度維持できるのかが重要なのである。

典型的なのはアフィリエイターで、Googleに振り回され、去年「年収」1億でも、2年後には1000万円になってしまうことは珍しい話ではない。

ユーチューバーも同様である。アカBANのリスクもあるし、エンターテイメント系は競争も激しく、よほどのトップにならない限り数年で消えても不思議ではない。

このように、Web系のフリーランスで「年収」1億円を達成したからといって、それを継続できなければ、生涯賃金が4~5億円位あるメガバンクとか大手生損保には結局勝てないこととなる。

3. それでは、フリーランスを目指すには、いくらぐらい稼げればいいのか?

以上のように、「年商」を増やすには「経費」がかかるし、退職金と年金が足りない分を余分に稼がなければならない。また、将来継続的に稼げるリスクが大手サラリーマンよりも高い場合には、その分、目先は大きく稼がなければならない。

現状が、ブラック企業のサラリーマンの場合には、現在の給料は低いし、退職金・年金もフリーランスと大して変わらないだろうし、キツイ仕事は続けられないので、失うものがほとんどない。このような場合には、さっさとフリーランスになった方がいいかも知れない。

問題は、現状が大手企業のサラリーマンである場合だ。大手のサラリーマンだと、2年目位で年収は500万円位にはなるので、フリーランスになるのであれば「年収」(「年商」ではない)で1000万円は欲しいところだ。

従って、現在恵まれた大手のサラリーマンが、アップサイドを求めてフリーランスになろうと思えば、「年収」1000万円くらいは見込めるようになってから行動に移したいところだ。

幸い、働き方改革の一環で、大企業の副業・兼業が認められていく傾向にある。
何と言っても、メガバンクの一角、みずほ銀行でさえ副業・兼業を許容したのだ。
非ブラック系の大企業の場合はそれなりに時間的、精神的余裕はあるし、フリーランスに向けたスキル取得のための学習費用を賄うくらいのボーナスはあるので、少なくとも、「年収」1000万円を見込めるように周到に準備をしたいところだ。

  • ブックマーク