序. 伊藤忠がNo.1かと思いきや、資源価格高騰で、あっさり三菱商事が逆転
伊藤忠が株価時価総額で遂に三菱商事を上回り、メディア等から持ち上げられ、就活生の間でも伊藤忠の人気や評価が高まった。しかし、最近の資源価格の高騰によって、あっさりと三菱商事が時価総額首位の座を伊藤忠から奪還した。
5大商社の場合、事業ポートフォリオの構成に結構な違いがあり、資源が収益のメインである三菱商事、三井物産と、相対的に資源ビジネスの比率の低い伊藤忠や丸紅とでは、儲かるタイミングが異なる。
このため、目先の株価時価総額や利益水準だけで、商社のランキングを考えるわけにはいかない。この記事では、比較的長いスパンで、総合商社の序列について考えたい。
1. 総合商社の序列
ここ数年伊藤忠が飛躍した時期を除くと、今も昔もこのような序列になっているのではないだろうか?
別格、No.1 | 三菱商事 |
財閥系 | 三井物産、住友商事 |
5大商社 | 伊藤忠、丸紅 |
旧六大商社 | 双日 |
総合商社 | 豊田通商 |
①三菱商事
三菱商事はNo.1というか、別格扱いで、ここは総合商社の中でも特別な存在となっている。昔は、三井物産との差はそれほど大きくは無く、MMということで、商社と言えば、この2社と思われていた時期もあった。しかし、今では、三井物産に差を付けて、圧倒的なNo.1と言えるのではないだろうか?
その理由としては、外銀・MBBの内定持ちの学生は、そのプライドからNo.1を選ぶということで、特に三菱商事に対する拘りが強いようである。三菱商事もトップの学生を採用したいという意図があるので、外銀・MBBの内定持ちには特別ルートが用意されていると言われているが、こういった学生が就活戦線に加わることによって、難化しているのだという。
また、株価時価総額や営業利益という数値面においても、基本的にNo.1であるので、納得できる。
②財閥系
三菱商事の次はと言うと、「財閥系」という切り口から、三井物産と住友商事が2番手グループだという。
三井物産は、上述の通り、三菱商事との差が開いてしまったことは残念だが、更に今では、伊藤忠商事が株価や業績で奮闘し、株価時価総額については今でも伊藤忠に抜かれたままだ(2021年10月15日現在)。このため、三井物産を揶揄して、「さんい(3位)物産」という呼び方もされたりするそうだ。とは言え、歴史的に商社というと。商事と物産のMMの時代は長く、三菱商事に次ぐ2番手は三井物産ではないだろうか?
東大、一橋の学生も、「財閥系」の総合商社から内定をもらえれば「あいつ、よくやったな」と思ってもらえるそうである。
③住友商事VS伊藤忠の問題
なお、財閥系>伊藤忠については異論もある。
それは、売上高、営業利益、株価時価総額という定量的な面において、伊藤忠が住友商事に圧勝している事実があるからだ。株価時価総額については、住友商事は伊藤忠の半分にも満たない。
さらに、伊藤忠は商社の中でも例外的に、B to C、消費者ビジネスにも強く、また、伝統的に中国に強いという特色もある。
このため、今の学生の間では、伊藤忠の方が住友商事よりも上だという考えの人も少なくないという。この点、歴史や待遇面を踏まえると、それでも、住友商事の方が上だと私自身は思っていたが、さすがにこれだけ数値的に大きく劣後する期間が継続すると、そうは言えなくなるなあと思い始めている。この両者については、好きな方を選べば良いだろう。
住友商事VS伊藤忠に興味がある方は、以下のブログ記事をご参照ください。ただ、業績と株価でこれほどの差が継続すれば、現状では、さすがに財閥系であることだけを理由に、住友商事>伊藤忠とはもはや言えなくなってきた。この記事もリライトするタイミングだろう。
<住友商事と伊藤忠>
https://career21.jp/2019-10-28-081737/
④5大商社
3番手グループは、財閥系に、伊藤忠と丸紅を加えた5大商社である。
総合商社の中で、双日、豊田通商を除いたのが5大商社とも言える。
この5大商社という括りに異論を唱える者は無いだろう。何故なら、5大商社は双日、豊田通商よりも明らかに待遇が良いからだ。年収面においては、2~3割位の違いがあるのではないだろうか?
