外資系金融機関(外銀、バイサイド)の貯金額について考えてみた。

1. 外銀の高い年収ばかりが強調されがちだが…

外資系金融と言うと、30歳で年収5000万円、MDになると年収1億円以上と、外銀の中でもフロント部門(トレーディング、セールス、IBD等)の高い年収ばかりが注目されがちだ。

確かに、外銀の年収が相対的に高いことは間違いないが、以下の理由から年収だけではなく、「貯金額」も極めて重要なのである。

しかし、この「貯金額」についてはあまり注目されていない。

①国内系大手企業のように60歳定年ではない

外資系金融機関の就業規則における定年は、国内系企業同様に60歳というところが多い。しかし、事実上はそういうことは全くなく、45歳定年制とも言われるように、40代半ばを過ぎて外銀のフロント職で働ける人はわずかだ。

リーマンショック前の話であるが、某米国系大手の外銀の場合、そもそも、全従業員1000人中、40歳以上の社員は110人しかいなかった。(バックもフロントも合わせて)

従って、高給をもらえるのはせいぜい40代半ば位までと考えた方が無難だ。このため、年収が大きく減少或いはリタイアするまでに相応の貯金をしておくことが重要なのだ。

②累進税率と「経費」を使えないサラリーマンであること

外資系金融機関の場合、年収は高くとも、MDであってもサラリーマンである。

従って、中小企業経営者のように、「経費」を活用できないので、累進税制に伴う高い税率が掛かってくる。

例えば、年収が3000万円の場合、所得税・住民税・社会保険を控除した後の手取り額は額面の約6割の1800万円である。

年収5000万円の場合だと、手取り額は6割を切り、約2800万円弱。

年収1億円だと、手取りは半分を若干切ってしまい、5000万円を若干下回ってしまう。

この手取りの中から、将来に向けて貯金をしていかないと行けないので、大変である。

2. 外銀の人は、どの程度、貯金に回せばいいだろうか?

①ファイナンシャル・プランナー(FP)的には年収の2割を貯金せよというが…

年収の内、どの程度を貯金に振り向けるべきかについては、一義的に決まるわけではないが、おおよその目安として、ファイナンシャル・プランナー的には、年収(手取りではなく額面)の2割位が望ましいという。

例えば、年収3000万円だと、500~600万円、年収5000万円だと、1000万円、年収1億円だと、2000万円位である。

手取りで見ると、33%~40%位を貯蓄に回せということなので、高収入とは言え、結構キツイ話である。

②実際に貯金に回せる金額は、個人差があるが…

外資系金融、特に高収入なフロント職の人は、お金が増えれば増えた分だけ派手に消費に回す人が多いと思う。

地味に郊外に住んで、コツコツ貯めるようなタイプは、外銀のフロント職には向いていないかも知れない。(もっとも、バックオフィスの人は少し異なるかも知れないが…)

従って、上記①のような、手取りの4割を貯蓄に回せと言っても厳しいかも知れない。

更に、細かい話になるが、外資系金融機関のボーナスの一部(2~3割)は、RSUという形で株式で支払われ、行使期間が3~5年位になっている場合が大半であろう。

従って、年収5000万とか年収1億と言っても、手取りは更に少なくなってしまう。(もちろん、将来的にはExpireするものを除いて現金化はできる。税率は給与所得と同様であるが。)

このため、手取りの3~4割を貯蓄に回すのはますます厳しい話となってくる。

ちなみに、リーマンショック前の好況期の話であるが、知人で年収1億どころか2億円位稼いでいた元外銀MDがいるが、贅沢な消費をすると、このようになってしまった。

(興味ある人は、こちらの過去記事をご参照下さい。)

