日本に「ユニコーン企業」が全然現れない理由。起業家を目指す人が少ないのは何故か?

1. 日本の「ユニコーン企業」が米国に比して余りにも少ない

https://president.jp/articles/-/27735
こちらは、3月9日付のプレジデントオンラインの記事である。早稲田大学大学院ビジネススクールの長谷川先生は、ベンチャービジネス・起業がご専門であるが、日本のユニコーン企業の数が余りに少ないことについて懸念されている。

ユニコーン企業とは、評価額10億ドル以上の未上場企業をいう。日本は経済規模の割にユニコーン企業の数が、米国や中国と比べて特に少ない。

米国には110社を超えるユニコーン企業が存在し、中国にも55社あるという。これに対し、日本では4社しか存在しないということだ。

ユニコーン企業は、将来のその国の産業を担っていくことが期待される企業であるため、その企業数が少ないということは、気になるところだ。

2. 日本のユニコーン企業数が少ない理由

早稲田の長谷川先生は、日本にユニコーン企業が少ない理由として、以下の2点をあげている。

(1)VCやCVCの担当者の数が不十分
(2)起業家を目指す人が圧倒的に少ないこと

(1)は、VCやCVCの場合には、単にベンチャー企業に投資をするだけではなく、経営指導をしながら一緒にベンチャー企業を育てていく事業パートナーとしての側面も期待されているところ、十分な経験や能力があるベンチャーキャピタリストをまだまだこれから増やしていかなければならないということである。

この(1)よりも大きな問題が(2)だという。これは、大企業を辞めて起業すると言い出せば、家族や同僚が反対するとか、学校教育でも起業家になるための体制が整っていないといった理由である。

さらに、日本の場合、起業に挑戦するリスクが高く、失敗すると再起不能になってしまうというイメージが強く、保証人として企業の借金を背負うことになるというイメージもあるとのことだ。

3. 日本で起業家を目指す人が少ない理由を更に考えてみたが…

日本で起業家を目指す人が少ないという点については余り異論は無いのではなかろうか。

特に、優秀層・エリート層の間でも起業を目指す人が多くないことが問題だと考えられる。こういった層が必ずしも起業に向いているかどうかは別として、東大、早慶等のトップ学生の間で、起業やベンチャー企業の人気があまり高くない理由について以下、考えてみた。

①ベンチャー企業の給与水準が低い/ストック・オプションが不十分

東大や早慶の学生の間で、特に人気が高く、内定をもらうことが難しい業界・企業は以下の通りである。

外資系金融機関
外資系コンサルティング・ファーム(マッキンゼー、BCG他)
総合商社
国内系金融機関専門職コース(野村證券、大和証券、SMBC日興証券等のIBDコース)
大手マスコミ(キー局、電通・博報堂)

これらは全て給与水準が高い企業であり、学生が給与にこだわりが強いのは明らかだ。特に、若いうちから高い給与をもらえることに魅力を感じるようだ。

ベンチャー企業の場合、高い給料を支払うことは難しいかも知れない。しかし、そうであるならばストック・オプションを付与すればいい話だ。「ベンチャー企業⇒やりがい重視⇒高給は不要」という発想をベンチャー企業側がしてしまっては、良い人材を採るのは難しい。

ストック・オプションなり、現物株なり、株式を使うしかないかも知れないが
良い人材についてはそれなりの対応をする必要があるだろう。

この点、メルカリなどは早い段階から高い現金給与あるいはストック・オプションをフル活用し、良い人材を採ることに集中していた。

また、DeNAとかサイバーエージェントは、批判もあるが、残業代等を込の高めの初任給を示すなどして、給与面にも配慮している。

米国でも、Uberとかairbnbとかは巨額の調達資金を原資に、良い人材には高い給与を払っている。

採用者であるベンチャー企業側が、この点はまだまだ工夫しなければならないだろう。

②話題の大型ベンチャーも上場後、あまり伸びていない

ベンチャー企業の魅力は、夢とか成長性というイメージもあるだろう。しかし、日本の場合、IPO当時には注目されたベンチャー企業もその後伸び悩んでおり、上場ゴールのベンチャー企業が多いというイメージを持っている学生も多いかも知れない。

ユニコーン企業というと評価額1000億円ということであるが、上場企業の場合には時価総額3000億円位になりたいところである。

しかし、1999年以降に上場したインターネット系ベンチャー企業について見てみると、今(平成31年3月12日時点)でも時価総額3000億円を維持できている企業はわずかしかない。

(単位:兆円)

(リクルート) 5.10
(ヤフー) 1.48
楽天 1.33
エムスリー 1.16
時価総額1兆円の壁
LINE 0.94
ZOZO 0.68
GMO PG 0.55
サイバーエージェント 0.51
時価総額5000億円の壁
メルカリ 0.46
カカクコム 0.45
ガンホー 0.35

※株価時価総額は平成31年3月12日の株価を使用
※1999年以降上場のネット系企業から抽出

GAFAのように数十兆というレベルには遠く及ばず、時価総額1兆円を達成しているのは楽天とエムスリーのみである。

時価総額5000億円~1兆円レベルで、ようやくLINE、ZOZO、サイバーエージェントが登場してくる状況だ。

また、一時期は大変注目された、DeNA、ミクシィ、グリー、コロプラ、クックパッド、マネックスグループ、ライフネット生命あたりが時価総額3000億円に満たないところが残念である。

このような状況から、学生もベンチャー企業に夢や明るい希望を見いだせないのではないだろうか?

最後に

起業を支援する仕組み・体制が、日本の場合、まだ不十分なことも起業家を目指す人が少ない理由の1つであるとは言えるだろう。

しかし、楽天、LINE、ZOZO、サイバーエージェント、メルカリといった有望ベンチャー企業が時価総額数兆円になるくらいにまで成長しないと、日本の産業界や学生達にインパクトを与えられないのかも知れない。

起業家として成功する人は、周りの雰囲気に流されず、言われなくとも起業を目指すのかも知れないが、日本のベンチャービジネスが拡大するためにはある程度すそ野を拡げないことには始まらないだろう。

そのためには、上記リストにあるような(元)ベンチャー企業群にまだまだ成長してもらわなければならないのだ。

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