また、年収以外にステータス的な差も否定できない。
例えば、双日は旧日商岩井と旧ニチメンの2つの旧総合商社が合併した会社であるため、企業ブランドの歴史は5大商社に劣る。また、豊田通商は、かつては専門商社としての歴史が長かった。
ただ、最近、特にコロナ以降は、総合商社は全般的に難化しており、5大商社は特に内定を取るのが難しくなっているようだ。従って、東大や早慶のかなりのハイスペックな学生でも5大商社に入るのは大変で、5大商社の序列を気にする余裕は無く、とりあえず5大商社に内定できればOKなのではないだろうか?
そういうわけで、5大商社全体としてのステータスは上がっているように感じられる。
⑤双日と豊田通商
5大商社ではないが、総合商社というカテゴリーに分類されるのが、双日と豊田通商である。この両者の序列については、給与・待遇面における大きな差は無く、伝統的に、鈴木商店⇒日商岩井の流れを汲む、双日が豊田通商よりも優位であった。採用実績校を見ても、東大に限らず、京大や一橋からも双日に入社する人達は毎年いるが、豊田通商についてはそうではなかった。
豊田通商は専門商社としての歴史が長く、また、名古屋色・親会社のトヨタ色が強いことが、トップ就活生からの人気があまり高くない要因であった。
ところが、この点についても変化が生じてきているようだ。
豊田通商は業績・株価的に好調で、双日どころか、5大商社の丸紅まで射程圏となっている。また、それに応じて年収水準もじわりと増えて、丸紅との差を詰めている。
採用については、歴史的に専門商社であった期間が長く、5大商社の様なスペック重視ではなかった面がある。このため、早慶の英語堪能で体育会幹部をしている学生が、豊田通商の夏のインターンを落ちたという話を何件も聞いた。もっとも、22卒の内定者においては、内定者の2割位が東京一工の学生が占めるようになったという。豊田通商も、総合商社全体の難化、そして、その中でも豊田通商の業績向上を踏まえて、採用基準を変え始めたのかも知れない。
いずれにせよ、23卒以降の豊田通商志望者は、この点も踏まえて、十分な対策を取らないと内定は難しいのではないかと思われる。
2. 就職後、総合商社の序列に意味はあるか?
結論的には、就職後は、5大商社の中ではそれほど大きな差は無いはずだ。
少なくとも、就活生の視点から見た違いよりは、その差は小さいと言えるだろう。
他方、5大商社とそれ以外の総合商社(要するに双日、豊田通商)との間には、年収面において大きな違いがあるし、ネームバリューにも違いがあるだろう。
先ずは、5大商社について、どういった違いがあるか見て行きたい。
①5大商社における年収の違い
三菱商事の場合、初年度400万円スタートで、2年目には600~700万円、3年目には800万円を超え、5年目以内には1000万円に到達する。
30歳では1300~1500万円はあるだろう。そして、入社10年目のマネージャー昇格時点では1600~1800万円となり、最速で40歳位で到達できるグループ・リーダーに昇格すると、2000万円程度になり確定申告の対象となってくる。
その上の部長に昇格できるのは同期入社の2割(?)もいないのだろうが、早いと47歳位で昇格し、年収は2500万円を超える。
国内系企業では最高水準であり、東京海上日動、日本生命、野村證券といったトップ金融機関や、電通・キー局あたりと比較しても、若い時(20代)の昇給ペースが速いのが特徴である。
しかし、30歳を過ぎたころから、年収の伸びは緩やかになり、とにかく2000万円までの道のりは長い。
外銀だと早ければ20代後半で3000万円に到達するので、アップサイドは意外と限定的である。
就活生の視点だと、三菱商事の評価・人気がダントツだろうが、実は年収面においては2番手グループ(「財閥系」のカテゴリー)の三井物産や住友商事とそれ程違いは無い。(反対に、業界順位の割に、昔から給与が良いと言われるのが住友商事であり、残業代やボーナスで左右されるのだろうが、27-28歳で年収1200万円位の社員もいる。)
そして、三井物産も住友商事も30代で伸びが鈍化するのは共通で、2000万円は遠く、40歳を待たなければならない。
伊藤忠・丸紅も似たり寄ったりだが、丸紅は5大商社の中では他社より若干年収は低いようだ。
