東京大学経済学部生の事業会社(非金融)への就職について考えてみた

1. 東京大学経済学部生の就職状況

東大経済学部生の就職状況について、大学のHPによる開示はあまり詳細ではない。

学生向け情報

このように、就職実績先の具体的な企業名については開示しているものの、各企業への就職者数が良くわからない。

しかも、金融機関は「サービス業」に含まれているので、どれ位のシェアかはよくわからない。

また、「その他(不詳)」が22.7%とある。

とはいえ、主な就職先に紹介されている企業名を見ると、3メガバンク、大手生損保、大手証券、大手外銀の名前があるので、早慶同様、それなりに多数が大手金融機関に就職していることがうかがえる。

2. 金融機関以外に就職をしたくなる場合

大手金融機関の場合、年収水準は高いし、それなりのネームバリューはあるので恰好はつく。

しかも、東大の場合は、入社後も配属や昇格において有利な場合があるので十分に合理的な選択肢として考えられる。

実際、何十年も前から、特にやりたい仕事があるわけではないので、とりあえず金融機関というパターンは珍しくなかった。

しかし、金融機関は収益のほとんどを国内で稼ぐというか、海外で稼ぐことができない。

そして、少子高齢化のため国内市場は将来先細っていく蓋然性が高い。

また、AIやフィンテックの進展によって、金融機関の業務は将来、機械化・省力化が予想され、メガバンクの人員削減策の発表とも相俟って、金融機関に対する就活人気度は低下したようだ。

スキル的にも、M&Aやトレーディングなどの業務は別として、特にリテール業務は他業界で転用できるスキルではないため、転職力という観点からは、東大を始めとした高学歴の学生の間でコンサルなどが好まれたりしている。

このため、東大経済学部の学生の中でも、あえて、金融機関以外の事業会社に就職することを考えたいという学生が増えてもおかしくないだろう。

3. 東大経済学部生が事業会社を選択するにあたっての判断軸

これは、人それぞれなのだろうが、以下の判断基準に基づいて事業会社(業界)を検討することとしたい。

①入社することが難しい(採用数がある程度少ない)

せっかく東大に入学することができたので、東大にふさわしい企業に就職したいという願望はあるだろう。

それを一歩進めて、「東大でなければ入りにくい」企業を抽出したい。

②給与水準がそれなり(生涯賃金がメガバンク並み)

学生の段階では、実際に働いたことが無いので、興味ややりがいといった主観的な事情に基づき、選択するのは危険である。

何故なら、そういったものは実際にやってみないとわからないし、そもそも、日本の企業の場合、部門別採用では無いので、やりたいと考えていた職種に就ける保証は無いからである。

そうなると、重要なのが給与水準である。

事業会社においても、メガバンク並みの生涯賃金が期待できる業界・企業を選択したいところだ。

③転職力が付く(或いは安定している)

現在稼げている企業でも20年後、30年後はどうなっているかはわからない。

会社自体は無くなっていないかも知れないが、競争力・収益力を失い、給与水準が大幅に下がっているかも知れない。

このため、いざという場合でも、転職力があれば、給与水準や待遇を回避することが可能となる。

4. 魅力のある事業会社(業界)について考える

①コンサルティング・ファーム

コンサルティング・ファームは最近、急速に採用を強化している。

マッキンゼー、BCGといった戦略系ファームの最高峰も、ここ数年ではマッキンゼーでも40~50人位新卒採用をしている。

そして、総合系ファームの中でも最大手のアクセンチュアは500人位新卒採用をしているとも言われている。

門戸が広くなったこと自体は、学生にとっては喜ばしいことかも知れないが、このような大量採用が長年継続すると、インフレによって、コンサルの価値が低下してしまうリスクがあることを十分にふまえるべきだ。

最強の資格であった弁護士でさえも、司法制度改革に伴う供給の増大により10年も経たないうちに価値が急落したことがその例だ。

従って、コンサルティング・ファームを選択するにしても、トップティアのファームに絞るとか、確固たる専門スキルを習得するよう心掛けるなど、何らかの対応をしておかないと、10年後位に自分の市場価値が落ちてしまうことに留意しなければならない。

なお、コンサルティング・ファームの年収やキャリアパスについてはこちらのサイトが詳しい。

コンサルタントの仕事内容とキャリア – 戦略コンサルによる転職ブログ

②総合商社

今は、東大生の就職人気ランキングの上位を占める総合商社である。

金融機関志望者(特に外銀)も金融機関を希望しない学生も、総合商社には興味があるのではないだろうか?

