1. 外銀IBDではなく国内IBDという選択
IBDというと、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのような外銀のIBDが派手で注目されているかも知れない。
しかし、国内系の企業について野村や大和等の国内系証券会社のIBDが強く、良好な案件が数多く回ってくる。
M&Aやファイナンス業務については、外銀も国内系もやる仕事内容は基本的に同じなので、M&Aやエクイティファイナンスの仕事に従事したいと考えた場合には、国内系IBDも有力な選択肢となるはずだ。
そして、国内系IBDの場合には、外銀IBDと比べると、以下のようなメリット・魅力がある。
①安定性
何と言っても国内系金融機関の良さは、安定性である。基本的に終身雇用であり、途中で転籍出向で追い出されてしまうケースもあるが、ほとんどの場合、定年の60歳までは職が確保されるというのは外銀と比べた場合に大きなメリットである。
また、リーマンショックの時には、日興証券やみずほ証券でもリストラが実施されたようだが、割増退職金の金額が基本給の2~3年分等、外銀と比べると物凄く恵まれたリストラ条件であった。
②ワークライフ・バランス
外銀IBDは、アナリスト・アソシエイトは特に、労働環境が厳しく、連日夜中まで働くことは日常茶飯事である。
もちろん、国内系IBDの場合でも、夜遅いことはあるが、外銀IBDと比べると遥かにマシである。
また、国内系IBDの場合にはそこそこやっていたら、課長(VP)にはまず昇格できるのであるが、外銀の場合にはVPまで残っている方が少数なので、このあたりのプレッシャーが全く異なる。
③国内系企業の中では非常に恵まれた給与水準
給与水準については、外銀IBDと比べると圧倒的にリスクが低い分、その代わり、年俸水準は当然ながら外銀IBDより劣る。
従って、30代で3000万円~5000万円ということはまずあり得ない。
しかし、他の国内系企業と比べると大変恵まれた給与水準と言える。
後述するが、野村證券の場合には、30代で2000万円超えは有り得るし、SMBC日興証券やみずほ証券の特定専門職の場合にも、30代で2000万円近い年収を稼ぐことが可能である。
通常の総合職の場合でも、30代の管理職で1200~1500万円レベルの年収が得られるので、リスク面を考慮すると十分に恵まれた給与水準と言えるだろう。
2. 国内系IBDの各社の年収水準
①野村證券IBDの場合
野村證券IBD場合、IBD専門職(総合職C)で入社した場合には、初任給のベースが650万円スタートである。
ボーナスを合わせると700~800万円と、初っ端から外銀IBDに準じた年収水準である。
そして、4年目にアソシエイトに昇格すると、基本給が800~1000万円、ボーナスが数百万円で、入社5年目位に1000万円に到達可能である。
最短でいった場合、入社8年目、30歳位でVPに昇格できる。その場合は、基本給が1200~1400万円、ボーナスが200~700万円位となる。だいたい年収でいうと、1600~1800万円位であろうか。
さらに、早ければ13年目、年齢でいうと35歳位からEDに昇格可能となり、基本給が1600~1800万円でボーナスが400~1000万円位となる。
EDに昇格できると、大体年収2000万円越えが達成可能である。
最高位のMDになると、基本給だけで2500万円~、の世界であるが、ここまで到達できるのはわずかである(1~2割位?)。
以上のように、国内系IBDの中では、トップの年収水準にあると言える。
②大和証券IBDの場合
実は、国内系大手証券会社の中で、中途採用に最も消極的なのが大和証券だ。30代、特に課長(大和証券では次長というタイトル)以上でIBDへの転職というのはほとんど聞いたことが無い。
従って、大和証券のIBDの場合は、新卒からの生え抜き社員がほとんどだと思われる。
このため、市況が良ければ入社5年目の28歳位で1000万円位にほぼ到達が可能であり、30代前半に次長(他の会社でいうところの課長)に昇格すると、1200~1300万円くらいとなる。
もっとも、ここから先のアップサイドは厳しく、副部長で1500万円、部長で1800~2000万円程度である。
特に、部長への昇格は容易ではなく、40代以降であるので、なかなか1800万円レベルには到達できない。
③SMBC日興証券の場合
SMBC日興証券のIBDの年俸水準は極めて把握しにくい。
何故なら、旧日興シティ証券(少数だろうが)の社員は外銀IBD並みの水準だし、リーマンショック前に見られた特定専門職或いは近年外資系IBDから移ってきた人達は外銀IBDよりは劣るが総合職社員よりは高給である。
また、三井住友銀行からの出向者も混じっている。
一般の総合職社員の場合には、市況が良ければ、大和証券IBDと同様で28歳位で1000万円程度、30代前半で管理職に昇格すると、1200~1300万円位であろうか。
いわゆる特定専門職の場合には、VPレベルで基本給が1000~1200万円、ボーナスは業績が良ければ基本給と同額位出ることもある。
特定専門職と言っても、業績がイマイチでも外銀のようにすぐにクビになることはなく普通の総合職と同じような雰囲気で働いて給料だけ高くて批判されたりもしている。
このため、三井住友銀行の傘下になってからは、徐々に特定専門職の上限が下がってきているようだ。
なお、SMBC日興証券の場合、退職金が無いというか、その分を織り込んで前倒しで支払っているので、その点については留意する必要がある。
④みずほ証券IBDの場合
みずほ証券の場合も、リーマンショック前から中途採用が多く、年俸水準ははっきりせず、SMBC日興証券同様に、特定専門職は一般の総合職社員とレベルは変わらないにも関わらず給料だけ高くて不公平という見方もある。
