日本生命の年収、就活、キャリア、転職。将来も高給を維持できるか?

1. 日本生命保険相互会社の新卒採用

①新卒採用には5種類の形態がある

日本生命の新卒の採用形態は5種類ある。

総合職、営業総合職、エリア総合職、エリア業務職、法人職域FCである。

https://www.nissay-saiyo.com/data/

総合職というのは昔からある総合職で、例えば、東大、早慶の学生が受けるとすると、この総合職がメインであると思われる。

エリア総合職というのは、いわゆる主として女性を対象とした一般職であり、そのうち営業業務を含むフロント業務を全般にカバーする職掌である。

エリア業務職というのは、いわゆる主として女性を対象とした一般職であり、エリア総合職とは異なり、主としてバックオフィス的な業務に従事する職掌である。

営業総合職とは、営業職員のマネジメント業務を行う職掌である。

法人職域FC(ファイナンシャルコーディネーター)とは、法人・職域マーケットに特化したエリア限定の営業専門職である。

ここでは、このうち総合職に絞って考察したい。

②総合職の募集状況

総合職の募集人数は約150名程度であり、ここしばらく、安定的に150名前後で推移してきた。直近3年で見ると、2020年は184名、2019年入社は167名、2018年入社は158名とやや採用者数は増加傾向にある。

総合職は、一部「スペシャリスト」という枠で、アクチュアリー、資産運用、IT戦略の3分野について、最初から業務内容が約束された専門職枠を設けている。

2. 日本生命保険相互会社の年収について

①新入社員、副主任、課長補佐の年収

日本生命の初任給は、学部卒の場合、211,000円である。これに残業代とボーナスを加えて、1年目は大体400万円程度である。ここでは他の金融機関と大差はない。

2年目になると「副主任」というタイトルに事実上全員自動昇格できる。すると給与水準が少し上がり、550万円程度になる。

そして、5年目まで少しずつ上がり続け、5年目、副主任の最終年には年俸は約650~700万円になる。

6年目になると「課長補佐」にほぼ全員昇格でき、給与水準がグッと上がり、950万円くらいになる。現役、ストレートで入社した者は、20代のうちに約1000万円に到達できる。

もっとも、ここから先は長く、ワンランク上の課長になれるのは最速でも8年後の14年目になる。

しかし、それまでじわじわと年収は上がり続け、入社13年目の30代半ば(課長補佐)で、1200万円になる。

②課長の年収

最速で14年目、通常は30代後半くらいに課長に昇格できる。他の金融機関と同様、課長に昇格できる年次は人によって異なり、普通は30代後半くらいであろうか。

課長になると、年収レンジは1400~1700万円程度である。そのワンランク上の部長になるのは難しく、課長で定年を迎える総合職社員は少なくない。

イメージ的には、40代で1600~1700万円位であろうか。

③部長の年収

順調に出世できると、40代半ばで部長に昇格できる。部長になると年収2000万円を超えてくる。

もっとも、昔は、日本生命の部長というと大したもので、年収2500万円位はあったのだが、メガバンク同様、このクラスは少し減らされたようだ。

以上のように、日本生命の年収水準は国内系企業の中ではトップクラスであり、メガバンクや東京海上以外の大手損保を若干上回ると思われる。

クビとかリストラをやらない会社・業界なので、リスクという点を勘案するとかなり魅力的である。

3. 日本生命保険におけるキャリア上の留意点

①そもそも非上場会社である

同じ金融機関の大手であるメガバンク、大手損保、野村證券、大和証券との相違点は、日本生命は相互会社であり株式会社では無いことである。

したがって、上場していない。

このため、株主によるチェック機能が働かず、経営者による会社経営が緩くなりがちというリスクがある。

②国内市場の縮小が危惧される

これは国内系金融機関や規制業種にも該当する問題点なのであるが、少子高齢化によって市場が縮小していくことが予想される。

生命保険会社の場合、海外で稼ぐのはローカル毎の規制や商慣行があるため難しく、だからといって安易なM&Aに走ると大きな特損要因となるリスクがある。

この点、以下のリンク先の中期経営計画にあるように、グループ事業の強化、資産運用能力の強化、DX対応等を戦略として打ち出しているが、それらによってどれくらい既存事業をカバーできるようになるかは不透明である。

