国際教養大学【23卒向け】の就職と課題。外資系に強い?

序. 本当に就職は言われているほど、良好なのか?

国際教養大学は新設の公立大学にも関わらず、外銀、総合商社、電通等の超人気企業への就職実績を有することで、しばしばメディアで取り上げられてきた。

しかし、データを見る限りは、そこまで良好と言えるか疑問だったので、再検証したい。

1. 国際教養大学とは

①授業が全て英語で1年間の留学が必須の新設スーパーグローバル大学

国際教養大学(AIU)とは、2004年に秋田市に設立された新設の公立大学である。

全て英語の少人数教育がなされ、1年間の海外留学が必須とされている。(留学は単位参入が認められ4年間で卒業が可能)

難易度も他の国公立大学と併願可能と、安い授業料、良好な就職状況を反映して、偏差値67.5~70.0の超難関校になっている。

https://passnavi.evidus.com/search_univ/1025/campus.html

②グローバル人材への需要増に伴い、一般的に国際系の大学・学部は強い

大企業のグローバル人材に対する需要は極めて強く、全般的に国際系の大学や学部の就職状況は良好である。

例えば、早稲田大学の国際教養学部も、政治経済学部や法学部などど比べると歴史が浅いにも関わらず、就職力は政治経済学部レベルになっている。

国際教養大学は、効率、徹底した英語&グローバル教育のため、就職状況は良好と言われている。

2. 国際教養大学の就職について

①国際教養大学の就職状況について

国際教養大学の就職状況は非常に良好であるとメディアでは報道されている。しかし、残念ながら、他校と比べて具体的な企業名の開示が不十分であり、就職先のイメージが良くわからないところがある。

もっとも、国際教養大学は1学年の定員が175人であり、約1割が進学(進学準備も含む)するので、就職者総数はわずか162名(2019年度卒業生)なので、早稲田や慶應のように特定の企業には集中しないのかも知れない。

ちなみに、学校が開示しているのは過去3年分をまとめた分であり、企業別の就職者数は開示されていない。

https://web.aiu.ac.jp/career/employment/

②国際教養大学の業種別の就職先の特徴

上記の大学公式HPから、2018年度就職者143名の、業種別の内訳を抽出すると以下の様になる。

(2019年度就職者162名の業種別内訳)
製造業(56名) 化学工業、石油関連 14名
汎用・生産用・業務用機械器具製造 5名
電子部品・デバイス等 7名
食料品等 6名
電機・情報通信機械器具 7名
情報通信業(15名)
学術研究、専門・技術サービス(21名)
建設業(3名)
運輸業他(7名)
金融業(9名)
公務員(2名)

特徴としては、圧倒的に製造業の比率が高い。ついで、情報通信業、いわゆるIT産業の比率が約10%というのは、文系の他の有力校と比べて平均的であろう。そして、大きな特徴が、金融機関への就職者のシェアが驚くほど少ないということだ。

早慶などの文系の有力校について見ると、20~30%の卒業生は金融機関に就職している。理由としては、安定、高給、就職偏差値的なものがあるのだろうが、この点、国際教養大学の場合は高偏差値校であるにも関わらず、金融機関を選択する者が少ないというのは大きな特徴であろう。

③国際教養大学の具体的な就職先企業について

上述した通り、国際教養大学の就職先企業に関する情報開示はあまり十分とは言えず、過去3年分の主な就職先の企業名を記載しているだけで、就職者数等の詳細なデータは紹介されていない。

一応就職先のイメージは掴めるだろうということで、業種別に主な企業を抽出すると、以下の様になる。

製造業については、三菱重工、IHI、日本製鉄、JFE、トヨタ自動車、日産自動車、旭化成、東レ、富士フィルム、JXTGエネルギー、AGC、ソニー、三菱電機、三菱マテリアル、住友金属鉱山、古河電気工業、日本ガイシ、キッコーマン、キューピー、日清製粉グループ本社、花王、キリン、コクヨ、アシックス、住友ゴム工業、京セラ、村田製作所等である。

情報産業については、日本マイクロソフト、日本IBM、電通、ヒルトン、星野リゾート等である。

卸・小売りについては、三菱商事、住友商事、丸紅、伊藤忠商事、豊田通商、三越伊勢丹等である。

運輸については、日本郵船、日本航空、全日本空輸、東京急行電鉄、JR西日本等である。

金融については、三井住友銀行、東京海上日動火災、北都銀行である。

建設・不動産については、鹿島建設、大林組、竹中工務店、日揮、三菱地所等である。

④言われる程には就職力は強い様には見えないが、希望のところには就職はできている?

上記の過去3年間の主たる就職先企業の名前を見ると、いわゆる、外銀やMBB、外資系消費財メーカー等は見られない。もっとも商社においてはコンスタントに実績を出しているように見える。

一言でいうと、あまり派手さは無いが、そういった企業自体を志望する学生が少ないのかも知れない。製造業が多く、金融業が少ないということは、グローバル経験を活かせる企業を選択しているとも考えられ、世間体よりも自分自身の価値観を実現できるような就職先を選んでいるのかも知れない。

各業種別に具体的な企業名を見ると、各業界のトップ企業がズラリと並んでいるので、大手企業に就職することは余裕なのであろう。

3. 国際教養大学の就職における課題

就職も良さそうで、偏差値も高い。それでは、早慶よりも国際教養大学に行った方がいいとは言い切れない。国際教養大学は、就職に関して以下のような課題があるからだ。

①OB/OGの数が少ない

新設校で歴史が浅く、少数精鋭を強みとしていることのトレード・オフとして
OB/OGの数が圧倒的に好くない。従って、情報収集や、先輩からの引きという面においては早慶などの有力校に負けてしまう。

②地方立地の問題

キャンパスは秋田市内の山奥にあるため、就活をするには極めて不便である。京都大学の学生でも、夜行バスとかを使って東京に企業訪問をしている状況なので、地方立地はやはり不便である。

③ビジネス的な意識が弱い?

これは価値観の問題で、必ずしも弱みということは言えないかも知れないが、ビジネス系の学部(経済学部、商学部)と異なり、国際教養大学の場合はカネ儲けがしたい、金持ちになりたいという意識が希薄なようである。

従って、外銀とかコンサルとかの人気職種につくにはそのあたりの貪欲さの無さが足を引っ張る可能性がある。

また、他の大学や企業から離れているので、起業というのが生まれにくい土壌ではないかと懸念される。

もっとも、これらの点はMBA留学等をすると対応できるかもしれないが…

最後に

英語・グローバル教育に徹底的に特化し、「公立」という安心感も手伝って、一気に一流大学の仲間入りをした国際教養大学である。懸念事項があるとするならば、有力私立大学が国際系の学部を新設したり、国立大学も留学サポート制度を充実させているため、国際性という強みが希薄化することであろうか。とは言え、少子高齢化に伴い国内市場が縮小することは不可避であり、日本企業は海外で稼ぐか新規事業で稼ぐ他無い。そうなると、グローバル人材に対する需要の強さは継続するであろうから、国際教養大学は今後も競争力を有するものと思われる。

今後、成功した卒業生が登場していくと、ますます国際教養大学の人気度は上昇していく可能性がある。

とはいえ、入試難易度の高さは何とかならないものだろうか。

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