1. FASとは何か?
①FASの業務内容
FASとは、Financial Advisory Serviceの略で、M&A業務に係るDD、Valuation等のアドバイザリーサービス又はそのアドバイザリーサービスの提供会社をいう。
②FASの企業について
FASというと、Big4系会計ファームのグループ会社が主として想起され、以下の会社が各グループの中でFAS業務を担当している。
KPMG FAS
EYTAS(EYトランザクション・アドバイザリー・サービス)
デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー
PwCアドバイザリー
2. FASの年収水準について
①一般的には年収水準は悪くない
FASの年収水準は、国内系企業と比較するとかなりの高水準であると言える。特に、初任給が邦銀や大手証券会社と比較すると高いため、若いうちから高給を求める傾向のある最近の就活生には魅力的かも知れない。
もちろん、外銀IBDのように20代のアソシエイトで年収2000万円、VPになると年収4000万円~という世界と比べると大きく劣るのだが、国内系金融のIBDや総合商社と比べても遜色ない水準と言えるだろう。
②FASの年収について
Big4系のFFASの場合、タイトルが同じであれば、大きく異なることは無いようだ。そのうち、KPMG FASの年収モデルは以下のようなイメージである。
アソシエイト :ベース600~700万円+ボーナス(100~200万円)
シニアアソシエイト:ベース800~900万円+ボーナス(200~500万円)
マネージャー :ベース1000~1200万円+ボ-ナス(300~600万円)
ディレクター :ベース1200~1500万円+ボーナス(400~700万円)
パートナー :ベース2000万円~+ボーナス(?)
会社によっては、マネージャーの代わりにVP、ディレクターの代わりにSVPという呼称を使うところもあるが、内容はほぼ一緒である。
なお、ボーナスについては業績変動や経済環境によって変動し、今は上記よりも低い可能性がある。
(リーマンショック前は、ディレクター(SVP)でボーナスを含めて2500万円という事例もあったそうだ。)
また、Big4系FASの中では、EYTASが若干高いのではという話もある。
③FSAは退職金が無いので要注意
以上のように、FASは給与のみに注目するとかなりの高給ということになるが、監査法人系の弱みで、退職金が無い。
また、年金も雀の涙だ。
従って、外銀や国内系証券会社のIBDと比べると、実質的な年収は1ランク落として考えなければならないことに留意しなければならない。
3. どういう人達がFASに転職してくるか
①監査法人(公認会計士)
最も典型的なパターンは、Big4系であることから、関連監査法人から公認会計士資格を持つ者が、監査業務からIBD的な業務にキャリアチェンジすることを目指して異動・転職してくるケースだ。アソシエイトまでだと年収水準は監査法人と特に変わらないが、マネージャー(VP)以上になると、ボーナス次第だが監査法人よりも高水準も可能な点が魅力だ。
もっとも、それ以上に、M&Aのスキルをつけて自分自身のキャリアの幅を拡げることが大きなモチベーションになるのではないかと考えられる。
<監査、FAS、独立?公認会計士のキャリアプラン>
https://career21.jp/2019-10-25-081705/
②外銀IBDから
外銀IBDとFASとを比べると、年俸水準は2倍は違う。
また、M&A等のIBDの世界では、外銀IBDの方がステイタスが高いので、キャリアップのために外銀IBDからFASに来る人は基本いない。
他方、リストラ等によって、外銀IBDからFASに来た事例は多く、例えばリーマンショックの頃は、リストラされた外銀IBDから多くのバンカーがFASに押し寄せ吸収されたという。或いは、リストラでなくとも、40歳を過ぎた外銀IBDのバンカーが将来長く働くために、FASの幹部(SVP/パートナー)に就くというケースもあるかも知れない。
<リーマンショックでクビになった外資系バンカー達のその後>
https://www.onecareer.jp/articles/2163
③メガバンク、保険会社、事業会社からの転職
これは、先ほどの外銀IBD⇒FASとは反対に、キャリアップのケースである。国内系大手金融機関にいるものの、M&A等の金融プロフェッショナルとしてのスキルと職務経験を付けるために、挑戦してくる場合である。
もっとも、大手金融機関とはいえども、かなりのスペックが無いと、FASからは採用してもらえない。
