経団連と大学側が「通年採用の拡大」に合意。経団連が求める「勉強する学生」について考えてみた。

1. 経団連と大学側が「通年採用の拡大」に合意

平成31年4月22日、経団連と大学側で作る「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」は、新卒採用において、通年採用を拡大する方向で合意した。

この背景としては、終身雇用の終了とそれに伴う雇用の流動化・多様化を高めたい経団連と、就活によって学生が勉強や実習に打ち込めないことに不満がある大学側の事情がある。

要するに、通年採用を拡大すれば、大学で研究や実習に注力していても卒業後に就活する機会が与えられるので大学側としては嬉しいことだし、海外留学をしていた学生や長期インターンをしている学生をフレキシブルに採用する機会が生じ、経団連側としても好都合だということだ。

https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/190423/ecd1904230500002-n1.htm

2. 「勉強する学生が欲しい」という経団連の通年採用における本音とは?

この通年採用の背景として、経団連は「勉強する学生が欲しい」ということである。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43933180Z10C19A4EE8000/

グローバル競争の激化や高度なIT化が避けられない経済環境において、専門性のある優秀な学生が欲しいということである。

「勉強する学生」「専門性のある学生」というと、理系の場合は、比較的イメージが湧きやすい。
しかし、文系の学生の場合は、何についてどのような「専門性」が求められるのだろうか?

3. 文系の学生に求められる専門性とは?

① 基本的な経営分析能力~外コンの場合~

文系の場合、ほとんどの企業は配属部署を特定しない、総合職としての一括採用なので、特定の専門性について試されることは無い。
しかし、最難関であり、特に上位校の学生に人気のある外コンといわれる外資系コンサルティング・ファームにおいては、ロジカル・シンキング(フェルミ推定含む)とケース対応が求められる。

外コンの場合、筆記試験に加え、面接やグループ・ディスカッション等においても経営分析に係る能力がためされるため、経営戦略論やマーケティング論の基本を学習することになる。

このため、極々一部であるが、外コンを始めとするコンサルティング業界を志望する学生には経営戦略論の専門性が求められることになる。

② ファイナンス、企業分析能力

外コンと並んで最難関なのは、外銀と呼ばれる外資系投資銀行、そして国内系金融機関のコース別採用である。いわば、金融系プロフェッショナルのポジションである。

外銀や国内系金融機関の専門職コースの採用プロセスにおいては、面接やグループ・ディスカッションなどでファイナンス、企業分析に関する知識が試される。このため、証券アナリスト、USCPAといったファイナンス・会計系の学習が必要になる。

また、グローバル・マーケッツと言われる株式、債券、デリバティブに係るトレーディングやセールスのポジションについては、市況に関する興味・理解が求められるので、自ら少額でも株式やFX投資をして相場観を養うことが求められる。

③ 外資系消費財メーカーのマーケティング職

上記の外銀・外コンと比べると、少しマイナーであるが、P&Gとかユニリーバといった外資系消費財メーカーや、日清食品、花王などの一部の国内系企業においては、マーケティングに関するポジションが用意されている。

競争率が高く狭き門であり、マーケティングや広告に関する知識が必要となり、マーケティングに関する学習が要求される。

④ 法学部の場合、専門性はどう考えればいいのか?

上記の、経営戦略、ファイナンス、マーケティングはいずれも経済・経営・商学部系の専門領域である。それでは、法学部生で民間企業を志望する学生はどのように考えればいいのだろうか?

法学部と言っても、東大法学部は別として、早慶の法学部でも約三分の二の学生は民間企業に就職する。そして、法務専門職というポジションも無くはないが、結局弁護士資格保有者が優位であるので、この点についてはよく考える必要がある。

メーカーの知財部門とか、法学部での法律知識を強みとして就活するという手もあるが、その場合には、入社後に弁護士とか弁理士といった資格保有者に劣後してしまわないか留意する必要がある。

法学部と言っても、法科大学院に進学しないことを決意し、公務員への途にも行かないことに決めた場合には、法学部ということに囚われずに、経営戦略、ファイナンス、マーケティングを勉強して、経済・経営・商学部系の学生と同じ切り口で戦うというのもアリだろう。

実際、東大法学部のトップ層でも、弁護士や官僚に魅力が無いと考え、外銀・外コンにフォーカスしている学生もいるという。

この点、自らの方向性を固めて早めに対応しないと、人気のポジションには就けなくなってしまう。

4. 今後、各業界においてコース別採用が増える可能性がある

各種メディアの、今回の一連の経団連の終身雇用や就活に関するニュースを見ていると、専門分野、データ分析、AI、フィンテック、高度な知識・技術、といったキーワードが多く、文系の学生は蚊帳の外にも見える。

しかし、企業側のニーズとしては専門性の高い人材を求めるという点では同様のはずであり、今後は文系の学生においてもコース別採用が拡がっていくのではないかと考えられる。

何故かというと、コース別採用にすると総合職採用に比して人気がグッと高まるからである。金融やコンサルと違って、一般的な事業会社はなかなか高い給与を最初から払うことは難しい。このため、企業が求めるトップクラスの人間(文系)は、特定の高給の業種・職種に過度に集中し、それがダメでも給料の高い金融機関にとられてしまう。

しかし、事業会社としてもこの状況を打開したいはずだろうから、給料を上げないで優秀な学生を採るには、コース別採用というのは有用な手段だからだ。

また、ベンチャー系企業などは既に広くコース別採用を実施している。自動車、電機、機械、素材、インフラ、小売り等の事業会社も文系学生について、人事、財務、マーケティング、企画と、コース別採用を拡げる可能性がある。
日本企業の場合、横並び意識が強いので、トヨタとかキャノンといった業界トップ企業が始めれば、一気に浸透するだろう。

最後に

経団連の終身雇用終了宣言によって、日本の雇用の在り方は大きく変貌していくだろう。当然、新卒採用の在り方も大きく変わるので、それに対応できるよう文系の学生も何らかの専門性が求められる時代が来るのではないだろうか。

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