【書評】楠木新氏著「定年準備」。経団連の終身雇用終了宣言以降は、より前倒しで50歳以降について考える必要がある。

1. 終身雇用が終了となると、早い段階から50歳以降の生き方を真剣に考え始める必要がある。

ベストセラーの「定年後」読了後、その続編ともいえる楠木新氏の著書「定年準備」を読んでみた。
サブタイトルの「人生後半戦の助走と実践」にある通り、望ましい定年後を迎えることができるには、定年前から周到な準備をしなければならない。定年後に備えた「助走期間」が必要なわけで、この点は「人はすぐには変われない」ということで、冒頭に記載されている。

この本が発行された当時は、「定年」というのは基本的に60歳という前提であった。
しかし、平成31年4月19日の経団連会長による終身雇用の終了宣言以降は、
定年60歳というのが保証されなくなるので、お金の問題も含めて尚更早い段階で「定年準備」を始めなければならなくなってしまう。

2. 定年を期に生活から環境まで全てが変わってしまう。

定年を機に生活は一変することになるのだが、その変化の度合いは想像する以上に厳しいものだそうだ。朝起きる時間が違う、通勤がない、午前中に上司・同僚・部下・顧客に会わない、ランチも勤務地ではなく自宅か近所で取る、午後も会議も外交もない、夜に飲みに行くことは無い、帰りの通勤も無い、ということで生活様式が全く異なる。

そこで、「これだとダメになってしまう。仕事なり趣味なりを見つけなければ。」と思っても、すぐに対応できるものではない。

3. 仕事・ボランティア・趣味を見つけるにしてもお金、スキル、人脈が必要

60歳を過ぎてしまうとハローワークに行っても思うような仕事は見つからない。何か他の定年退職者とは異なる、そして、市場からのニーズがあるスキルや資格を身に着けることはすぐにはできないし、年を取ればとるほど、マスターするスピードは落ちてしまう。

例えば、定年後社会保険労務士をやろうと思っても何年も前から専門学校に行って資格をとらなければならない。美容師でも一緒だ。

NPO、ボランティアだって簡単にできるわけではない。福祉関係のボランティアをやろうと思っても医療・看護的なスキルもない、心理カウンセリング的なスキルもない、人を楽しませる芸もないでは、足手まといであり、歓迎されない。
趣味も、何が本当にやりたいのか、すぐには見つからない。

4. 50歳の時点で意識をする人は少なくないが「実践」に移せる人は多くない。

楠木氏によると、企業や労働組合が主催する定年準備セミナーでも、50歳の参加者が定年以降の生活に不安を感じたり準備の必要性を感じたりする人の割合は低くは無い。しかし、実際に準備に向けて行動に移す人は必ずしも多くないようだ。

5. まずは、何らかの行動に移すべき。

結局重要なのは、何らかの行動を取ってみることだという。単に本やWebで情報を取るだけではなく、実際に資格取得の専門学校に行ってみたり、ボランティアのイベントに参加してみることだ。そうすると、そこでいろいろ新たな経験や出会いがあり、次につながりやすくなるという。
この点については、キャリアプランと共通していると思った。

最後に

楠木新氏の「定年後」及び「定年準備」というのは、両方とも、定年後の問題はお金の問題よりも、むしろ、自分の居場所の問題だという前提で書かれている。

楠木新氏は、京都大学⇒日本生命というエリート・サラリーマンでいらっしゃったので、大手のサラリーマンの定年後を想定している場合が多い。大手企業のサラリーマンは、一般的に分厚い退職金と企業年金に支えられているため、定年後はお金はそれほど世間・メディアで言われているほど困らないというトーンである。

しかし、定年60歳が保証されなくなったり、退職金や企業年金が薄くなると、自分の居場所の前に、自分や家族の生活のためにお金をどうするかというファイナンシャル・プランがより重要な問題となってくる。
そうなると、皮肉なことに、お金を稼ぐためにドタバタすると、自分の居場所をどうするかという問題は相対的に後退するかも知れない。

  • ブックマーク