もっとも、商社の場合、海外赴任をすると年収は約1.5倍~に跳ね上がる世界なので、5大商社の中の格差よりも、駐在か否かの違いが大きかったりもする。
以上より、5大商社間の年収は就活生が気にする業界順位ほどの差は無いと言えるだろう。
もっとも、今後業績の格差が拡大して行くと、徐々に年収格差は拡大していく可能性はあるだろう。
なお、この年収水準は2020~2021年頃のイメージなのだが、最近の資源高と5大商社の好業績によって、直近(2023年3月時点)では変化している模様である。例えば、財閥系とか伊藤忠の場合、30代後半で2千万、40歳では2300万位という話もあるようだ。この傾向はどれくらい継続するのか、しばらく要注目である。
②ビジネスクラスに乗れるかどうか
海外出張が多い商社マンにとっては、ビジネスクラスに乗れるかどうかは気になるところである。
北米や欧州はどこも当然ビジネスクラスであろうが、アジア路線だと会社によって違いはあるようだ。
この点、財閥系はどこでもビジネスクラスが使えるという話もあるが、それは、景気動向、収益動向、事業部門の違い、部長の方針等によって異なるところがあるはずなので、過度に気にする必要は無いかも知れない。
外銀もリーマンショック前は全てビジネスクラスが当たり前であったが、今では、収益状況、上司の方針等によって異なっているようだ。
③転職力
中途採用の場合、特にポジションがシニアになればなるほど、会社のネームバリューよりも、職種・経験・現職のタイトルが重要になってくる。
特に、商社以外の業界に転職を考える場合、他業界は商社間の業界の序列はあまり気にならないので、なおさら5大商社間の序列は転職力に影響しないはずだ。
もっとも、5大商社間の転職力の差を考えるよりも重要なことは、総合商社の場合は、どこも転職力はあまり強くないということだ。
たとえ、東大⇒三菱商事、GL、年収2000万円、42歳であっても、外銀・MBBはおろか、国内系金融機関さえも採用はしてくれない。
だからといって、起業・独立するようなスキルが付くわけでもない。
そう言うと、「三菱商事からゴールドマン・サックスに行ったり、カーライルのようなPEファンドで活躍している人は結構いるじゃないですか!」という反論があるかも知れない。確かに、そういう人達もいるが、履歴をよく見るとトップMBA校経由であることが多い。トップMBAに入学すると、それまでに業務経験が無くてもキャリアをリセットできるため、未経験で外銀、アセマネ、HF、MBB、GAFAMの様なテック系企業に就職することが可能である。従って、商社の職歴だけで外銀やトップティアのPEファンドに転職できるわけではないことには留意が必要だ。
商社で転職力、市場価値を高めることを考えるならば、関係会社に出向して役員となり、プロ経営者の途を目指す等、長期的な視点で考えるべきであろう。商社は就職偏差値が高いから、商社で業務経験を数年積めば若くして高給で転職できるということは無い。若くして、転職による年収アップを図りたいのであれば、国内系IBDや市場部門等の金融専門職や総合コンサルでトップを目指した方がいいだろう。
この点が、総合商社共通の課題だと思われる。
まとめ
5大商社には序列の様なものはあるが、就職後は、就活時に気にしていたほどの違いはない。
転職価値・市場価値は、会社名や業界内ランキングよりも、業務経験・スキルが重要なので、長期的にどういうキャリアを歩んでいくかの方が重要となる。
また、外銀やMBBに行って更なるアップサイドを取りたいのなら、私費MBAも視野に入れて貯金や準備をした方が良い。
そして、年功序列やスキルが付きにくいということは就活時点でわかっているはずなので、せっかく商社に入社したのに勝算も無くベンチャーに転職するというのは非常に勿体ない。
5大商社でどこを選択するかということは、商社の場合も配属ガチャがあるので難しいところもあるが、入社後のキャリアも踏まえた上で決定したい。
ただ、5大商社はコロナ後、非常に難化しているので、就活段階では序列とかを気にしている余裕は無いかも知れない。
また、5大商社の難化に伴い、双日や豊田通商も非常に難しくなっているので、十分な準備が必要だ。特に、豊田通商は採用基準が過渡期にある可能性もあるので、直近内定したOBからしっかりとした情報収集をしたい。