20年後には生保業界が無くなるということはないだろうが、給与水準が今より下がるリスクがあることは想定した方がいいかも知れない。

<日本生命の中期経営蹴格>

https://www.nissay.co.jp/news/2020/pdf/20210319b.pdf

③転職スキルが身に付かない

これは、メガバンクや東京海上日動火災にも言えることだが、生命保険会社に長年いても、転職スキルは身に付きにくい。

<東京海上日動火災の年収、キャリア等について>

https://career21.jp/2019-03-22-064501/

生保の場合は損保と違って、アフラック、プルデンシャル、アクサ、NNグループ、メットライフ、マスミューチュアルなど結構の数の外資系生保はあるが、転職しても年収を維持することは難しい。外資系生保の場合であれば、マネージャー職で1000-1200万円、部長職で1500-1800万円程度なので、リスク等を勘案するとあまり妙味が無い。

他方、マーケット関連部門にいたとしても競争力は高くなく、外銀や外資系運用会社に中途で転職することは難しい。この点、本気で外資系運用会社に転職することを考えるのであれば、子会社であるニッセイAMに移った方がいいだろう。ニッセイAMにおいて営業や運用のキャリアを積んで英語対応が出来れば、外資系運用会社に転職して年収数千万円を実現することは十分可能であろう。ただ、ニッセイAMに異動の希望を出してもそれが実現できるかどうかは保証の限りではない。

もちろん、ベンチャー系や事業会社に転職することも難しい。

このように、転職する必要は無いかも知れないが、将来年俸水準が下がったり昇格できなかった場合に、年収を維持する形で転職するのは難しい。

4. 日本生命保険相互会社に総合職で新卒入社すること

少子高齢化による国内経済の縮小とそれに伴う収益の悪化は、日本生命に限った話ではない。

これを過剰に気にしても仕方が無いので、終身雇用をベースに安定的に高収入を得たいという学生には、まだまだ悪くない選択肢かも知れない。

基本的に定年まで働ける会社だし、給与の面でもメガバンクよりいいので、メガバンクよりもおススメなのではないだろうか?

もっとも、将来に備えて、何らかの対応策を各自で考えておくべきだろう。

直接業務で必要なくてもいざとなれば外資も狙えるように英語力を磨いておくとか、副業緩和の動きを見据えて個人でのネットビジネスを勉強するというのある。

なお、例外的に転職力があるとすれば、子会社のニッセイアセット・マネジメントで運用関連の職に就くことである。

日本生命本体よりも、運用会社であるニッセイアセット・マネジメントの方が外資系運用会社に対する転職力は高い。

実際、外資系運用業界において、ニッセイアセット・マネジメント出身者は少なからず存在する。

今は昔と違って、スぺシャリストコースで「資産運用」を別採用してくれるので、東大や早慶等のトップ校の学生は、こちらを狙って見るのも手であろう。

5. 日本生命への転職と転職エージェント選びについて

上記は主として新卒についての話であるが、中途採用で日本生命に入社することも可能である。その場合には、HPの採用情報から直接応募をするよりも、転職エージェント経由で応募をする方が得策である。何故なら、転職エージェントの場合には、日本生命の採用状況、採用ポイント、採用責任者の好みといった情報を教えてくれる場合があるし、年収などの条件交渉もやってくれて便利だからである。そもそも、ネット経由の直接応募だと、自分の職務経歴書が読まれたかどうかすら不明である。

転職エージェントについては、国内系の大手に一通り登録するのが良い。面倒であるが、転職エージェントによって得意な会社とそうでない会社とがあるので、広く網を張っておきたいからである。具体的には、リクルート、doda、エン・ジャパン、パソナキャリア、JACといったところである。転職をしようと決めた場合には、こういった大手はすぐに登録するかも知れないが、意外に大手なのに知られていないのがJACである。就活での存在感が薄いからかも知れないが、金融や外資にも強い大手なので、他と合わせて登録しておきたい。登録はこちら(JACの公式サイト)

