1. 古き良き時代の退職金制度
①ボーナスを退職金に積み立てることができた時代
外銀のような高年収のサラリーマンにとっては、税金は切実な問題だ。何故なら、年収1億円でも手取りは半分の5000万円程度しか無いのだから。
この点は、会社経営者/自営業者が経費を使えるのに比して、サラリーマンのつらいところである。
しかし、サラリーマンには退職金という強力な見方があり、退職金の実質的な税率は10%程度になるので、高年収サラリーマンにとっては嬉しい制度である。
特に、長者番付(高額納税者公示制度)が廃止された2006年頃位までと記憶しているが、その頃まではわりと自由に退職金を積み立てることができた。
例えば、外銀MDのベース(基本給)が3000万円、ボーナスが1億2000万円としよう。このボーナスの1/3の4000万円を退職金として積み立てることが行われていたのだ。
そうすると、仮に5年間、この年収が継続し、その期間4000万円を退職金として積立続けた場合、退職時には2億円の退職金が積みあがることとなる。そうすると、約1億8000万円位を手取りとして受け取ることができたのだ。
その4000万円を退職金として積み立てず、給与所得として課税後に貯蓄に回した場合には同じ5年間で1億円位の手取りにしかならないので、税制上、退職金を柔軟に使いこなすことは大きかったのだ。
しかし、この外資系企業の退職金の恣意的な積立制度は、徐々に税務署のプレッシャー外資系金融機関にかかり、2005~2006年頃には、ほとんどこのやり方は使えなくなった(はずである)。
従って、今では、後述する、1年あたりベース(基本給)の約1割程度が退職金として支給されるだけになってしまった。
②外資系金融の者がド派手な生活ができた背景
余談であるが、リーマンショック前に外資系金融の社員がド派手な生活を送れた事情としては、ボーナスの水準が今の倍以上あったということに加え、上述の退職金制度の存在が大きい。ボーナスの一部を退職金として積み立て、数年後には低い税率でがっぽりと受け取ることができるのだから、それ以外は思いっきり使っても安心ということだ。
今は、ボーナス水準が大幅減に加え、退職金への積み立ても基本的にできなくなったから、今の外銀の者は厳しい。(もちろん、それでも圧倒的な高収入だが。)
2. 現在の外資系金融機関の退職金について
①そもそも退職金制度が無い会社もあるので、要確認
外資系金融といっても、外銀と呼ばれる外資系証券会社、バイサイドと呼ばれる外資系運用会社(ヘッジファンド含む)、それから、シティバンクやHSBC銀行のような外資系商業銀行、アクサやプルデンシャルのような外資系保険会社と、
いろいろな業態がある。
このうち、外銀や外資系保険会社の場合には、従業員数が多く、退職金制度や確定拠出金制度が完備されている場合が多い。
他方、外資系運用会社の場合、特にヘッジファンドなどはそうだが、従業員数が10人~30人位のエンティティも少なくないため、そういった企業の場合には退職金制度が無い場合もある。
退職金制度が有るのと無いのとでは、税制上のメリットが大変大きいので、長期間働けば働くほど、かなり効いてくる。したがって、ベース(基本給)が500万円位高ければ、かなり見栄えがよく見えたりするが、退職金制度が無いと給与水準の差がほとんど消えてしまう場合もある。
このため、転職を決める際には、予め退職金制度がどうなっているかチェックすべきである。
②外資系金融機関の一般的な退職金制度
外資系金融機関で退職金制度がある場合、一般的なのは、1年あたり、ベース(基本給)の約1割が退職金として支給されるというパターンだ。
例えば、VPクラスでベースが2000万円で5年間働いた場合には、200万×5年=1000万円が支給される退職金の額となる。
残念ながら、古き良き時代のように、「年収」或いは「ボーナス」の1割ではなく、ベース(基本給)の1割である。ベースはどこの企業も似たり寄ったりだし、フロントとバックオフィスでも大きく変わらないので、MDクラスでも1年あたり300~400万円にしかならない。
他方、バックオフィスのVPクラスでベースが2000万円の場合でも、20年位(バイサイドだとあり得る)働けば、200万円×20年=4000万円とかなりいい退職金が支給されることになる。
なお、ベースの1割ということであっても、企業によって細かな制約がある場合がある。例えば、1年あたりの上限が150万円とか、入社後3年以内に辞めたら支給されない或いは半減される等である。
このあたりは誤解が無いよう、キッチリとチェックしたい。
3. リストラされた場合の割増退職金について
外資系金融機関、特に、最も給与水準が高いと考えらえる外銀の場合、リストラリスクがある。
日本は従業員の解雇に厳しい国なので、こういった場合、通常の退職金に加え、割増の退職金が通常支払われるはずだ。
この割増退職金の支給水準は、一般的に、外資系企業のお国柄によって一定のトレンドがあるようであり、一般的には、欧州(フランス)>英国>米国、といった順で手厚くなっているようだ。
例えば、米国系の場合だと、ベースの6か月分程度の割増退職金がリストラに際して支給されることが多いと思われる。ボリュームゾーンのVPであればベースは、2000万円前後なので、通常の退職金とは別に、1000万円程度が上乗せされるイメージである。(もちろん、次が見つからないと、これではキツイが…)
英国系の場合だと、もう少し手厚く、ベースの1年分が割増されるという。従って、上のVPの例だと、2000万円が上乗せされることになる。
最高なのは、本国が解雇に凄く厳しい欧州の大陸系である。フランス系の場合、何とベースの2~3年分が上乗せされるという。もっとも、フランス系は概して給与水準はあまり良くないが、さすがにこれぐらいもらえれば余裕で、次の就職先が見つかっている場合には、「ラッキー!」といった感じである。
以上のように、退職金は重要な制度なので、転職時には慎重にチェックをしてキャリアプランを立てたいところだ。