とはいえ、総合商社も20~30年前は今ほどは人気が無かった。

当時は、大手金融機関の方が年収レベルは高かったし、販売の中抜きということで「商社冬の時代」と言われていたこともあったからだ。

しかし、金融機関の長期的な収益性・人気の低下と、資源価格高騰に起因した総合商社の収益性の向上と年収水準の増加によって、すっかり地位は逆転してしまった。

総合商社に就職することは悪いとは思わないが、ただ、このような人気が20年後、30年後も継続しているかは保証の限りでは無いし、総合商社の場合は、金融プロフェッショナルやコンサルのような確固たるスキルが身に付かないので、転職力には欠けるということには留意する必要がある。

③マスコミ、大手代理店

フジテレビ、日テレ、TBSなどのキー局である。

ここはコネが無いと、少人数しか採用せず、かつ超人気職業なので、東大のような学歴が無いと難しい。

また、電通・博報堂も同様である。

テレビは将来ネットに覇権を奪われるということはよく言われるが、メディア・コンテンツ作成能力というのは転用可能なスキルなのでキー局に入ること自体は悪くないと思う。

また、物やサービスの機能的・スペック的な価値はどんどんコモディティ化していくので、ブランドとか広告が将来はますますビジネスにおけるカギになっていく可能性は高いと思われる。

従って、電通や博報堂で広告やブランドを学ぶことができれば、転職力も修得できると思われる。

なお、広告代理店の場合だと、東大経済学部であっても、電通・博報堂は保証の限りでは無いので、「主な就職先」にも載っている、ADKと東急エージェンシーぐらいまでなら、行ってもいいと思うがいかがだろうか?

個人的には、総合商社に行くよりは、「メディア・コンテンツ」、「広告・ブランディング」といったスキルを習得できるこちらの業界に行きたいと思うが、好き嫌いが分かれる業界であろう。

④三井不動産、三菱地所

地味ながら、超難関企業である。両社ともに数十人しか採用しないからである。

また、選考基準が、外銀・外コン・総合商社のような「グローバル人材」を求めているわけでは無いので、単なるスペック勝負ではない。

OB/OGとのコネクションとか、リクルーターとの相性がカギになってくるところである。

三井不動産の場合は特に給与水準が極めて高い。

40歳時点で1600~1800万円くらいある。

メガバンクよりは高く、総合商社レベルは十分にある。

課題は、転職力である。不動産業界の外には出ていくことが難しいし、不動産業界の中で同業他社を探すと、給与水準が大幅にダウンしてしまう。

もっとも、バリバリの終身雇用なので、リストラ等によって他を探さなければならないリスクは極めて低いが…

⑤野村総合研究所(NRI)、三菱総合研究所(MRI)

両社は収益的には①のコンサルに含まれるのかも知れないが、昔からの2大シンクタンクということで別カテゴリーとした。

三菱総研の場合は、給与水準が大手金融機関と比べると劣ってしまうが、産業界におけるネームバリューは極めて高く、昔から東大経済学部の中でも地味ながら人気が高い。

野村総合研究所は、とにかく業績が好調で儲かっているので、給与水準が高い。40代の課長だと年収2000万位も可能である。

よくある就活の基準の「モテ度」という切り口においては、商社や代理店に大きく劣るかも知れないが、産業界或いは高学歴の学生/社会人からは評価されるので、東大経済学部生好みの渋めの就職先と言えよう。

⑥外資系消費財メーカー

P&Gに代表される、近年、就活生に人気の外資系消費財メーカーである。

P&Gはマーケティングスキルということと、年俸もそこそこということで、トップ学生の間において人気が高いことは理解できる。

但し、外資系消費財メーカーは何でもいいという訳ではない。

ユニリーバ、ルイヴィトン、ネスレ、ロレアルあたりもかなりの人気のようだが、とにかく給与水準が高くない。

また、外資系⇒若いうちから活躍できる、というのも要注意な発想である。

外資系の場合、完全に中途採用文化が根付いているので、管理職以上は外部から入ってくる場合が多い。

従って、新卒でヒラから始めても、自分の上に外部から上司が入って来たりするのは面白くないであろう。

中途で管理職以上で入社するということも検討すべきである。

従って、国内系消費財メーカーの本当にいいところ、サントリー、味の素あたりを狙うのも手なのだが、「外資系」というところにカッコよさがあるようだ。

また、東大経済学部位になると、サントリーや味の素だと沢山採用するので特別な感じがしないというのもあるかも知れない。

⑦外資系IT企業

GAFA、マイクロソフト、シスコシステムズ、オラクルあたりである。

結構給与水準も悪く無いし、転職力も磨かれる(部署・職種によるが)。

東大経済学部生が狙うとするならば、⑥の外資系消費財メーカーよりはこちらではないだろうか?

もちろん、経済学部の場合には、通常プログラマーとしての入社では無いので、どういった職種を狙うかがカギになるだろう。

最後に

銀行や保険会社が20年後は無くなることはないであろうが、給与水準が2割下がる可能性は十分にあるだろう。

となると、仕事の面白さとか、転職力を考えると、何となく金融と言うのはリスクが高いことがわかるであろう。

コンサルを選択するというのは問題ないが、終身雇用では無いので、セカンドキャリアを予め意識しなければならない。

そして、コンサルのセカンドキャリアで一番多いのは事業会社であるので、学生のうちから、いろいろ考えて視野を広めておきたいところだ。

  • ブックマーク