1. 少々地味目だが、年収、ステータス、ワークライフバランス的に申し分無し?
東大、早慶を始めとする文系トップ層の学生の間では、高給で安定性があり、社会的ステータスの高い大手金融機関に対する人気は昔から高い。
金融機関においては、外銀、国内系証券会社の専門職、日銀・政策投資銀行は人気があるが非常に難易度が高い。他方、メガバンクはリテール部門の比率が高いので、ハイスぺ学生の中には抵抗感がある学生もいる。
このため、外銀を目指す程の自信や準備ができていないが、メガバンクよりは少し良いところに行きたいという学生にとっては農林中金や商工中金といった広義の政府系金融機関が昔から人気があった。
確かに、広義の政府系金融機関の1つである農林中金は、給与水準、安定性、業界におけるステータスがいずれも高い上、ワークライフバランスにも優れている。
他方、入社難易度については、外銀や国内系金融機関のコース別採用と比べると内定をもらい易く、狙い目のポジションであったとも言える。
しかし、ここ数年の農林中金の新卒採用者数(総合職)の推移を見ると、以下の様になっている。(出所:農林中央金庫新卒採用HP)
http://www.nochubank-saiyo.com/recruit/bosyuu/
2020年 |
66名(予定) |
2019年 |
72名 |
2018年 |
102名 |
2017年 |
87名 |
2016年 |
88名 |
2015年 |
99名 |
2018年以降、採用者数が減少トレンドに入っているのが気がかりである。メガバンクが新卒採用者数を大幅に削減していることを考慮すると、22卒以降は更に採用者数が減少する可能性もある。採用者数が50人を割ると、かなりの難易度になってしまい、そうなると、穴場感はなくなってしまう。
2. 農林中金の年収について
① 全体観
農林中金の給与における特徴は、今では珍しく、年功序列が極めて強く、特に管理職になるまでの14年間ほとんど差が付かないことである。
従って、同期における年収の差は、残業代による違い位である。これは、必ずしも望ましいことではないかも知れないが、大変安定しているということである。
給与水準については、建て前は「メガバンク並み」ということであるが、生涯賃金的にはメガバンクよりも上であろう。最初の内はほとんどメガバンクと変わらないが、15年目で部長代理(管理職)に昇格すると、それ以降はメガバンクを上回る水準となる。
更に、特徴として福利厚生にも恵まれている。例えば、家賃補助であるが、独身者で月3.5万円、扶養有りの場合で月7万円程度が補助される。また、社員食堂のディスカウント等も恵まれている。
② 農林中金の年次、タイトルと年収の推移
農林中金は、若いうちはメガバンクとほとんど変わらないか、若干メガバンクよりも安い水準で推移する。
最初の3年間は、400万円スタートで3年目に500万円位になる。
入社5年目には700万円位となり、入社8年目の30歳の時点では800万円程度である。
入社10年目の32歳位の時点で年収1000万円に到達できる。
その後も、年功序列でじわじわと上がり続け、35歳で1100~1200万円になる。
そして、入社15年目に管理職になれれば、年収は1300~1500万円となり、ここからメガバンクを上回る。管理職には一律に昇格できないが、40歳前半には多くの者が昇格できるという。
ここから上は、難しいが、部長になると年収1800~2000万円位の水準となる。
3. 農林中金のキャリアと転職について
①巨大な機関投資家としてのプレゼンスは非常に高いが、外資系では目立たない?
農林中金は巨額な資金を有し、金融業界においては、巨大な機関投資家としてリスペクトされている。もちろん、市場関係の仕事についていたとしても、外銀への転職は難しい。例外的に、営業職に就いていて、英語ができる場合には、若い間であれば外資系運用会社の機関投資家営業職に就くことは可能であろう。
従業員数が少ないということもあり、外銀や外資系運用会社(バイサイド)における農林中金出身者はあまり多くないと思われる。
②子会社の農林中金全共連アセットマネジメントは隠れた優良企業?
