東大経済学部からも就職。文系学生のトヨタ自動車への就職について、年収、キャリア等から考えてみた。

1. 企業自体の存在感に比して、東大文系の就活生からは人気が無い?

トヨタ自動車は株価時価総額30兆円超(令和3年9月1日現在)、営業利益2兆円レベルの、規模感においてはダントツの日本一の企業である。

他方、文系の学生の就活においては、トヨタ自動車はあまり存在感が無い、控えめなイメージである。

確かに、文系トップの東大経済学部から就職者は出ているものの、トップ学生の間で、「トヨタ自動車に就職したい!」という声はあまり聞かれない気がする。

実際、ONE CAREERが毎年公表している、東大・京大就職ランキングを見ても、トヨタはTOP30社に入っていない(しかも、これは理系の学生も含んだランキングである)。

<ONE CAREER:東大京大・22卒就職ランキング>

https://www.onecareer.jp/articles/2094

そこで、文系学生のトヨタ自動車への就職について、年収、将来のキャリア面から考えて見たい。

2. トヨタ自動車と年収

①平社員時代の年収 ~30歳位

初任給は学部卒の場合(文系は基本的に学部卒)、23万円スタートで、これに残業代とボーナスが付く。初年度は夏のお祝い金10万円、冬のボーナスが50万円位で、年収400万円位である。最初の3年間はほとんど変わらず、残業代込の月収30万円と、ボーナスが70万円×2で、合計500万円程度の時代が続き、やや我慢の時代である。4年目以降は少しずつ増え始め、30歳位で700万円台に到達できる。

②主任時代の年収(30代)

学部卒がメインの文系の場合、早ければ10年目で主任に昇格できる。そうすると、年収がある程度増え、900万円~となる。そこからは、少しずつ年功序列で上昇していく。

③課長の年収(40代)

学部卒の場合、最速で15年目で課長に昇格できる。その場合は、30代の内に課長になれるということである。通常は40歳過ぎ当たりであろうか。課長になると、給与水準が上昇し、1200万円~となる。ここまでは大卒の場合、ほぼ全員が到達可能である。

そこから先は、ワンランク上の室長に昇進できない限り、1400万円位がマックスとなる。(1500万円の壁)

④室長以降の年収

40歳位で課長になれたとしても、ワンランク上の室長になれない限り、年収は1400万円位で頭打ちとなる。しかし、室長になれる者はそれほど多くない。室長になれれば、年収1600万円~ということであり、大手金融機関以上の年収ということになる。

もっとも、その上の部長職に昇格できない限り、1800万円位が上限となり、そこから先は難しい。(年収2000万円の壁)

部長になれば年収1800万円~、2000万円超えも可能だが、ここまで到達できるのはほんの一部であり、あまり想定しない方が賢明であろう。

3. トヨタ自動車からの他社への転職

①同業他社(自動車関連企業)への転職しかない?

これはトヨタ自動車に限らず、メーカーの全般的な課題であるが、20代のポテンシャル採用を除くと、他業界への転職は難しい。30代を過ぎて役職が付いた段階で、コンサルとか金融とかをやりたいと言っても、なかなか転職は難しい。

従って、可能性があるのは、自動車関連の外資系企業で、ベンツ、BMW、テスラ、VWといった完成車メーカーや、デルファイ、ボッシュ、ジョンソンことロール、マグナといった部品メーカーということになる。

しかし、トヨタ自動車は自動車で世界一競争力を有する企業であるので、外資系に転職したからと言っても年俸が増えるとは限らない。

これは金融やコンサルとは異なる点である。

従って、40代で幹部社員になって、役員クラスで外資系自動車関連メーカーに就職しない限り、あまり妙味はないと思われる。

②MBAを取得して外コンに転職

トヨタ自動車は生産管理という面において海外企業から広く注目され、トヨタ自動車自体が外コンのクライアントでもあるので、海外MBAを取得して、MBBで外コンになるという途もある。東大生の場合だと、留学に必要な各種スコアを揃えるのはお手の物なので、トヨタという職歴があれば、私費でもトップスクールに入学できる可能性は十分あるだろう。

しかし、社費留学は極めて狭き門であり、あまり当てにすることはできない。他方、私費で留学するとなると2000万円にも及ぶ留学費用を年収するのも覚悟がいる。とは言え、アップサイドを狙いたいという想いが強いambitiousな人にとっては魅力的なキャリアプランであろう。

③自動運転関連やニュービジネスのキャリアを活用?