※2021年8月2日追記

2020年の初頭にコロナウイルスの問題が発生し、世界経済に極めて大きな影響を及ぼしている。日本では2021年8月時点において、何時コロナが収束するのかについてはまだまだ見通しが立っていない。金融やテクノロジー系の企業については業績は全般に良好かも知れないが、今後の景気回復や全般的な労働市場の回復の見込みはまだまだ不透明であろう。

23卒以降の新卒採用動向についても現時点では不透明感があり、全体的な採用枠の削減が危惧されている。東大や早慶の上位層からすると、日本生命は内定を取るのがそれ程難しいとはされていなかったと思われる。

しかし、従来から難しかったスペシャリストコースは超難関化することが予想されると同時に、現在150人程度の採用枠の総合職も難化する可能性がある。

以下の19/3卒の、大手生保の出身校を見ても、日本生命が頭一つ出ていることが何となくうかがえるであろう。(もっとも、このリストは総合職だけではなくエリア職も含んだ数字であるので、私立大学には総合職以外も含まれていると思われるので評価が難しいが。)

東大

京大 一橋 慶應 早稲田 明治

日本生命

16 12 13 31 35 20
第一生命 5 3 1 25 30

22

明治安田 7 6 1 25 25

25

(出所:AERA 2019.8.5号 「主要50大学の人気企業への就職者数」を基に外資系金融キャリア研究所作成)

したがって、23卒以降については、日本生命への併願を考える場合には、十分なOB訪問をしたり面接対策をする等、従来以上に慎重な対応が必要になるだろう。

なお、日本生命を含む生命保険の運用職コースの難易度は非常に高く、東大経済学部生が5次面接、6次面接と何度も面接を受けさせられたという話も聞いた。そうであれば、運用職、要するに将来のファンドマネージャーを目指すのであれば国内系の資産運用会社(アセマネ)を狙った方がよいという考え方もある。もちろん、国内系アセマネの運用職も枠が少なく非常に難関であることは同じだが、アセマネの場合、最初が営業職その他であっても、途中で運用部門への異動も可能である。したがって、運用職に拘るのであれば日本生命や東京海上日動火災の運用職だけでなく、国内アセマネも広く視野にいれてはどうだろうか。

また、高い年収水準が日本生命の大きな魅力であるが、現在の40代の課長クラスがもらっている金額(1600-1700万円)というのも10年後、20年後どうなっているかはわからない。生命保険業界の場合、少子高齢化に伴う国内市場の縮小は不可避だからである。損保業界トップの東京海上日動火災は、この点を踏まえて、海外事業や新規事業の開拓に熱心であり、特に海外事業の拡大には成功している。しかし、日本生命においては海外展開はまだまだ遅れている。他方、兼業・副業については緩和の方向にある。このため、ネットビジネスでも何でもいいが、長期的な視点で副業でも稼げるスキルを磨くとか、或いは、私費MBA留学によるキャリアチェンジ等、いろいろな方策を入社後も考えた方がいいだろう。

6. 日本生命の場合、将来も高給を維持できるか?(2021年10月8日追記)

日本生命で転職スキルを磨いてアップサイドを狙うということは難しい。他方、終身雇用を前提として、40代の課長で1600~1700万円の安定した生活を送ることは悪くない。

しかし、微妙に日本生命の給与水準も下がって来ているようで、今から新卒で入社をしても将来そのレベルの生活を送れるかはわからない。

そこで、今後、日本生命に新卒で入社をすることが得策なのか、検討することとした。

①少子高齢化とネット取引のシェア増大による収益の減少

10年、20年というスパンで見た場合、日本の少子高齢化の傾向が変化するとは思えない。
そうなると、国内生命保険ビジネスの市場が縮小することは不可避である。

さらに、DX強化というとポジティブな響きはあるが、それは生命保険ビジネスのオンライン化も意味し、生命保険も株式取引同様、ネット経由の取引シェアが高まるとフィーは減少していくこととなる。

そうなると、国内生命保険ビジネスで稼ぐことは難しく、日本生命等の収益は減少していくことが予想される。

②海外や新規事業で稼ぐことができるか?