とはいえ、業績が特に芳しい訳でも無いので、中途採用の場合でも年俸水準はそれほど恵まれているとは言えず、30代で2000万円というようなケースはほとんど見られなくなったのではないだろうか。
3. 国内系証券会社のIBDに入社・転職するには
①新卒で入社するケース
国内系証券会社の場合、中途採用を昔よりは積極化していると言っても、基本は新卒入社である。
IBDを目指す場合には、大手証券会社はどこもIBDのコース別採用をやっているので、これを目指すべきである。
もちろん、総合職で入社すれば異動でIBDに入ることも可能であるが、それはリスクが高く、新卒の段階でIBDに入っておくべきである。
もちろん、コース別のIBDは一般の総合職コースよりは遥かに難易度が高く、高いスペックが求められる。
早慶以上の学歴は前提であり、英語(TOEIC860以上)或いは留学経験、証券アナリスト資格など、それなりの対応が必要である。
②中途採用で入社する場合
中途採用で入社する場合には、年齢によってハードルが大きく異なってくる。20代、特に25歳位までであれば、職歴・学歴によるポテンシャル採用可能である。
例えば、大手メーカーの経営企画とか企業財務或いはIRにいたような場合である。
他方、20代後半以降になると、IBDの経験が無いとだんだん厳しくなってくる。総合系コンサルファーム(アクセンチュアとかアビームとか)、或いは、外銀IBD疲れの若手が外銀疲れで移ってくるようなケースである。
30代半ば以降になると管理職での転職ということになるので、IBDの経験に関わらず、中途採用の枠がかなり減る。
やはり生え抜き重視なので、いきなり管理職が外からやってくると、生え抜き社員のモチベーションに影響するからである。
もちろん、SMBC日興とかみずほの場合は、野村や大和と比べると、課長以上での中途採用もある程度は見られる。
そして、40歳以上のなると、国内系IBDへの移籍はかなり厳しくなる。
だから、外銀IBDから国内系IBDに転職を考える場合には、30代の内に何とかしたいところである。
③中途採用で入社する場合の転職エージェント選び
国内系証券の場合、新卒採用がメインではあるが、国内系企業の中では積極的に中途採用を行う業界である。この点、転職エージェントへの報酬が掛からないという理由で、転職エージェントを使うよりも採用HP経由で申し込んだ方が良いという意見を聞いたことがあるが、それは誤りである。
何故なら、国内系大手証券会社の場合は基本的に終身雇用なので採用は重要な投資である。また、歴史的にも人材の質に対する拘りは強い。このため、転職エージェント代をケチって、自社採用HP経由の候補者を優先するということは有り得ない。
転職エージェントを使うと、レジュメのチェックや、採用のニーズ、面接で聞かれることなど、多くの情報を入手することができる。また、優秀な転職エージェントを使うと、うまく売り込んでくれたりする場合もある。
このため、外資系金融と同様に転職エージェントを活用する方がベターだ。転職エージェントについては、リクルートやJACの様な大手や、金融分野に強いコトラ、プロフェッショナルバンク、アンテロープ、カナエアソシエイツ、ムービンストラテジックキャリア等を幅広く使うのが良いだろう。リクルートぐらいは登録しているかも知れないが、金融や外資にも強く大手の割には意外に知られていないのがJACなので、大手ではここも登録しておきたい。登録はこちら(JACの公式サイト)
金融に強いブティック系だと少なくとも、コトラとアンテロープにも上記の大手と合わせて登録してチャンスを拡げておくべきだろう。
<コトラ>
<アンテロープ>
4. 留意点
①外銀IBDへの転職はかなり難しいと思った方が良い
国内系IBDから外銀IBDに転職することも勿論可能ではある。
但し、よほど優秀でタフな人材に限定される。いつクビになるかわからない外銀IBDの環境に、国内系から挑戦するのは覚悟がいる。
英語力があるのは前提として、特定の顧客や業種に特別な強みを持つとか、業界でも有名な案件を何度もリードしたとか(単にそのチームにいただけでは不可)、そのようなプラスアルファのある人材であることが必要だ。
外銀のアナリストとかアソシエイトにわざわざ中途採用でなる必要は無いので、転職で外銀IBDに行くならVP以上を目指すべきだ。
ということは、新卒で国内系IBDに入った場合、中途で外銀IBDに入るのはかなり難しいということを認識しておいた方が良い。
②20年後も終身雇用か?
今のところ、国内系IBDは大変恵まれている。
案件は数多く、終身雇用がほぼ約束され、国内系金融機関の中ではトップクラスの年収を確保できる。
しかし、これが20年先も続くという保証は無い。そうなった場合、50歳で国内系IBDで年収1800万円位もらっていたとしても、
リストラをされてしまうと、まず次は見つからない。そうならないように、他の事業会社から執行役員クラスで迎えられるような専門性、人脈を気付いておきたいところだ。
最後に
国内系IBDというのは大変美味しいポジションだと思うが、将来も終身雇用が保証されるわけでは無い。
特に、SMBC日興証券やみずほ証券に、中途で特定専門職として入社し他の社員よりも高給をもらっている社員は要注意だ。
IBDの仕事というのは、格好いが良いように見えても、完全にコモディティ化している。いい案件を仕切ったといっても、それは会社の名前で取れた案件なので、会社という看板が無いと競争力が無いスキルである。
このため、若手の場合は20年後も見据えて、起業やベンチャー転職の可能性などいろいろな選択肢を視野に入れておくのが良いだろう。