1. X Techには流行りがある ~HR Techに流行りの兆し~
ベンチャー企業は株価が命である。当初から多額の利益を上げるのは難しく、他方、成長していくためには、多額の資金が必要となるからである。
したがって、高い株価によってどれだけ多額の資金を早いうちに調達できるかが競争を勝ち抜く上でのカギとなる。
高い株価を付けるための条件としては、そもそも、当該分野が人気、流行ると思われることが必要である。
かつて、Ed Tech、Ad Tech、Health Tech、House Techなどがあったが今はあまり旬のテーマとは思えない。
他方、Fin Techは、仮想通貨部門がコインチェック事件やその後の市況低迷により、若干低迷しているものの、決済分野等を中心に今後盛り返していく可能性は十分にある。
また、Auto Techは自動運転の進展によって、これから注目度がますます高まる可能性はある。
そうした中、じわりと来そうなのがHR Techと呼ばれる領域の企業群である。
2. そもそもHRテックとは?
HRテックとは、主としてITの活用によって、採用、育成、評価、配置といった
人事領域の業務の質の向上を目的としたソリューションをいう。
従来から、給与計算等の人事の事務面についての効率化向上のためのITサービスは従来から存在しているが、HRテックは事務面ではなく、人材の質の向上という、より人事の本質面をサポートするところにフォーカスしているところが特徴である。
具体的にどういったHRテック関連の企業があるかであるが、HR Brain、カオナビ、あしたのチームなどが最近注目される。
新しい企業では無いかもしれないが、リンクアンドモチベーション、船井総合研究所などもこの分野に熱心である。また、ITテクノロジー企業としての側面は弱いが、コンサル的で新しいサービスプロバイダーとして、識学などが注目される。
3. 何故、「今」HRテックなのか?
第1に、クラウド型サービスの進捗・普及によって、初期投資に多額のコストを掛けることなく、SaaS方式でHRテックサービスを提供することが可能となったからである。これによって、中小企業のサービス利用が可能となったのだ。
第2に、持続的な好況の継続による採用難と人件費高騰の影響は、特に、中小企業やベンチャー企業にとっては深刻な問題である。そこで、採用や人材育成・評価の質の向上が重要な経営課題となってきたからである。
実際、あしたのチームは中小企業を対象として、売上を着実に向上させてきている。
第3に、働き方改革という長期トレンドの中、労働時間の長時間化は大企業も回避せざるを得ない雰囲気となってきており、効率的な対応を真剣に考えなければならなくなってきたからだ。
第4に、IT技術の進展によってビッグデータ分析能力が高まり、クラウドサービスの進展と相俟って、従来はできなかった人事データを将来の採用、育成、評価、配置の参考とすることが可能となってきたからである。
4. HRテック企業への追い風
HRテックは対象となる分野がヒト、人材ということから、他のX Techとは異なる独自の優位性がある。
①人事部門は十分な予算と権限を有する部門である
日本の伝統的大企業の場合、業種を問わず、人事部門というのは昔からエリート部門であり、十分な予算と権限を握っている場合が多い。したがって、このような新しいHR関連のサービスが登場してくると、部分的であるにせよ、導入を検討してもらえる現実性と予算を十分もっているからだ。
また、ベンチャー企業は人材が全ての業態であるので、否が応でも人事は採用、育成、評価まで重要事項である。予算は限られるのであろうが、効率化、改善させていというニーズは強い。
さらに、中小企業は昔から人材というのが悩みの種であり、少額から人事上の課題解決のためのサービスが提供されるのであれば、是非受けたいと思っているだろう。
②リッチな潜在的な買い手企業の存在
ベンチャー企業のEXITはIPOだけではなくなってきている。最近はM&AによるEXITが増えてきている。このため、いかにリッチな潜在的な買い手企業が存在するのかということが、当該ベンチャー企業の企業価値を左右することは多い。
人材領域の場合、リクルートを筆頭に、パソナグループ、Persolグループ(旧テンプスタッフ)、マイナビ、エン・ジャパン等高収益の企業が多い。
したがって、面白いサービスを提供できれば早い段階で購入してもらえるチャンスは十分にあるだろう。(もっとも、IPO以外のEXITの際のストック・オプション条項をチェックしておく必要があるが…)
③人事部門は人がやり始めると追随せざるを得ない
そもそも日本の大企業は、新卒一括採用、年功序列、慣行に基づく配属と出世、終身雇用、という流れなので、あまり、評価や配属を真剣に考えることはなかった。
しかし、他人と同じことをしたい日本人の気質からして、同業他社がやり始めると、自分たちだけが取り残されたくないので、同じことをやりたがる傾向が非常に強い。
360°評価、成果型報酬(それほど連動しないが)、PCへの入力による目標設定、自己評価、上司の評価という一連の評価プロセス、等、形骸化されているがどこの会社にも似たり寄ったりの制度が多く導入されているというのはよくある話なのだ。
今は中小企業あたりが導入を始めているが、今後大企業が部分的であるにせよ
HRテックを取り込むと、一気にブームになる可能性は高い。
5. 中途採用での対象企業の探し方
中途採用の場合は、転職エージェントを使うのが基本である。また、Wantedlyを使って自ら直接申し込むパターンもある。結局、HRテックは新しい領域で、ベンチャー企業が多いので、実際面接で足を運んでみて、その善し悪しを判断する他ない。
従って、リクルートやJAC、DODA、エン・ジャパンといった大手に登録し、「HRテック企業を希望」と明記すれば良い。また、Wantedlyは面白そうなところに気軽に申し込んでみればよい。
留意すべきはストック・オプションの内容である。特に、IPO以外でEXITすることになった際の取り扱いがどうなっているのか十分に確認する必要がある。