ユニリーバ・ジャパンとかネスレ日本とかの外資系消費財メーカーは、金融専門職と比べた場合、魅力はあるか?

1. トップ学生に強まる専門職志向

東大・京大生のみを対象とした就職ランキングによると、外銀・外コン・総合商社が人気で、とくにコンサルの人気上昇が顕著だそうだ。

他方、典型的な日本的大企業である、大手国内系メーカー(サントリー、トヨタ、資生堂、味の素、花王等)や、インフラ(JR各社、JAL、ANA)系企業の
人気凋落が著しいようである。

これは、最近のトップ学生は、転職を前提とした専門職志向が強く、下積みとジョブローテーションに基づくゼネラリスト型の企業を敬遠する傾向にあるからだという。

https://www.onecareer.jp/articles/1455

2. 専門職というと金融、コンサルだが…

転職を前提とした専門職というと、高学歴の学生の間で人気の3業態(外銀、外コン、総合商社)だと、総合商社は外れることになる。

また、専門職、専門的スキルを身に着けるという観点からは、外資系でなければならない理由はなく、国内系金融機関の専門職(IBD、リサーチ、トレーディング職)や、NRI、三菱総研、経営共創基盤等の国内系のコンサルも該当することになる。

こういった、金融或いはコンサルという専門職を目指すトップ学生からすると、P&G、ユニリーバ・ジャパン等の外資系消費財メーカーのマーケティング職も、転職を想定できるし、専門的スキルが身に付くという点において候補になり得るのではないだろうか?

また、学生の中には、周りに金融・コンサル志望が多く、自分は他も見てみたいという気持ちになることもあるのではなかろうか?

3. 外資系消費財メーカーのマーケティング職の魅力とは?

IBD等の金融系の専門職と比べると、外資系消費財メーカーのマーケティング業務は、クリエイティビティに溢れ、華がある仕事に見えるかも知れない。

数字とエクセル・パワポの地味なIBD業務と違って、消費財マーケティングだと有体物があり、マスメディアを駆使した広告という派手な世界に入って行くことができる。

また、Webマーケティングとは無縁な金融の世界と違って、消費財マーケティングの場合には、ネットだけでなく、YouTube、ツィッター、フェイスブック等、SNSを駆使したマーケティング活動を熟知することができる。金融専門職が苦手なネットの世界における専門性を身に着けることができるのだ。

ひょっとすると、金融専門職だと考えにくい、ネットの世界での起業も将来できるようなるのではないかという期待が湧くかも知れない。

そして、何と言っても、ワーク・ライフバランスの点が、金融専門職やコンサル
よりは遥かに良さそうである。年俸水準は、外資系消費財メーカーは、国内系金融機関よりは若干落ちるかも知れないが、ワーク・ライフバランスを加味すると、それほど悪くないかも知れない。

また、外資系企業の場合は、日本企業と比べると、幹部社員の給与水準は高いので、転職を重ね上手く幹部のポジションに就くことができると、ストック・オプション(RSU)も含めるとそれなりのアップサイドも期待できるかも知れない。

4. マーケティングは万能なスキルではない?

このような見方をすると、外資系消費財メーカーのマーケティング職も悪くないように思えるかも知れない。しかし、マーケティングというスキルにも適用範囲というものがあって、万能なスキルとは限らない。

①業種・商品の壁がある

メーカーのマーケティング職と言っても、その業種や取り扱う商品の種類によって手法やルールは異なっているものである。例えば、石鹸・シャンプー・髭剃りと、食料品、自動車、高級ブランド品とでは、マーケティングの手法は大きく異なるはずである。転職はできるかも知れないが、今まで通用したマーケティングスキルが取り扱う商品が異なると、通用しなくなるリスクもある。

特に、有体物を扱わないサービス・マーケティングの世界になると、ますますその手法は異なるものとなる。実は、金融ビッグバンがもてはやされた1998年以降、当時の三和銀行、新生銀行、日興証券あたりが、金融マーケティングの強化だということで、花王、ルイ・ヴィトン、アディダスあたりからマーケティングの専門家を中途採用したが、特に成果がでないまま、そういう人達は金融業界からいなくなってしまった。

もっとも、これはその人たちのスキルだけの問題ではなく、受け入れ側の金融機関の体制にも問題があったのだろうが。

いずれにせよ、業態や商品の壁というのが存在することに留意すべきだ。

②個人でビジネスを始める場合には実はあまり使えない

消費財や高級ブランド品のマーケティングをやっていた人が、マーケティングのスキルを活かして、起業をしたり、個人でビジネスを展開したという話はあまり聞いたことが無い。単にそういった事例が知られていないだけかもしれないが、
個人でビジネスを始める場合に要求されるマーケティングは、大企業のそれとは異なるからだ。

まず、個人でネットビジネスを始める場合、メーカーのような薄利多売のビジネスは厳しい。多売を前提とした場合、オペレーション的に無理だからだ。個人のビジネスで対象となり得るのは、薄利多売の正反対の、少数の利ザヤの厚い商材である。この点で、浅く広く売るというマーケティングスキルは通用しにくい。

また、メーカーのマーケティングは組織的に分業でやっていたりするし、マスメディア等を使った広告予算も潤沢にある。しかし、個人ビジネスの場合には、当然ながらマスメディアを使うような広告宣伝は打てない。

また、YouTube、ツィッター等のSNSも全て一人で対応しないといけないので、
分業になれていると厳しいところである。

5. 外資系消費財メーカーのマーケティング職は難関なので、金融専門職とは併願しにくい

総合的に勘案すると、金融専門職志望の学生にとっても、外資系消費財
メーカーの専門職にも魅力はありそうだ。しかし、外資系消費財メーカーのマーケティング職は人気があり、難易度は高いので、片手間に受けても落とされてしまう。(下手をすると、国内系金融機関のIBD専門職よりも難易度は高いかも知れない。特に、P&Gの場合)

就活プロセスで問われるスキルが金融専門職とは異なるため、真面目に併願するというのはリスクが高く、共倒れになってしまう恐れがある。

結局、どちらにするか早い内に意思決定をしなければならないのが辛いところだ。

最後に

外資系消費財メーカーのマーケティング職に志望を切り替えた場合、下手をすると全落ちする可能性も十分にある。

しかし、外資系企業の場合は、いくらでも中途採用で将来転職することは可能なので、新卒で、花王、資生堂、ライオンといった国内系メーカーに一旦就職するという手もある。

もっとも、金融機関との併願はあまり賢明ではないので、メーカーのマーケティング職に切り替える際には、悪くとも国内系メーカーからは内定をもらえるように、徹底的な事前準備をしたいところだ。

  • ブックマーク