プライベート・バンクにおける年収とキャリアについて

1. プライベート・バンクとは

①プライベート・バンクの業務と金融機関

プライベート・バンクとは、資産額が一定以上の富裕層を対象顧客として、
銀行、証券、信託、資産運用等、総合的な資産管理や資産運用関連の
サービスを提供する金融機関を言う。

クレディスイス、UBS、ピクテなどのスイス系、ソシエテジェネラルや
BNPパリバ等のフランス系、バークレイズやHSBC等の英国系、
JPモルガン、BNYメロン等の米国系など、個人富裕層が厚い欧米において
著名なプライベート・バンクが存在している。

そして、プライベート・バンクに限らず、広く富裕層向けの金融サービスに
関連する業務をプライベート・バンキング業務という。

②グローバルでは拡大しているプライベート・バンキング・ビジネス

世界経済が拡大するに伴い、富裕層の数およびその資産額が拡大していくため、
グローバルではプライベート・バンキング・ビジネスも拡大傾向にある。

また、トレーディング業務のように相場環境によって収益が激しく
変動することは無いので、グローバルな大手金融機関にとっては貴重な
収益源の1つとなっている。

2. しかし、何故か日本では難しいプライベート・バンキング・ビジネス?

①1998年の金融ビッグバンを機に、一時は盛り上がるが…

日本においても、ロンバー・オディエ、ピクテ等、控えめにプライベート・
バンキング業務を展開している金融機関はあったが、1998年の金融
ビッグバンを機に、プライベート・バンキング業務が盛り上がった時期が
あった。

その中でも、一時期成功したのがシティプライベート・バンキングである。
ここは、超富裕層が少なく、比較的小振りな富裕層が多いと言われる
日本市場を踏まえ、対象となる保有資産額の基準を下げ、パッケージ化
された金融商品を大量に販売し、日本的なプライベート・バンキング業務
に成功したと評された時期があった。

しかし、やり過ぎたことによる弊害が現れ、本人確認義務や情報提供に
かかる法令違反、他業禁止義務にかかる法令違反等の数々の法令違反と
内部管理体制の不備を指摘され、2004年9月に金融庁から厳しい
行政処分を受けてしまった。

これによって、シティバンクによるプライベート・バンキング業務は
事実上終焉を迎え、また、他のスイス系のプライベート・バンキング業務
もあまり注目されなくなってしまった。
②リーマンショック以降、日本市場に参入しようとした金融機関もあったが…
日本ではプライベート・バンクは難しいとされ、そうした中でようやく
成功モデルと思われたシティプライベートバンキングもコンプライアンス
に係る問題によって失敗してしまった。

また、メガバンク、大手証券会社などの国内系金融機関でも、
プライベート・バンキング業務が主要な収益源になっているとは思われない。

このように、日本ではプライベート・バンキング業務で成功することは
難しいと思われていたにもかかわらず、リーマンショック以降、
日本市場に参入を試みた外資系金融機関もあった。

英国のバークレイズ銀行とHSBCによる日本の富裕層ビジネスへの参入
である。

しかし、これらも結局うまく行かなかったようで、バークレイズ銀行の
業務は三井住友銀行グループに、HSBCの業務はクレディスイスグループに
引き継がれることになった。

3. 何故、日本でのプライベート・バンキング業務は難しいのか?

①まず、単に超富裕層の数が足りない

富裕層というと、よく「金融資産1億円」以上というが、それは
厳密な意味でのプライベート・バンキングとは言わない。
金融資産1億円だと、変動資産に投資をできるのはせいぜい数千万円位であり、
それだと、普通の金融機関の大口顧客と大して変わらない。

ファンドに1口、1億円を通しをしてもらおうと思えば、
少なくとも5億円は金融資産が必要なところだ。

しかし、「金融資産5億円」というと結構ハードルが高い。
野村総合研究所が定期的に公表している富裕層調査によると、
金融資産5億円以上の世帯数は、日本全体で8.4万世帯に過ぎず、
0.2%にも満たない。

