HRテックと外資系金融機関

1. HRテックとは何か?

HRテックとは、HRとテクノロジーを掛け合わせた造語で、IT技術の活用によって、採用活動、人材育成、評価、配属といった人事関連領域の業務を支援するシステム/サービスを言う。

2. 何故HRテックが注目されるか?

いつの時代も〇〇テックと呼ばれる、ある領域に関連したIT技術が注目される。

例えば、
エドテック(Edcuation+Technology)、
アドテック(Advertisement+Technology)、
フィンテック(Finance+Technology)、
などが既に知られている。

エドテックはあまり流行らなかったようだが、アドテックについては、フリークアウトやジーニーなど、それなりの評価をされてIPOに成功した銘柄があるし、フィンテックはまだまだこれから動きがあるだろう。

そうした中、HRテックに注目されるのには2つ理由がある。

1つ目の理由は、扱うテーマが企業にとって最重要な経営資源である「ヒト」であるだけに、会社としては注目せざるを得ないからだ。内心興味が無かったとしても、人材に興味がない会社と対外的に思われてはまずいので、経営的に何らかの注目・対応をせざるを得ないのである。

2つ目の理由は、主管部所が「人事部」であって、ある程度の予算と権力を持っているからである。したがって、ある特定のHRテックのサービスが流行ると、それを試してみるに足りる予算が付いている場合が多いのである。

アメリカでは、2010年頃から注目されており、既に数十億円規模の資金調達に
成功しているベンチャー企業は数多く存在するし、GlassDoorのようなユニコーン銘柄もいくつか登場している。

3. 外資系金融機関とHRテック

外資系金融機関は他の事業会社と違って、人事部門の地位は極めて低い。何故なら、採用も評価も全て各事業部門で決定されるため、人事部門はそれ以外のノンコアな給与計算や採用事務というアドミに関する業務しか担当させてもらえないからである。

とはいえ、金融機関は人が全てのサービス業であるし、金融機関の予算は大きいので、人事部門も相応の予算を持っている。

このため、多くの外資系金融機関では、グローバルに、Peoplesoft(IBM)、Workday、Cornerstoneといったベンダーの評価システムを昔から好んで使っている。

もちろん、実質的な評価は各部門ごとの対人的な日頃の業務評価で決まってしまうのだが、それらを入力・記録として残す必要があるため、目標設定、自己評価、上司の評価、数値的評価について上記のようなソフトに入力して使用しているのだ。

外資系金融機関の従業員からすると、いちいち、システムに入力して、上司とソフトを通じてコミュニケーションを取るのは面倒なので、このような一連の作業が効率化できればうれしいところである。

また、評価以外に、社員教育用にHRテックが活用される可能性がある。
例えば、ゴールドマン・サックスのIBDでは「Ask GS」というSiriのようなサービスが優れていて、ジュニアバンカーからの質問に対して的確な回答が返ってくるという。

日本の金融機関でも、野村證券はこのような新しいテクノロジーは好きだし、
グループ会社にNRIがあるので、このような社員教育用のITサービスを作って、他の証券会社にもNRIが販売をするようになるかも知れない。

4. 外資系金融機関の採用活動とHRテック

HRテックは、採用活動においても人事業務の事務面での効率化や、情報の一元化という面において機能すると言われている。

しかし、外資系金融機関の場合は、基本的に一人当たりの年収は高くWantedlyを利用するような採用形態は採っていない。大半は、Robert Walters、Michael Page、East &West Consulting、JACといった外資金融に強い転職エージェントや、ヘッドクラスの場合には、Russel Raynolds、Heidrick & Struggles、Korn FerryといったExecutive Serch Firmを使用することが大半である。

完全にアナログなコネクションや信頼関係に依拠した方法であり、まだまだHRテックの出番はなさそうである。

もっとも、国内系金融機関の一般職(エリア限定社員)採用のようの場合には、AIを駆使して効率化するという方法はあるかも知れない。

5. 外資系金融機関でHRテックが機能を発揮できる領域

外資系金融機関は労働コストに極めて敏感な業種である。経費に占める最大の項目が人件費であり、強い株主のプレッシャーの下収益動向に応じて、この部門を削ってやりくりすることが求められてくるからだ。

その意味で、職種でいうとオペレーションやITが人数が多いので、HRテックを駆使して効率化できないかというニーズが高い。また、業種でいうと、カストディアン、保険会社などは全体的にニーズはあるだろう。

もっとも、業務が効率化されるというのは、人材削減に結び付きかねないので、HRテックの進展は必ずしも従業員にとっては嬉しい話と限らないのが、外資系金融機関の厳しいところである。

当然、ヒト周りのビジネスを本業とする会社はHRテックに熱心である。リクルート、パーソル、パソナ、ビズリーチ、リンクアンドモチベーション、アトラエなどがそうである。

また、労務関連手続きを自動化してくれるクラウドソフトとして、SmartHRが浸透している。

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