一定の高学歴、英会話力等が必要になる。
Big4系への転職には米国CPAが結構評価してもらえるので、大手金融機関の職歴+米国CPAがあれば、採用してもらえる可能性がある。
また、国内系の事業会社で財務やIR等の財務関連部門にいる人達が、金融プロフェッショナルを目指してFASに来る事例もある。
その場合も、それなりのハイスペックと米国CPA等があった方がいいだろう。
4. FASへの就活(新卒採用)
従来は、新卒でFASを目指すというのはメジャーな路線では無かったかと思われる。しかし、優秀な学生が外銀や国内系証券会社のIBDに集中するために、新卒でIBDの職に就くことは極めて難しくなってしまった。
<外資系金融の異常な難化>
https://career21.jp/2019-05-31-100844/
前述したように、どうしてもM&Aや企業財務関係の職に就きたい場合には中途採用でFASを目指せばいいのだが、それでも新卒からこういった職に就きたいという場合には、GCAといった独立系ファームやFASへの就活を考えることとなる。
例えば、2019/3卒の慶應義塾大学のケースを見ると、11人が新卒でデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーに就職している。また、2019/3卒の早稲田大学からは、6人が新卒でデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーに就職している。
Big4系のFASの中では、デロイトが相対的に新卒採用に熱心であるかのように見える。いずれにしても、かなりの難関であると思われるので、証券アナリスト(CMA)とか簿記2級は当然として、十分な準備が必要となろう。
<デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー新卒採用サイト>
https://dtfarecruit.tohmatsu.co.jp/
5. FASからのキャリアについて
FASからのキャリアアップとなると、外銀IBDということになるが、これはなかなか難しい。FASでの業務内容はM&Aと言っても、DD周りが多く、外銀IBDバンカーのように、案件を取りに行くスタイルとは若干異なるからである。
もっとも、不可能では無いので、多くの転職エージェントと接触し積極的な転職活動や、あるいはネットワーク作りが必要となる。
他方、国内系金融機関のIBDや法人部門に中途採用で入るというのは有り得る。この場合、表面的な年収アップには繋がりにくいが、退職金・年金・終身雇用ということを考えると、国内系証券会社のIBD等に転職する意義はある。
もっとも、40歳を過ぎるとかなりのシニアなポジションでの転職ということになるので、国内系金融機関の場合もかなり難しくなる。
また、GCAやフロンティアマネジメントといった独立系ファームや、コンサルであるが経営共創基盤(IGPI)等への転職も可能性がある。
6. FASに転職するための転職エージェントについて
FASに限らず、転職においてはなるべく多くのエージェントに広く網をかけて、その中から良さそうなエージェントを取捨選択するのが良い。確かに面倒ではあるが、エージェントによって強い会社とそうでない会社があるし、数多く登録すると優秀な担当者に巡り合えることもあるのでお勧めだ。
FASに強いエージェントとしては、リクルート、マイナビ、doda、エン・ジャパンといった国内系大手は悪くない。この辺りは既に登録しているかも知れないが、大手で外資にも強いJACは就活で馴染みが無いので登録していない人も結構いる。したがって、未登録であれば、上記に加えJACも登録しておきたい。
登録はこちら(JACの公式サイト)
また、金融に強いブティック系のエージェントについては、コトラ、アンテロープ、カナエアソシエイツといったところがあり、アンテロープ等はお勧めだ。この3社は、FAS以外にも優良な案件を有している可能性があるので、登録しておく価値はあるだろう。
<アンテロープ>
最後に
Big4系FASでのキャリアはネームバリューはあるし、給与水準も高い。
しかし、外銀IBDを目指すには若干力不足的な面があるのと、退職金が無い、終身雇用ではないといったデメリットもある。
このため、途中で国内系金融機関に乗り換えるという選択肢もある。
他方、どうしてもM&A等のコーポレート・アドバイザリー職につきたい金融機関や事業会社の人にとっては、悪くない選択肢である。
ただその場合には、退職金が無いことや終身雇用が保証されていないことを踏まえて、長期的なキャリアプランを考えた上で行動すべきだろう。