転職を前提に農林中金で働く人は多く無いと思われるが、いざという時に備えて転職能力・市場価値を高めたいというのであれば、傘下の農林中金全共連アセットマネジメントへの出向も悪く無いかも知れない。
これは、農林中金と全共連との合弁であり、農林中金が一応株式の過半数を所有する形となっている。運用資産残高(AUM)は2020/3末時点で、5兆円を超しており、国内系トップクラスの運用会社と肩を並べるレベルである。
従業員数も150名を超え、日本における外資系アセマネだと大手レベルの人数である。中途採用も時々実施しているようだ。
③もっとも、高い給与水準、終身雇用が見込まれる安定性やワークライフバランスが魅力なので…
しかし、そもそも農林中金の場合、終身雇用で高い給与水準が保証され、ワークライフバランスも優れているので、多くの者は転職を考えないだろう。
また、外銀や外資系バイサイドへの転職志向があるようなタイプの者は、最初から農林中金を目指さなかったという見方もできるだろう。
このため、農林中金社内での終身雇用を前提としたキャリアプランを立てて働いていくことは、特に問題無いかと思われる。
もちろん、世の中の動きは激しく、メガバンクや他の大手金融機関の業績が低迷すると、給与面もそれに引っ張れるリスクはあるので、できることなら英語力を磨いたり、海外勤務・海外留学ができるなら、やっておいた方がいいのは言うまでもない。
農林中央金庫の場合、海外は、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港、北京に拠点がある。海外で収益を上げなければならないというプレッシャーはないので、ツーリスト的な存在かと推測されるが、最低語学力は身に付くし、良い経験にはなるのではないだろうか?
④外資系金融機関に転身したくなった場合
上記の通り、農林中金に新卒で就職した場合は、終身雇用が基本線であろうが、外資系金融機関に途中で転身したくなればどうすればいいのか?運用部門や傘下のアセマネに出向できた場合には、外資系アセットマネジメント企業への転職は可能である。もっとも、外資系の場合は、一人当たりの業務範囲が広かったり、海外へのレポーティングが必要という特徴があり、外資系のカルチャーにフィットする必要がある。このため、遅くとも30代半ば位までに転職することが望ましい。
IBD或いはグローバルマーケット等、外銀に転身するとなると難しい。その際は、私費で米国の有力MBAに留学するのが最も確実だろう。若い時に留学費用を貯めて、20代後半くらいで留学をする計画を立てることになる。そうすると、未経験アソシエイトとしての転職が可能になるだろう。国内系証券会社のIBDや市場部門を経由するのは回りくどく、外銀がゴールであれば余りお勧めではない。
4. 農林中金への転職とエージェントについて
上記は新卒での入社に関する話であるが、中途採用で農林中金に入社するという方法もある。もっとも、農林中金は新卒採用メインの会社であるので、あまり積極的に中途採用を行っている訳では無いので、チャンスがあればというスタンスで臨んだ方がいいだろう。中途採用のチャンスを見逃さないようにするためには、なるべく多くのエージェントに登録しておく必要がある。リクルート、doda、パソナキャリア、エン・ジャパン、JAC等である。JACは金融に強い大手なのでここも押さえておいた方がいいだろう。登録はこちら(JACの公式サイト)
また、金融特化型のエージェントも上記の大手と合わせて登録することをお勧めする。独自のコネクションによる案件を持っていたり、専門的なアドバイスを得られる場合があるからだ。その中では、アンテロープやコトラが有名である。
<アンテロープ>
<コトラ>
最後に
ここは、金融機関の中でも、給与・ワークライフバランスに優れ、業界ステータスも高い。その割に、外銀や国内系金融のコース別採用程は難易度は高くなく、狙い目の企業であった。
しかし、新卒採用人数が減少していく可能性が気がかりである。
2020年の年初にコロナウイルスの問題が生じ、世界経済に非常に大きな影響を及ぼしている。2021年になり、ワクチンが浸透し始めて収束も期待されたが、日本では2021年8月時点で感染者数が増え続けており、収束の目途はたってない状況にある。
コロナウイルスの発生前から、既にメガバンクは新卒採用者数を大きく抑制するトレンドに入っている。コロナの影響が懸念された21卒と22卒については、特別大きな採用枠の減少は無かったものの、商社や国内金融専門職にはますます優秀層が集中しており難化の傾向が見える。23卒以降については、楽観視できる状況とは言えないだろう。
従来は、外銀や国内系証券会社の専門職コース志望者は、ここまで併願しなかったかも知れないが、そういったハイスペックの就活生が参入すれば、もともと採用枠が少ない農林中金は一気に難化する可能性がある。
そうした場合でも対応できるよう、早い段階からの就活準備が求められ、留学を含めた英語対応や証券アナリスト(CMA)或いは簿記といった会計系の資格取得などの準備をしておくことが望ましい。