年収アップの目的で、公認会計士が金融機関(外資又は国内)に転職する場合の留意点

1. 何故、公認会計士が年収アップのために転職を考えなければならないのか?

① 若い時には十分競争力のある給与水準だが…

公認会計士試験は今でも最難関の国家試験の1つであり、合格後に監査法人に勤めることになった場合、初任給は手厚い。平成31年の時点で、初年度年収は残業代とボーナスを含めると余裕で500万円を越える。

また、その後も順調に昇給がなされ、2年目には600万を越え、約3年半経過時のシニアスタッフ昇格時には年収は700万円に到達する。

この水準は、国内系企業と比較すると、総合商社並みの最高水準であると言えるだろう。

② 管理職(マネージャー)になるとペースダウンしてしまう…

シニアスタッフ昇格後も年収は増え続け、残業代にもよるが、マネージャー昇格直前の、入社7年目位には1000万円に到達する。

その後、入社年次で7~8年、年齢でいうと30代前半にはマネージャーに昇格する。マネージャーの年収は950万円~1100万円程度であるが、シニアスタッフの頃とあまり変化が無いのは残業代がつかなくなるからである。

このため、初年度500万円超スタートで入社7年目位には大台の1000万円に到達するのであるが、管理職であるマネージャーになってから昇給ペースが大幅に鈍化してしまう。

③ アップサイドは限られている…

マネージャーに昇格後、早ければ3年程度でシニア・マネージャーに昇格できる。この場合、年収水準は1200~1300万円程度であるが、年齢が30代半ば以降であることを考慮すると、商社やマスコミには追い越され、メガバンクにも追い付かれてしまう。

また、近年では上が詰まっていることもあり、シニア・マネージャーへの昇格の難度が高まって来ている。
シニア・マネージャーから昇格すると、最高位のパートナーに就任する。

パートナーの年収は部門にもよるが、年収1500~1800万円スタートである。ここまで到達できるのは一部の公認会計士に限られ、そのステータスを考えると年収2000万円に到達できないというのは少し寂しい気がする。

④ 退職金や年金が不十分であること

大手監査法人も退職金や年金制度があるが、大企業と比べるとその水準は低い。この点、大手金融機関や商社と比べると、実質的な年収はその分見劣りすることとなる。

⑤ 結局、公認会計士の年収は悪くは無いが比較すると他が気になる

以上のように、公認会計士の年収は決して悪くは無いのであるが、30代のマネージャー以降鈍化し、他の高給な業界と比べると見劣りする場合がある。このため、優秀な者ほどアップサイドを狙いたい野望や能力があるため、他業界への転職を視野に入れるのである。

2. 外資系証券会社(外銀)に転職する場合

公認会計士が年収アップのために真っ先に考えるのは、外資系証券会社、いわゆる外銀ではないだろうか?外銀の場合、部署によって年収が大幅に異なるため、以下ではIBD(投資銀行部門)とファイナンス(経理部)に分けてコメントする。

① IBD(投資銀行部門)への転職した場合の年収水準

例えば、監査法人に入社後4~5年、年齢でいうと27~28歳位で、外銀のIBDに転職する場合、アソシエイトとしての採用となる。

その場合、基本給であるベースサラリーは1400~1800万円で、年1回のボーナスは300~1000万円位と想定される。業績が良ければ今でも年収2000万円が視野に入るわけである。

このため、無事、外銀のIBDに転職できれば、一気に監査法人の最高位であるパートナーを追い抜くことができるわけである。そして、更に数年後にVPに昇格できると、年収4000万円超も狙えるわけである。これは大変魅力のある話であろう。

② 公認会計士が外銀IBDに転職できる難易度

しかし、外銀IBDに中途で転職することは、それほど容易なことではない。まず、前提として高度な英語力が必要であり、英語ができないと話にならない。このため、外銀を狙う場合には公認会計士試験合格後の早い段階から英語力を磨いておかなければならない。