ここ数年、トヨタが急速に力を入れているのが自動運転関連である。また、これに付随して周辺のニュービジネスも強化している。テスラと比較してどうかというのはわからないが、少なくとも、トヨタは世界で最も自動運転に関して強い企業の1つと言えるだろう。

そうすると、トヨタの自動運転関連部門で働くことができれば、将来有用なITビジネスとも絡むスキルや経験を身に着けることが可能となる。

実際、総合商社も自動運転関連には興味を示しており、積極的に中途採用も行っている。

トヨタで自動運転関連業務に従事していたというのは、この分野で最高に競争力を有する業務経験なので、商社、大手IT、ベンチャーと転職する可能性を持っているかも知れない。

ただ、これが日本企業の問題点なのだが、最初から自動運転関連を希望してもそれが叶う保証が無いのが難しいところである。

4. 中途採用による転職

今回のテーマからは少しずれるかも知れないが、他社からトヨタ自動車に中途採用で入社することは可能であろうか?

http://www.toyota-careers.com/

公式HPを見ると、事務職についてもそれなりに広く中途採用を実施しているようである。これを見ると、文系からは、調達、新規事業開発、品質保証、といった職種がある。調達と品質保証は製造業での経験者を想定したポジションであろう。

新規事業開発は、ベンチャービジネス・投資関連のポジションもあり、金融・商社からも応募ができそうである。

もっとも、第二新卒・若手を除くと、30以上で、金融・商社から中途採用で入社しようと希望する人は少ないのではないだろうか。

というのは、いずれも勤務地が愛知県ないしは岐阜県となっており、東京在住で家族持ちの人が行くのはハードルが高いからである。他方、名古屋周辺にUターンしたいという人にとっては魅力的なポジションであるはずだ。

5. コース別採用の導入は、トヨタの就活人気度を押し上げるか?

①東大や早慶の文系学生は年収と東京勤務にこだわる?

選べる立場にある、東大、早慶の文系学部のトップ学生からすると、必ずしもトヨタ自動車に行きたいと思えない理由が2点ほどある。

第1点は、大手金融機関と比べた場合の、年俸水準だ。40代以降はトヨタと大手金融機関の年収レベルにはそれほど差は無く、場合によってはトヨタの方が多いと思われる。

ただ、20代、30代の間が、大手金融機関の8掛け位であろうから、そこを気にする学生はいるだろう。

第2点は、勤務地である。もちろん海外勤務はあり得るが、トヨタ自動車の場合は今でも名古屋色が強く、勤務地は名古屋周辺となる。首都圏に居住することを好む、在京の有力大学生からすると、この点は気になるのであろう。この点については、本社所在地が豊田市のトヨタだけではなく、大阪本社のキーエンスにもあてはまるようだ。キーエンスは、トヨタどころか、総合商社よりも明らかに年収水準は高いのだが、就職難易度という点においては商社、金融専門職、財閥系デベロッパー、大手マスコミには適わない。これは、と大阪本社で東京勤務が期待しにくいという点も理由ではないだろうか。

さらに、トヨタの場合、中途採用等における転職力が特に身に付くわけではないので、どういった学生がトヨタ自動車に向いているかと考えると、やはりクルマが好きだという学生では無いだろうか?

メーカーの場合は、一般的に言えることだが、その会社の製品に興味が持てないと、面白くないのではないだろうか?

とはいえ、「安定性」を求める学生とか、「あえて金融は行きたくない」学生が消去法で選択するということはあり得るかも知れない。そういった場合には、クルマ、特にトヨタ車のことをよく勉強してから面接に臨む必要があるだろう。

②コース別採用の導入は東大、早慶の学生を振り向かせることができるか?

トヨタは最近、文系の学生の場合も、入社時の配属先を確約してもらえるコース別採用を導入したようだ。

<トヨタ新卒採用HP:コース・本部登録について>

https://toyota-saiyo.com/course/

これを見ると、文系(事務職)の職種が8種類に分類され、生産管理、調達、国内営業、海外営業、総務人事、経理、渉外広報から配属希望部署を選択することができるようだ。ジョブ型採用の流れに合わせたのか、これは学生からするとうれしい話ではないか?終身雇用が将来崩れ、市場価値・転職価値が重視されるようになると、何らかの明確なスキルや専門性が無いと生き残りは厳しくなるからだ。

実際に、どういった運営になるのか、本当に100%希望が通るのかはよくわからないが、就活生にとっては自分のキャリアプランを実現し易くなるので魅力は十分にあると思う。リーディングカンパニーのトヨタがこの制度を導入すれば、他の企業にも波及していくことが想定されるので、「配属ガチャ」という日本固有の悪い制度が将来は無くなっていくことを期待したい。

なお、2020年初頭に発生したコロナウイルスの問題が、景気や採用市場に極めて大きな影響を与えている。就活においては、21卒及び22卒については心配されたほど悪化しなかったという見方もある。しかし、2021年9月時点でも、コロナの感染者数は昨年以上に多く、まだ何時就職するのかが読めない状況になる。このため、23卒以降についても、あまり希望的な観測はしない方がいいかも知れない。

東大文系の場合でも、外銀や金融専門職、商社のみに絞るのはリスクが高く、他にも対象先を拡げる必要があるかも知れない。そうなると、トヨタも十分対象企業に入ってくる可能性はあるし、コース別採用という新たな切り口を考えると、悪くはない選択肢の1つなのかも知れない。

 

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