https://career21.jp/2019-01-02-124819/

 3. シミュレーション

①最楽観シナリオ

まずは、最楽観シナリオから。30歳でVPに昇進し、35歳でMDに昇格。50歳まで働けたとする。

VPの年収は3000万円、MDの年収は1億円とする。

30歳のVP昇格時点での貯金は2000万円としよう。

そして、現実性は少し欠けるかも知れないが、額面の2割を貯金することができたとしよう。

そうすると、

・VP昇格時点での貯金額が2000万円。

・VPでの5年間の貯金額合計が、600×5=3000万円。

・MDでの15年間の貯金額合計が、2000×15=3億円。

・退職金を1年あたり200万円×28年=5600万円。

そうすると、4億600万円となる。

さすがに余裕であるが、現実的にはここまで貯蓄に回せないし、50歳まではきついかも知れない。

実際、業界的にはMDまで昇格して、40過ぎでリタイアする際の貯金額は2~3億円位と言われているので、4億円というのはかなりの楽観シナリオなのかも知れない。

②メインシナリオ

今度の想定は、30歳でVP昇進で年収3000万円は先程と同じとしよう。

ただ、35歳でSVP/Directorに昇進して年収5000万円、そして、45歳まで働けるとしよう。

計算すると、

・30歳のVP時点での貯金が2000万円。

・35歳までのVPでの貯金が3000万円。

・45歳までのSVP/Directorでの貯金が、5000×20%×10年=1億円。

・退職金が1年あたり200万円として、23年間で4600万円。

以上の総合計が、1億9600万円である。

もっとも、年収5000万円、手取り2800万円弱で1000万円を貯金に回すのは厳しいので、せいぜい1億5000万円位か?

わりとこれは、実感に合う金額である。

要するに、そこそこうまく行った場合は、40代で1億5000万円位は貯金ができるということだ。

③リスクシナリオ

リスクシナリオといっても、このカテゴリーが割合的には最も多いだろう。

そもそも、入社3年後には半分、入社6年後のVP昇格可能時点では2割位しか残っていない世界である。

20代で辞めると、大して貯金などできない。

何とかVPになっても、リストラ等で40歳になる前に外銀を去る場合には、1億円も貯められないケースが大半だ。

4. 外資系運用会社(バイサイド)という選択肢も

外銀は当たり外れが激しいので、もう少しミドルリスク・ミドルリターンがいいという人は、外資系運用会社という選択肢もある。外資系運用会社であれば、50歳を過ぎて働いている人達は珍しくなく、定年とまでは行かなくても50代後半くらいまで働くことは可能だ。

もっとも、外銀と比べると期待できる年収水準は低い。例えば、営業職の場合、それなりの成果を出せると3000~5000万円位の年収は十分可能であるが、長く働かないと貯金も思ったほどはできないものである。

営業職の場合は、ボーナスは景気や営業成績によって変動するし、ボーナスの中にはRSUも含まれるからである。また、お金の使い方は外銀ほどは派手ではなくても、額面年収の2割を貯蓄に回すのはかなりキツいので、40代のうちに1億円位は可能であるが、そこから先はそれ程簡単ではない。

https://career21.jp/2018-11-07-092512

 5. リスク面を加味すれば総合商社は捨てがたい?

上記の通り、外資系運用会社(バイサイド)の場合でも50歳くらいで1億円以上貯金ができることは十分可能なのだが、当然リスクはある。

その点、総合商社の場合には終身雇用であり、退職金・年金も手厚い。大雑把な計算であるが、30歳から定年までの30年間、平均100万円ずつ貯金すれば、それだけで3000万円。それに、退職金と確定拠出型年金を合わせて定年時に3000~4000万円を受け取れるとすると、6000~7000万円となる。海外駐在時には手当や住宅費補助によって実質年収が上がるので、駐在時に手堅く貯蓄をすると、それ以上も可能だ。

従って、定年時ということになってしまうが、1億円位貯めることも可能であり、リスク面を考慮すると魅力的である。

モルガンスタンレーを蹴って、三菱商事を選択する学生もいるようだが、感覚的、本能的にこのような計算をしているのかも知れない。

総合商社が人気なわけである。

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