1. 人気沸騰のデータサイエンス学部
2017年に滋賀大学はデータサイエンス学部を創設し、その結果、滋賀大学の2019年度の志願者数は1000人以上も増加した。これは、志願者が増えた大学において、国公立部門のトップである。データサイエンス学部の志願者数の伸びは前年比5割と特に顕著であったという。
また、2018年にデータサイエンス学部を設置した横浜市立大学と、今年データサイエンス学部を新設した武蔵大学も多くの志願者を集め、横浜市立大学の今年の志望倍率は4倍超、武蔵大学はデータサイエンス学部については25倍超の高倍率になったという。
2. データサイエンス学部の人気沸騰の背景はAIとビッグデータ
このように、データサイエンス学部を新設した大学はいずれも大成功を収めているが、その背景にあるのは、ビッグデータやAIに対する人気・注目度の高さである。
データサイエンスは、統計学やプログラミングといった工学部・理学部的な分野だけでなく、社会課題やビジネスなどの文系的な分野も絡んでくるため、単独の学部だけではカバーすることは難しい。
そこで、これらを横断的に分析・検討できるデータサイエンス学部の意義は大きいと考えられたのだ。
3. 「MARCH・関関同立よりもMUSYC」は本当か?
「MARCHや関関同立よりMUSYC」というのは、AERAの2019.5.13増大号の見出しである。
MUSYCというのは、データサイエンス学部を擁する、上記の武蔵大学(MU)、滋賀大学(S)、横浜市立大学(YC)の頭文字を組み合わせた、AERA編集部が考えた造語である。
これからの大学選びは、大学名や偏差値ではなく、専門領域が重要になるというのがAERAのここでの主張である。
それでは、本当に、MARCHや関関同立よりもMUSYCを選択すべきなのだろうか?
4. ブームに乗って安易に選択すべきではない
これについては、本当にデータサイエンスを専攻したいという理由で選択するのであればいいが、単にブームに乗って、こういった新設学部を安易に選択すべきではない。その理由としては、以下のものが考えられる。
① 大学で習得できることは限られる
データサイエンスというのは新しい領域であり、新設された学部には当然過去の実績は無い。従って、実際にどれくらいのスキルを習得することができるかについては未知数だ。
それに、統計学・プログラミング、社会科学・ビジネスと横断的に学べるというと聞こえはいいが、在学中にそれだけ多くの専門性を身に着けることは不可能だ。結局、各分野の表面的なところを浅く広く学習できるだけというリスクがある。
データサイエンスについては、データサイエンス学部で学ばなくとも、企業に行って実務を経験しながら学ぶことができる。そうであるならば、データサイエンスのパーツである各分野を深く学んだ方が、長期的には競争力のあるスキルとして活用できるのではないだろうか?
② 就職については未知数
国際系の学部にも見られることであるが、志願者数の増加と偏差値アップやメディアの煽りと、実際の就職力とが一致するわけではない。
特に、データサイエンス学部についてはいずれも新設の学部であり、どこも就職実績というのが無い。
また、採用側の企業も新卒採用についてはコンサバであり、人気の学部に飛びつくよりもOB・OGが数多く存在し、ネームバリューの高い大学・学部名を好む傾向がある。このため、大学名を犠牲にしてまでして、勢いでデータサイエンス学部を選択すると就活時に後悔するかも知れない。
例えば、滋賀大学の場合は、旧彦根高商の流れを汲む経済学部の就職力が十分に高いため、経済学部に進学した上でデータサイエンス系の科目を一部履修するという方が手堅い可能性がある。
<滋賀大学経済学部の就職力>
https://career21.jp/2019-01-22-064409
また、MARCHのどこかの学部に合格しているのであれば、MARCHを蹴って武蔵大学のデータサイエンス学部に進学するというのは、就活時においてリスクを伴うこととなる。
何故なら、学歴フィルターの影響がMARCH以上と未満とで大きく異なってくるからである。
確かに、データサイエンスというのは興味深い領域であるし、学習したいという意欲を持って大学・学部を選択するのは結構なことである。しかし、就職とか周りの評価はすぐに変わるわけでは無いし、その学部に行かなくとも学習する方法はある。
したがって、ブームに惑わされることなく、冷静な学校選びをしたいところだ。