1. 外資金融の世界で部門を超えた転職は難しい
外銀、バイサイドを含む外資金融の世界では、専門性、プロフェッショナル・スキルが重視されるので、部門を超えた転職は難しい。
例えば、ミドル・バックオフィス(オペレーション、経理、コンプライアンス等)から、フロント(IBD、トレーディング、セールス等)に転職することはまず不可能であろう。
これは、外資金融の中だけではなく、外資金融から国内系金融機関への転職でも部門を超える転職は、よほどの若手のポテンシャル採用を除けば、ほとんど不可能であろう。
2. そもそも何故部門を超えてまで転職を考える必要があるのか?
何故、専門スキルを変えてまで、他の部門に転職する必要があるのだろうか?
それは、外資金融の場合、部門、職種によって全く年収水準が異なるからである。
特に外銀の場合は、ミドル・バックとフロントの格差が激しく、2倍どころか数倍も年収レベルが違うことは珍しくない。
例えば、同じ新卒同期入社の30歳のVPの場合、オペレーションの年収が2000万円に対して、トレーディング部門の年収が5000万円というようなイメージである。
もっとも、これでも、リーマンショック以降はフロント部門の年収水準が低下したため、差は縮まったくらいである。
なお、同じ外資金融でも、バイサイド(運用会社)の場合には、ここまでも差は無い。
外銀の場合、ミドル・バックでも十分高収入だが、人間の幸福感は残念ながら他人との比較に影響されてしまうので、フロントの同僚のようになりたいと考えることがあるのである。
しかし、他社への転職によって、ミドル・バックからフロントに職種転換するのは極めて困難なのだ。
3. 社内異動によるミドル・バックからフロントへのキャリアチェンジ
そこで、期待されるのが社内異動によるミドル・バックからフロントへのキャリアチェンジだ。
外銀の場合、性格やパフォーマンスが知っている社員を社内異動させる方が、他社から費用をかけて採用するよりは、合理的であるという考えが昔からあり、社内異動のチャンスは確かにある。
一般的に、外資金融における社内異動のチャンスは、国内系における社内異動よりも大きい。
何故なら、東京拠点の場合、社員数・組織規模が相対的に小さく、フロント側のMDとミドル・バック側のMDが合意すれば基本OKなので、シンプルだ。
また、外資金融の場合、国内系金融機関と違って人事部門に権力が無い。
従って、双方さえ合意すれば他に邪魔する人はいないのだ。
4. 外資金融の社内異動の難易度は?
とはいえ、外資金融においても、ミドル・バックからフロントへの社内異動はそれ程簡単ではない。
一般的な転職と同様であるが、年齢が上がるに連れ、また、タイトルが上がるに連れ、社内異動のハードルは高くなる。
外資金融のフロントは収益責任が厳しいので、稼げる人じゃないとお荷物になってしまうからだ。
従って、ミドル・バックの中でも、VP未満の若手(アナリスト・アソシエイト)レベルで、かつ、優秀・高評価でなければならない。
また、優秀・高評価というのがポイントで、要するに、フロント側の社員(VP、Director、MD、或いは若手)から好かれる、「一緒に働きたい」と思ってもらえることが重要である。
このため、ミドル・バックからフロントに社内異動を真剣に希望する場合には、若いうちから、公式、非公式にフロント部門の同僚やその上司と良好な関係を作っておくことが必要だ。
外銀の中でも、ゴールドマン・サックス証券は、社内異動に前向きなところがあり、ミドル・バックからフロントへの実例はある。
5. 逆に、フロントからミドル・バックへの社内異動はあるのか?
何でわざわざ、フロントからミドル・バックに?、と思われるかもしれない。特に外銀の場合には、年収や社内ステータス的に、フロント>ミドル・バックという認識があるからだ。
しかし、この手の社内異動はちょくちょく見られる。
というのは、出産や結婚といったライフイベントを機に、ワークロードを落とそうという女性社員のニーズがコンスタントにあるからだ。
外資金融女性の場合、大抵、旦那も高収入の場合が多く(じゃないと釣り合わないから)、ミドル・バックでも一般的には十分な高収入なので年収がダウンしてもワークライフバランスを向上できればOKなのだ。
このため、IBDやセールスから、オペレーションや人事・経理・コンプライアンスに社内異動を希望するケースはある。
もっとも、この異動はフリーパスであるとは考えてはいけない。ミドル・バック⇒フロントよりは難しくないかも知れないが、受け入れ側であるミドル・バックの人達からの評判が良くないと到底受け入れられないので、ミドル・バック⇒フロントの異動と同様に常日頃から良好な人間関係を築いておく必要がある。
6. 新卒でフロントは落ちたがミドル・バックから内定をもらった場合、将来の社内異動を前提に入社することは賢明か?
外銀の場合、部門別採用であり、併願も可能である。
従って、フロントは落ちたが、ミドル・バックでは内定をもらえたというケースはある。
こういった場合、将来のフロントへの社内異動を狙って、一旦ミドル・バックに入社するというのはアリだろうか?
それは、将来フロント部門に行きたいという気持ちの強さによる。
もし社内異動できなければ、ミドル・バックでもいいやという気持ちであればそれはアリだろう。
他方、どうしてもフロント部門に行けないと嫌だという気持ちが強いのであれば、国内系金融機関の専門職コースに行くべきであろう。
もちろん、国内系金融機関の専門職コースは難関なので、それも落ちてしまった場合は、中途採用で、国内系金融機関のフロント部門にバイサイドを含めて再挑戦することになるだろう。
結局、社内異動が認められるかどうかは、フロント部門の幹部から好かれるかどうかなので、そこは保証の限りではない。
したがって、社内異動の可能性は「うまく行けば儲けもの」的な気持ちでいないと厳しいかも知れない。
まとめ
外銀の場合、社内異動によって、フロント部門に転身できる可能性はある。
しかし、それは保証されたものでは無いので、社内異動を前提としたキャリアプランは建てない方が賢明である。
金融プロフェッショナル職は、外資国内と問わず、転換が難しいので、フロントに対する強い希望があるのなら、新卒段階でなるべくフロントに入社できるよう対応をしておきたい。