また、監査法人での職務内容と、外銀IBDで求められるスキルは結構異なる。例えば、面接で、「直近のM&Aで気になったディールを10個述べよ」というようなことを聞かれても対処できるように、常日頃から投資銀行業務に関する情報収集をしておかなければならない。

そして、外銀IBDの中途採用の枠には、国内系証券会社のIBDから腕自慢のハイスペックな若手との競争となるので、プレゼン能力や人当たりの良さも決め手となる。公認会計士資格は特に採用の決め手とはならないので、ここでの競争は容易ではない。

また、近年では国内系証券会社のIBDやFASからの転職者については、外銀IBDで採用されても相応のディスカウント(アソシエイトではなく1ランク下のアナリストとしての採用)もあるので、なかなか厳しくなっているようだ。

③ 外銀のファイナンス部門(経理部門)への転職

外銀のIBDは魅力のあるポジションだが、中途採用は狭き門であるし、入った後も激務であるので、実はおススメはこちらの外銀のファイナンス部門である。部門名はファイナンスであるが、実態は経理部である。

このため、公認会計士資格は外銀のファイナンス部門では有利である。もっとも、IBDと比べると、ベース水準は若干低く、ボーナスの水準は大幅に下がる。それでも、ベースで1200~1400万円、ボーナスで数百~500万円位は狙えるレンジであり、トータル年収は1500~1800万円位は期待できる。そして、VPに昇格すると、年収は2000万円を越える。従って、十分魅力的なポジションだと思われる。

④ 外銀の内部監査(インターナル・オーディット)部門について

監査法人での監査業務の経験から、外銀の「内部監査」部門はどうか?と考える人もいるだろう。しかし、結論的には、内部監査部門はおススメではない。

何故なら、バックオフィスの中でもヒエラルキーは下の方であり、昇格やボーナスレベルにおいて不利だからである。VP以上であれば年収は2000万円を越えるが、人事、経理、コンプライアンスなどと比べても昇格は難しい。また、内部監査の場合、求人が豊富にあるわけでもないから、ファイナンス部門を狙った方が良いだろう。

3. 外資系運用会社(バイサイド)に転職する場合

① タイミング的には30代・マネージャーになってから?

フィデリティ、ブラックロック、ウエリントン、シュローダー、インベスコ、ピクテといった外資系運用会社も公認会計士にとっての転職対象となるだろう。もっとも、運用会社の場合は、IBDが無いので対象部署はファイナンス(経理部)となろう。

ただ、注意しなければならない点が2つある。

1つ目は、運用会社の場合は平均年齢が外銀よりも高いために、転職するのであれば、30代になってからがいい。年功序列があるので、20代だと若すぎるのである。

2つ目は、外資系と言っても、外資系証券会社よりも給与水準が低いので、バックオフィスの場合、VP以上で転職しないとあまり意味がない。公認会計士の場合、30前半のマネージャーの場合には、VPで転職できるのでタイミング的にはそれぐらいがちょうどいいのではないだろうか?

② 外資系運用会社の経理部のVPの年収について

外銀の経理部のVPだと基本給が1200~1500万円、ボーナスは数百万円位で、合計1500~1600万円位ではないだろうか?

経理部のVPだと高くても年収2000万円にはなかなか到達しない。2000万円を超えるのは、1ランク上のSVP/Directorに昇格してからだろう。

この点は、外銀と比べると見劣りするが、運用会社の場合には、外資系と言っても安定性やワークライフバランスに優れているので、検討する価値はあるだろう。

4. 国内系金融機関に転職する場合

① ある程度の年収アップを望むのであれば、IBDのプロ職か?

年収アップの目的で、公認会計士が国内系金融機関に転職することも考えられるが、ある程度の大幅な年収アップを期待するのであれば、ターゲットとなる職種はIBDのプロ職に限られるのではないだろうか?