将来、国内生命保険ビジネスで稼ぐことが難しくなれば、海外で稼ぐか、新規事業で稼ぐ他無い。このため、東京海上日動火災は海外事業や新規事業を主たる経営目標としており、海外事業の貢献度を高めてきている。

ところが、日本生命の中期経営計画を見ると、以下の3点がグループ成長戦略として掲げられている。
①国内保険市場の深耕
②グループ事業の強化・多角化
③運用力強化・事業費効率化
ここに海外事業とか新規事業というのは見当たらず、②のグループ事業の強化・多角化の中で若干触れられているだけであり、海外事業の具体的な数値目標も見られない。

また、①の国内保険市場の深耕というのは、Web販売を中心とした「はなさく生命」や少額短期保険会社による新規事業開拓等であるが、ネット取引や小規模取引が収益に貢献できるとは考えにくい。

そして、日本生命の場合、上述した通り、非上場の相互会社であり株主からのプレッシャーは弱く、新たな収益源開拓のための経営陣の奮闘はあまり期待できないのではないか。

このように考えると、10年、20年後、収益面で日本生命が現状のレベルを維持するのは難しいのではないだろうか。

③ある程度の年収ダウンを見込むべきか?

日本企業で、特に非上場となると、企業の収益が多少減少しても、給与水準はそれ程影響を受けないかも知れない。しかし、収益が2割、3割下がると、給与水準も下げざるを得ないだろう。

もっとも、10年後、20年後も生命保険の市場は無くならないし、日本生命は既に膨大な資産があるので問題ないだろうという意見もある。

従って、大幅に年収水準が下がることは無いかも知れないが、1割とか2割といったレベルでの年収ダウンは想定しておいた方がいいかも知れない。

そうなると、40代課長の年収水準が1200~1300万円ということになってしまう。

④将来は社員間の年収格差が拡大するか?

日本生命の収益が長期的に減少する点については同じだが、給与水準の変化については異なる見方をする人もいる。

それは、10年後、20年後は社員間の給与格差が拡大するため、一部の社員は課長にすらなれず年収1000万円止まりになる反面、一部のエリート社員は年収2000万円以上もらえるという見方である。

確かに、高度なスキルを有するITや資産運用のスペシャリスト、または、出世ルートに乗ったエリート社員は、他の社員よりも多くの給料を払わないと転職されてしまうからである。

金融機関では、三菱UFJ銀行が新卒でも特殊なスキルがあれば一般社員よりも高額な初任給をもらえるという制度を設けている。

今後の方向性としては、社員間格差が拡がり、頑張れば年収は今の水準より高くなるかも知れない。

もっとも、そういった社員は多くても同期の1割か2割なので、一般的には給与水準の低下を想定した方がいいという点では同じである。

⑤新卒で日本生命に就職することはお勧めできないか?

以上、悲観的な見通しを書いたのだが、結論的には、新卒で日本生命に就職することは必ずしも悪い選択とは思わない。

何故か?
それは、他の日本企業も同様だからだ。
金融機関の場合、メガバンクも大手証券会社も海外で稼ぎまくれるような国際競争力は無く、メインの国内市場が縮小すると非常に厳しい。

金融機関に限らず、内需型の流通、外食、運輸等のサービス業も少子高齢化の影響を大きく受ける。

海外売上比率が高いメーカーの場合は、国際競争に晒され、また、プロダクト自体が技術の進歩によって陳腐化してしまう可能性もある。

結局、生命保険が将来厳しいからと言って、他に良い業界はなかなか見当たらない。IT業界は将来も安泰化も知れないが、給与水準的に大きな差があり、給与水準において日本生命が逆転されるとは思えない。

また、日本生命は生命保険業界の中では圧倒的にトップの位置にある。従って、第一生命、明治安田生命、住友生命と比較しても、相対的に影響は受けにくいのではないか?

さらに、少子高齢化による市場縮小の影響は回避するのは難しくても、すぐに影響が生じるわけではない。従って、将来に備えて、スキルや副業を磨く時間的余裕はある(副業も将来は緩和されるのではないか?)。

このため、現在でもファーストキャリアとして日本生命を選択する理由は十分あるだろう。ただ、将来の1~2割の年収水準低下に備えて、それを補うようなスキルは磨いておきたい。

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