双日の就活生ならやっておきたい、中期経営計画を使った企業分析

1. 総合商社はどこまで受けるか?

総合商社の就活における人気は非常に高いのであるが、総合商社は7社あるので、どこまで受けるかについては、様々な考え方があるだろう。

三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠、丸紅までを大手五社と呼び、双日と豊田通商は総合商社ではあるが、大手五社には入らない微妙な位置になる。

しかし、大手五社という公式なグループがあるわけでないので、それは特に気にすることもないのだが、問題は、大手五社と、双日、豊田通商とでは、給与水準に明確な差がある。だいたい、大手五社の八掛け位である。

このため、商社志望の場合、大手五社で留めておくか、双日も真剣に内定を取りに行くか、考えどころである。

2. 歴史的には魅力がある

双日のホームページの「双日の歴史」を読んでみると非常に面白い。双日は非常に歴史がある会社で、日本史を学習した人は知っているだろうが、あの「鈴木商店」を源流とする歴史のある名門商社である。

旧鈴木商店の後継会社として、「日商」が1928年に設立された。そして、戦後の1968年に岩井産業と合併し、日商岩井が誕生した。日商岩井というのは、ロッキード事件で有名になったりもしたが、トップクラスの企業ブランドを持ち、昔は、「六大商社(今の五大商社+日商岩井)」という言われ方もして、トップ学生の間でも人気があった。

しかし、歴史は繰り返すのか、1990年代の金融危機によって、日商岩井の経営状況は悪化し、同じく、経営状況が悪化していたニチメンと、2003年に合併(持ち株会社の設立)することとなった。

結構な波乱万丈な半生であるが、「粘り強さ」「逞しさ」を感じることができるであろう。

https://www.sojitz.com/jp/corporate/history/

3. 中期経営計画2020について

https://www.sojitz.com/jp/news/docs/2020.pdf

①4p:中期経営計画2017の成果

最初に、前の中期経営計画2017の復習をしているところが、優等生的で好感が持てる。

ここで押さえておくべきは、規模感である。当期純利益の目標が600億円以上であったところ、568億円と未達に終わったようだが、331億円からかなりの増益を達成できた。

ここで頭の片隅においておくべき数字は、1ランク上の丸紅の純利益の水準が2018/3月期で、2000億円を越えていたということだ。同じ総合商社といっても、五大商社とはかなりの差があることがうかがえるだろう。
(もちろん、面接等でこの話はする必要は無い。)

②5p:セグメント別当期純利益

こちらは、商社の面接において不可欠な、セグメント別の当期純利益である。
商社は、各社毎の事業ポートフォリオとビジネス・モデルが全然異なるのでここをきっちりと把握した上で臨まないと、的外れな発言をして、速攻落とされかねない。

ここでのキーワードは、「収益の塊」ということで、これはセグメント別当期純利益が50億円を越える本部のことのようだ。3年前はわずか1本部だったのが、5本部まで増えたという。要するに、収益の多様化に成功したというわけだ。

しかし、注意すべきは、稼ぎ頭の石炭・金属だ。当期は219億円というダントツの数字を達成しているが、3期前の2015/3月期は、27億円の赤字であった。資源・エネルギーは市況に左右されるので、この数字の増減は企業努力だけではいかんともしがたい。

他の「収益の塊」の4部門は、自動車、環境・産業インフラ、化学、リテール・生活産業である。これらに関心がある学生は、具体的なビジネスの内容を掘り下げてみよう。

③10p:中期経営計画2020の目標

こちらは、今年作成された中期経営計画の数値的な目標である。当期純利益は750億円以上と、前回と比べて20%以上の増益目標を明示している。これは投資家的には好ましい話である。

また、ROE10%というのは、他の商社と(というか大手日本企業)と大して変わらないが、前回の中期経営計画がROE8%以上という目標だったので、ハードルを上げてきていることに注目される。同様に、ROAを2%から3%超に、同様にハードルを上げてきていることも要注目である。経営者からすると、ROEを2%上げるというのは結構大変なことなのである。

なお、ROEとROAの関係については、把握しておいて欲しい。

ROE=ROA × 財務レバレッジ(自己資本比率の逆数)である。

「なんのこっちゃ?!」という学生は多いだろうが(実は社会人も結構財務は弱い人が多い)、双日も表面倍率100倍超の人気企業なので、こういうところはキッチリと理解しておきたい。わかっていないと、突っ込まれたら、即撃沈である。

あと、DER(Debt Equity Ratio)も合わせて復習しておこう。

④12p:安定的な収益の実現に向けた施策

文字ばかりでわかりにくいところであるが、「投融資からの確実な収益貢献」と
「赤字・低効率事業からの撤退・見直しの継続」の2項目について書かれている。

「投融資からの確実な収益貢献」というのは当たり前のことを書いているだけなのだが、「赤字・低効率事業からの撤退・見直しの継続」というのは興味深い。
何故なら、日本企業は赤字であっても切ることが苦手なので、そのままダラダラと放置することが多いからである。

この点、数値基準(何年連続赤字、ROA〇%以下等)の具体的な基準に言及されていないので、OB/OG訪問の際に聞いてみるのもいいだろう。

⑤14p:投融資からの収益貢献②

ここでは、頁の下半分に9事業部門の目標が掛かれているので、チェックしておくこと。

お金のかかる資源・エネルギー以外だと、自動車、航空産業・交通プロジェクト、リテール・生活産業、化学あたりが比較的金額が大きく気になるところである。1つの事業分野に過度に偏っていることはないので、比較的バランスが取れた事業ポートフォリオと言えるのではないだろうか?

4. 他社との比較、全体観

大手五社との最大の違いは何といっても規模感である。利益の水準は丸紅の三分の一以下である。もっともこれは言っても仕方がない。

全体観としては、頁数は26pと分量的には多めで、しかも、冒頭で前回の中期経営計画の復習から入っており、全体的に丁寧に作られた印象がある。また、結構な水準の(2割以上)の増益、ROE向上目標を明示しており、成長意欲の強さも確認できる。

しかし、数字は各事業部の寄せ集め的な感じがあり、三菱商事のような一体感や改革(人事制度改革、組織改革等)の迫力はあまり感じられない。

もっとも、この点は、合併した会社なので、その点は難しいのかも知れない。

まとめ

鈴木商店の地を引く、非常に歴史のある名門企業ではあるが、金融危機の影響を
受けており、大手五社と比べて、利益水準でも大きく見劣りするし、何よりも給与面等の待遇でも見劣りするのはつらい。

また、細かい話かも知れないが、新入社員向けの独身寮が常磐線沿線の不便なところ(流山)にあるのは、せっかく晴れて(総合)商社マンになれたし、それなりに最初からいい給料をもらえるのに、遊びに行けず不便である。

その点をもろもろ考えると、大手五社で切って、あとは、金融プロフェッショナルに賭けるというのもありである。

なお、双日になると、慶応、早稲田、東大、京大の人数がぐっと減るので、MARCH、関関同立に十分チャンスがあるようにも見えるが、それらの内定数は大手五社と変わらない。これは、新卒の採用人数自体が大手五社よりも小さいため、パイが小さく、上位校からも一定数行くので、その他校枠が小さくなってしまうからであろう。

もっとも、チャンスはあるので、挑戦する価値はあると思われる。

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