②厳しすぎる顧客審査とコンプライアンス的な要求

プライベート・バンキングの対象となる個人富裕層については、
口座開設時や取引時において極めて厳しい審査が義務付けられる。
過去にシティプライベートバンキングの問題が生じて大問題になったという
過去の経緯もあるし、適合性の原則の観点から、個人の場合には
金融機関と異なり遥かに厳しい審査がコンプライアンス的に要求される
のである。

この点は、金融当局における定期検査でも必ずチェックをされるので
社内においても決して手を抜くことは許されない。

このため、顧客開拓とか顧客管理コスト(労力とか時間とか)が
法人と比べてとにかく高いため、収益性のハードルは上がってしまう。

したがって、例えば3億円のファンドを買ってもらうには、個人富裕層を
あたるよりも、信用金庫や年金基金をあたった方が効率がいいという
ことになってしまう。

③プライベート・バンクだからといって、秘密の運用法があるわけではない

プライベート・バンクというと、何か特別な運用、秘密の運用を
期待しがちだが、そういったものがあるはずがない。

結局、グローバルにある、株式、債券、不動産、商品、PE等を
ファンドマネージャーが運用するだけの話である。

確かに、大手の金融機関、年金、大学といった機関投資家と同じ
商品、同じ運用サービスを受けることは可能かも知れないが、
それ以上でもそれ以下でもない。

それらは市況や運用パフォーマンスによって、うまく行ったり
行かなかったりで、必ず儲かるということはあり得ない。

それでは、プライベート・バンクというと想像されがちな、
相続とか税金の相談は弁護士や税理士の業務であるし、
子女の学校の世話とかそういうことをやっていると、手間ばかりが
掛かって儲からない。

4. プライベート・バンカーの年収について

前置きが非常に長くなってしまったが、日本ではプライベート・バンクで
成功することが難しいため、日本で営業中のプライベート・バンクの
数が少ない。

これが、年俸水準にも響いてきている。

もちろん、プライベート・バンカーは営業職であり、年俸には
歩合的な要素が少なくないので、格差はあるが、突出して高い年収を
得るのは難しいと思われる。

なお、今から15年以上前の、シティプライベートバンキングの全盛期の
話であるが、管理職クラス(投資銀行でいうとVPレベル)の年収が
ベースとボーナス込々で2000万円程度であった。

そして、そこから頑張って更に1ランク上のポジション
(投資銀行でいうとSVPレベル)に上がることが出来れば、年収3000万円
程度で、思ったほどは多くない。

今も基本的にはそれ位の水準であろう。

「プライベートバンカー、年収」でGoogle検索を掛けると、以下のような
案件が見受けられる。

<いずれも外資系証券会社>
・ジュニアセールス  :ベース700~1300万円+ボーナス
・プライベートバンカー:ベース650~1400万円+ボーナス
・プライベートバンカー:ベース900万円~+ボーナス
・プライベートバンカー:ベース700~1500万円+ボーナス

そして、ボーナスが何千万円ということはふつうあり得ない。
せいぜい数百万円、良くてベースと同じくらいの金額であろう

従って、外資系の商業銀行よりは高いが、明らかに外銀IBDや外銀の
機関投資家セールスよりは低めである。

そして、何より、プライベート・バンキング業務を展開している
金融機関の数が少ない。
UBSグループ、クレディスイスグループ、ジュリアスベア、ピクテ、
ロンバーオディエといったスイス系が大半である。
また、新規参入も期待できないので、他に行くところを見つけにくいのが難点だ。

それに、国内系金融機関も戦略の中心にプライベート・バンキング業務が
据えられているところはあまり見当たらないので、
三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券を除くと、国内系金融機関に
好条件で転職できるということもあまり期待できないのではないだろうか。

5. プライベート・バンクにおけるキャリアについて

プライベート・バンカーというと響きが良く、カッコいいイメージである。
また、運用、税制、相続、金融商品といった幅広い専門性が要求される
プロフェッショナルと言える。
それに、日本においても質の高い富裕層向け資産管理サービスというのは
求めらえるものである。

しかし、そのように思われつつ、金融ビッグバン以降20年が経過するも、
このビジネスは難しいままである。

20年後、30年後はどうなるかはわからないが、現状を前提とすると、
機関投資家向けのビジネスをキャリアの軸とした方が、
年収においても将来のポジションにおいても堅い気がするが、
どうであろうか?

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