1. 弁護士に約2年間前倒しでなれるのは嬉しいことだろうが・・・
こちらの日経新聞の記事によると、法曹養成の新コースについて、閣議決定がなされ、法学部3年、法科大学院2年の合計5年で終了できる「法曹コース」が創設され、さらに、法科大学院の終了前に司法試験が受けられるようなるという。
司法制度改革に伴い、弁護士の数が急増し、その生活水準が急落したことに加え、法曹になるためのコスト(法科大学院終了、新司法試験、司法修習)が高いため、法科大学院の人気の低下が止まらないという。
また、東大法学部等の優秀層は、法曹になるためのコストを避けるべく、予備試験に流れる学生も増えてきたということもあり、法科大学院の人気を取り戻すための方策かと思料される。
確かに、2年も早く弁護士になることができれば、法科大学院の授業料や弁護士としてお金を稼げるようになるまでの生活費の負担を軽減することができるので、弁護士を目指す学生にとっては有難い制度であろう。
2. 「法曹養成新コース、最短6年で資格」に飛びつく前に、考えておきたいこと
①弁護士を目指すかどうか迷っている法学部の優秀層は結構多い
何があっても自分は弁護士(或いは判事、検事)になるんだと決めている学生にとっては、この新コースはありがたいであろう。
最速で予備試験に合格できるコースよりも、せいぜい1年遅れる程度であろうから、そういった学生はこの新コースを目指せば良いだろう。
しかし、実際はそこまで割り切って、法曹を目指す学生はそれ程多くないという。
例えば、東大法学部の場合、法科大学院に進学するのは約2割、それ以外に予備試験ルートで法曹を目指す者が約1割程度はいると推定される。
ただ、これらの法曹を目指す者が全て最初から法曹一本ということではなく、法学部生の2割程度は、法曹を目指すか、就職に切り替えるかで悩んでいるということだ。
これは、東大法学部に限らず、京大法学部、一橋法学部、早稲田法学部、慶応法学部生も類似しており、このクラスの法学部生であれば、2割位の学生は、果たしてこの新コースに乗るべきか悩んでいるのではないだろうか?
②まず、留意しなければならないのは司法試験の難易度は変わらないこと
トップクラスの法学部生が法曹を目指すか悩む理由の1つは、果たして、自分が司法試験に合格できるかということだ。
旧制度と比較して簡単になったと言われるものの、司法試験の合格率はわずか20%でしかない。
合格率トップの法科大学院でも50%程度しか合格率が無い。
従って、東大法学部の超トップ層でもない限り、司法試験に(1回で)合格できるかというのは大変気になるところだ。
この点、新コースは法曹になるまでの期間を従来と比べて2年間短縮できるという制度であるが、難易度の直接的な影響を与えるわけではない。
この日経の記事によると、司法試験の合格者数の目安は1500人程度とあり現在と変わらない。
このように新コースによって合格しやすくなるわけでは決して無いので、伊藤塾とか大学の法律科目の成績から、自分の法律科目への学力に不安がある場合には、慎重に考えなければならない。
③司法試験に合格できたとしても、弁護士の将来性が変わるわけではない
新コースによって、無事弁護士になれたとしよう。
しかし、新コースは弁護士になるまでの様々なコストをカットしてくれるが、弁護士としての将来性を変えてくれる制度ではない。
弁護士数は2018年に4万人を突破し、それ以降も増え続けている。
今回の新コースの設置によっても、司法試験の合格者数は1500人程度を想定しているということなので、今後も増え続けるということだ。
そこで、弁護士になった場合の年収水準やキャリアについて、以下で紹介したい。
3. 弁護士としてのキャリアプランと年収についての考え方
①個人で独立開業を目指す場合
従来は、弁護士の場合、このコースが王道であった。
弁護士資格取得後、個人経営の弁護士事務所に勤務し(いわゆる「イソ弁」)、数年間位働いて、独立するというパターンである。
しかし、法曹数の急増によって弁護士の年収レベルが大幅に下がったことは周知の事実であり、現在では従来のように簡単に独立して稼ぐことが難しくなった。
弁護士の年収については、さまざまなデータや記事がある。
こちらのプレジデントの記事は少々センセーショナルに取り上げた煽り的な要素もあるかと思うが、厳しい状況にあることは確かである。
https://president.jp/articles/-/18443
いわゆる、「街弁」という個人開業の弁護士を目指す場合に考える必要があるのは、現状というより、10年後、20年後の中長期的な未来である。
現在、40代、50代で経験も顧客基盤もある個人開業弁護士からすると、そんなに悲観する必要は無いというかも知れない。
それは、自分たちは勝ち逃げできた世代であるからだ。
他方、そもそも就職先が見つからないとか、見つかっても年収400万円という話もあるが、もちろんそんな悪い話ばかりでもない。
弁護士の場合は、年収はサラリーマンと違って個人差が大きいので、自分が求める年収水準、生活レベル、就職を選んだ場合に得られる年収等、いろいろ考える必要があろう。
②社内弁護士としてのキャリアと年収
社内弁護士の年収やキャリアも、リーマンショック前と後とでは大きく異なってきている。
リーマンショック前では、大手渉外事務所⇒外銀社内弁護士、というのは年収4000万円~の大変恵まれたポジションであった。
ところが、リーマンショック後は一変し、外銀のVPとかDirector(SVP)あたりの管理職レベルで、せいぜい2000万円台とか、3000万円台といったところだろうか。
外銀以外の社内弁護士の場合、ごく一部のIT系を除くと、一般社員と大して変わらず、それだとそもそもわざわざ苦労して弁護士になった意味がない。
弁護士事務所勤務から途中でインハウスに転換するのなら理解できるが、最初からインハウスを目指すというのは、コスパが合わないと思うがどうだろうか?
なお、社内弁護士(インハウス)の年収・キャリアについては、こちらの過去記事をご参照ください。
③大手渉外事務所でのキャリアと年収
東大法学部等のトップ法学部生が目指す、最後に残された勝ちパターンはこちらではないだろうか?
従来よりも、パートナーになれる確率は昔よりもずっと減っているし、パートナーになれるまでの期間も長期化している。
しかし、晴れて40歳位で大手渉外事務所のパートナーになれた暁には、年収4000万円~、で外銀と違って60歳位までは働ける。
これは、弁護士の数が急増しているといっても、渉外弁護士事務所というのは一部の有力事務所に大企業からの需要が集中するので、そういった有力事務所のパートナーは、街弁程の弁護士増のインパクトを受けていないからである。
もっとも、アソシエイト時代の労働状況は過酷を極めるので、本当に法律が好きなものでないとなかなか務まらないかも知れない。
まとめ
法曹養成新コースは、弁護士への途を2年間も縮めてくれるので、どうしても弁護士になりたい学生にとっては大変ありがたい制度であろう。
しかし、合格率20%台の司法試験は大変やっかいであり、なってからも昔のように稼げる時代ではなくなった。
また、東大法学部生のようなトップ法学部生の場合には、民間企業への就職に切り替えても有望なキャリアプランは描けるはずだ。
さらに、今後は起業や個人事業が勝ち組になる可能性もある。
従って、選択肢が多いトップ法学部生ほど、いろいろな選択肢を比較検討して法曹コースをも含めたキャリアプランを考えたい。