すなわち、大手証券会社の場合、普通の総合職であれば課長クラスで1200~1500万円、副部長・担当部長クラスで1500~1800万円位なので、監査法人にいるのと大きく変わるわけでは無い。

年収2000万円クラスを狙うのであれば、プロ職ということになるだろう。国内系証券会社の場合、みずほ証券にしても、SMBC日興証券にしても、特にクビになることはあまりなく、給与水準の高い総合職のような運用となっているので魅力のあるポジションである。しかし、近年この問題点が見直されつつあるので、採用は好況期でなければ難しくなってきているようだ。

② 国内系の場合、英語力が無くても採用が可能という特色はある

外資系と国内系の大きな違いは、英語力が必須か否かである。もちろん国内系の場合でも英語ができる方が望ましいが、特に公認会計士資格がある場合には英語はMUSTではないだろう。これは英語が得意でない公認会計士にとっては魅力であろう。

③ 留意点は昇格は生え抜きが有利であること

プロ職の場合にはあまり関係がないかも知れないが、総合職で転職する場合には、中途採用は不利である。証券会社の場合、昔から中途採用というのは珍しくないが、中途採用で役員に昇格するという話はほとんど聞いたことが無い。また、部長クラスでも中途組が昇格するのはなかなか難しい。

公認会計士の場合には、監査法人でパートナーを狙うのがいいのか、そこそこ高い給料で国内系証券会社を狙うのか、この点は悩みどころである。

5. 転職する場合の転職エージェント選び

① 転職エージェント選びのポイントはなるべく多く登録すること

転職エージェントには得意な会社とそうでない会社がある。それは、外側からは判断できないため、なるべく多くの転職エージェントに登録する他ない。

数多くの転職エージェントに登録するには、レジュメを用意したり、面談を多くしたりと面倒ではあるが、そこで手を抜くわけには行かない。

② 金融機関に強い転職エージェントを選ぶこと

金融機関に転職するには、どういったエージェントを選択すべきか?これについては、国内系と外資系とで異なる。国内系の場合は、リクルート、doda、パソナキャリア、エン・ジャパン、JACといった大手が強い。上記の通り、面倒であるが、なるべく多くのエージェントに登録をし、その中で取捨選択をしていくのが良いだろう。大手とは言え、得意・不得意はあるので、幅広くカバーしておきたい。リクルートは登録していない人はいないかも知れないが、まだであれば、登録しておくべきだろう。登録はこちら(リクルートエージェントの公式サイト)

また、JACというのは国内・外資双方に強い大手であるが、意外に認知度が低いので、ここも登録しておいて損は無い。登録はこちら(JACの公式サイト)

さらに、金融機関の場合は、上記の大手に加えて、金融に強いブティック型のエージェントがある。こういったところは独自案件をもっていたり、アドバイス力も大手より高い場合もあるので、是非並行して登録しておきたい。具体的には、アンテロープ、コトラ、カナエアソシエイツあたりがお勧めだ。

<アンテロープ>

https://www.antelope.co.jp/?gclid=CjwKCAjw2dD7BRASEiwAWCtCbwKFLHBb74K6x9Yacxn7ZirVSkzc9XrsJupbzQSaMy9Kd0uVyUsTRhoCyeEQAvD_BwE

<コトラ>

https://www.kotora.jp/

<カナエアソシエイツ>

http://kanae-associates.com/

外資系金融機関の場合には、外資系金融特化型のエージェントが強い。リクルートやJACの様な国内系の大手と比べると比較的小振りなエージェントが多く、「外資系金融 転職」のキーワード検索から、なるべく多く登録するという手段が面倒な様で堅い。例えば、以下の様な転職エージェントは外資系金融特化型である。

〇マイケル・ペイジ

〇ロバートウォルターズ

〇モーガン・マッキンリー

〇イースト・ウエスト・コンサルティング

〇エン・ワールド

最後に

公認会計士の場合、資格があるので、最悪失敗してもダウンサイドが限られるという特色がある。このため、外銀IBDに挑戦するとアップサイドという点では面白いのであるが、難易度が高い。その点、外資系運用会社とか国内系証券のIBDでリスクを落としてそれなりの年収をもらうという選択肢も十分理由がある。
期待するアップサイドがもっと高い場合には、ベンチャー起業を狙うということになるのだろうか。

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